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「白河家は当主のことを代々、《白犬》と呼んでる。ちなみに今の白河家当主はこのあたしなの」
あれ? 僕は単なる昔話を、どうしてここまで信じるのかってことを聞きたかったんだけど。
「あんたさ、人の話を最後までちゃんと聞けって怒られたことあるだろ。瞳はまだ説明の途中だ。質問は後にしておけ」
出会ったばかりなのに玉井は僕のことよくわかってくれてるんだね。思わずもう一度、運命だね、なんて言っちゃいそうになるよ。案の定、人の話を聞けって吉行にはしょっちゅう怒られてます、てへっ。
「玉井家当主は《黒猫》と呼ばれているわ。犬と猫は神様の眷属になった時、それぞれ神様から力をもらったの」
「私、《黒猫》の能力は座標交換と人並み外れたこの身体能力。まあ、正確には私は次期《黒猫》なんだけどな」
「座標……交換?」
「座標、つまり位置のわかっている物同士、場所を入れかえることができるんだ。あんたに新しいあんぱんを渡しただろ? あれは座標交換の力を使ったんだ。私の足元の石ころとあんぱんの位置を入れ替えたんだ」
「すごいね! あのあんぱん、このあたりのコンビニにしか置いてないんだよ。よくある場所がわかったね」
「それは……私もあれが好きで時々買いに行ってるから、家にストックがあるんだ……ってそんなことはどうでもいい!」
「ねえ、玉井も『たっぷり二色あんぱん』が好きなんだね! つぶあんとこしあん、どっちから食べようか迷うよねぇ!」
玉井は顔を赤らめながら急に怒り出した。
いいじゃないか、あんぱん! こんな身近にあんぱんアミーゴがいるなんて、僕は猛烈に感動している!
「あの、いいかしら、話をもとに戻しても」
こほん、と瞳が咳払いをした。話がずれてしまったことにご立腹なのか、なんとなく顔が怖い……。
「《白犬》の能力は精神感応と透視。精神感応は、そうね、テレパシーと言ったらわかりやすいかしら。さらにあたしは物に触れることで、過去と現在を透視することができるわ。あたしたちが自分たちを犬と猫の子孫だ、神様の眷属だ、っていうのも……全部『八重之鏡』から過去を読みとった結果よ」
瞳のまなざしは嘘を言っている人間のものじゃない、が。
「えっと……にわかには信じがたい……です、はい」
それが僕の正直な感想。確かに玉井の力を目の当たりにした。だから瞳の言葉に嘘はないと思う。でも……なんだろう。過去を見たって言われても、すんなり信じられないよね。
「これだけで信じてほしかったんだけどなぁ……。やむを得ない。大サービスして、優人くんの過去を読みとってみせましょう! ぱんぱかぱーん!」
ニタァと瞳は笑った。そのねっとりとした笑顔……瞳さん、一体どういうおつもりですか。まるで狼に睨まれた羊のような気分。背後に逃げ場がないとわかっていたけれど、思わず僕は一歩後ずさった。