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「ん? 指輪?」
「あんたが拾ったあの指輪、あれはこの子の指輪だ。あの日、私は奪われた指輪を取り戻し、帰るところだった。そしてあんたと公園でぶつかったあの時、私は指輪を落としてしまったんだ。後で指輪を落としたことに気づいて、公園中を探し回った……が、見つからなかった。だけど、あんたが指輪を持っていることがわかって……昨夜、取り返そうとしたんだ」
「ちゃんと言ってくれれば……黙って返したのに」
それに、もし指輪を拾ったのが僕じゃなくて屈強な男だったりしたら。玉井は捕まってしまって、あんなことやこんなことや、あまつさえそんなことまで強要されてたかもしれないじゃないか! なんて不健全で危険極まりないんだ!
「ちゃんと言えるわけないだろう」
「でも、あんなことしなくったって……あれじゃあ泥棒みたいじゃないか」
「……願いを叶えるためならば、盗み出すことだって、不法侵入だって厭わない。何だってやってみせる」
玉井はいとも容易く言ってのけた。玉井にしてみれば、なんてことないことなのかもしれない。
「それよりさ、よく僕が指輪を持ってるってわかったね。満月で明るかったことは確かだけど、あの暗さで僕の顔が見えたなんて、運命なのかな」
「お前、何言ってるんだ」
今の玉井の表情はよくわかるな。正気の沙汰じゃない、って思ってるんだよね、きっと。
その時、本殿の方から声がした。聞きなれた……小さいときから慣れ親しんだ声。
「ねえ、優人くん。昔話に出てきたのは猫だけじゃない。神様の眷属になったのは……犬も同じなんだよ」
その言葉に、僕の体は固まる。ほんの少しの間、頭の中が混乱した。だけど、すぐに僕は声の主が何を言ったのかを理解する。彼女も……玉井と同じなんだ。願いを叶えるためなら何だってすると言った玉井の――共犯者。
「――瞳?」
「ごめんね、優人くんに秘密にしてたこと、いっぱいあるの。優人くんが指輪を拾ったことをなっちゃんに話したのはあたし。――そしてあたしは昔話に出てくる犬の子孫なの」
そこには巫女姿の瞳がいた。
特別な時じゃないと絶対に巫女の衣装なんて着ないもん! いつか瞳がそう言ってたっけ。……この話はそれほど重要な話ってこと?
あの指輪のことを知っていたのは瞳だけだ。そして……あの時の瞳の様子はいつもと違った。大好きなアイスを退けるくらいに。