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「ふぅん、めでたしめでたし、だね」
それが僕の率直な感想。このあたりの子供たちならだれでも知ってる昔話――犬と猫が飼い主を救った話――だ。
僕と玉井は境内にあるベンチで並んで座っていた。玉井が話し終わるのと同時に、ちょうど蝉の鳴き声がピタリとやんだ。手水舎の、流れる水の音が一瞬、涼しさを感じさせてくれる。
その昔話がどうしたっていうんだろう。コスプレ趣味を隠そうとはぐらかしてるつもりなのかな。僕はそんなことじゃだまされないからね。
「それで、玉井のコスプレとどう関係あるの?」
「はあ? コスプレ?」
玉井は素っ頓狂な声をあげた。
「あれをコスプレと呼ばずして何て呼ぶんだよ。大丈夫、僕は誰にも言わないよ。その代わり、猫以外のコスプレをしたら僕にも見せてほしいな」
「……あんたなんかに話すんじゃなかった」
玉井は盛大にため息をついた。話すんじゃなかった……って僕はまだ何も話してもらってないけど。
「でも顔を見られたからには放置しておくわけにいかない。いいか、よく聞け。この昔話には続きがある。私はさっきの昔話に出てきた……猫の子孫だ」
クエスチョンマークが脳内を飛び交う。
それはコスプレの設定? それとも本気で言ってるの?
「もちろん、こんな話、いきなりされても信じられないっていうのはわかってる。でも本当のことなんだ。信じてもらうしかない」
玉井は真面目な顔をしながらベンチから離れると、本殿の右手にある絵馬掛所の側に立った。
「どこから説明したらいいのかな。さっきの昔話のその後なんだけど……犬と猫は北野山の神様の眷属になったんだ。人間にする代わりに、自分の眷属として人々を助けなさい、そういうことらしい。私たちはここで……まぁ、神様の手伝いをしているんだ。もちろん眷属っていっても万能じゃない。何でも叶えられるわけじゃない。私たちが叶えられる願い事には二つの条件があるんだ」
「願い事の条件?」
「ああ。一つは絵馬に願い事を書いて、ここに奉納すること」
「もう一つは……?」
「もう一つはその願いが、奪われてしまった大切ものを取り戻してほしい……そういう願いであること」
玉井はかかっている絵馬の一つを指さす。僕はそれに近づき、絵馬の裏の願い事を読んだ。
『おにいちゃんにもらったゆびわがかえってきますように さな』
ところどころ、ひらがなが間違えているところがあった。たぶん四、五歳くらいの子の筆跡。神様にお願いするくらいだから、よっぽどその指輪が大事だったんだろう。