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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
告白! 【八月一日 木曜日】
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1

『今は何も聞かないで。昨日、あんたが拾った指輪を返して』


 だから僕は何も聞かず、指輪を返した。黒猫……いや、玉井は去り際、僕にこう告げた。


『――八月一日午前十一時、白河神社で』


 その時にちゃんと説明する、玉井はそう言ったんだ。


 *****


 白河神社は、よくある田舎の小さな神社だ。僕は子供の頃からこの神社でよく遊んでいた。

 石造りの赤い鳥居をくぐり、真っ直ぐ伸びた石畳の道を歩く。常緑樹の小ぢんまりとした森の中、本殿までこの道はのびていて、ひんやりとした土のにおいが漂っていた。

 道の両脇にはいくつも石灯籠が立っている。十五メートルほど歩くと、神社の境内が見え、さらに奥に白河神社の本殿がある。むかって右側には獅子が、左側には狛犬が本殿を守っていた。


 本殿の前で誰かが深々と頭を下げていた。うちの高校の制服を着ている。

 それにしても、近所のお年寄りならともかく、学生がお参りにくるのは珍しい。うちの神社に若い人がくるのは夏祭りの時くらいだよ、と以前瞳が言っていた。

 もしかして、玉井が先に着いちゃったのかな。

 昨日の今日で、正直顔を合わせにくいところもあった。愛の告白した後に、まだ返事を聞けていない……っていうシチュエーション。そんな感じかな。

 まぁ……今の僕たちの場合、ドキドキあまあまな展開とは程遠いけど。


「玉井」


 思い切って声をかけてみたものの、返事がない。頭を上げ、振りむいたその顔は……玉井じゃなく、花野いづみだった。

 玉井だと思って身構えていたせいか、緊張の糸がほどけていくのがわかる。全身の力がスッと抜けた。


「なんだ、花野かぁ」

「なんだ……って。私で悪かったわね、玉井さんじゃなくて」


 花野の毒舌は今日も絶好調。シャープな切れ味は変わらない。お参りを済ませた花野は、早々に僕の前から立ち去ろうとした。


「珍しいね、この神社に学生がお参りにくるのはめったにないって、瞳が言ってた」

「あら、学生が来ちゃいけないのかしら?」

「いや、そういうわけじゃなくて……」


 心なしか今日の花野はいつにもましてとげとげしい。玉井と間違えられたことがそんなに気に入らないのかな。花野は花野、玉井は玉井だよ。僕は二人とも大好きさ!


「何かの願掛け? 僕はここの神様がどんな願い事を聞いてくれるのかは知らないんだけど」

「なんでもいいでしょ。私、急いでるから」


 花野はいらだった口調で話を打ち切り、僕と目も合わせようともしてくれない。不機嫌な花野はそのまま神社を後にした。僕は一人、賽銭箱の前で間抜け面して立ち尽くしていた。

 なんだか花野、怒ってる? 二学期から図書館で僕を起こしてくれなくなったらどうしよう。


「あんたが悪い。人の願い事を聞こうとするなんて、ぶしつけだと思わないか?」


 唐突に背後から声をかけられ、僕の肩がビクリと震えた。

 昨夜聞いたのと寸分たがわぬ声……今度こそ本当の本当に、そこには玉井がいた。


「来てくれたんだ……」

「私が逃げると思ってたのか?」


 玉井はそう言って、本殿に向かって二回礼をし、同じく二回柏手を打った。目をつむりながら手を合わせ、間黙り込む。最後に一つ礼をすると、玉井は隣にいる僕を見上げた。

 正直、玉井は来てくれないんじゃないか、って思ってた。コスプレ趣味のことを人に言いふらすつもりはないけど……やっぱりばれたら気まずいって思うだろうから。


「説明は、する。その後あんたがどうなるかは……あんた次第だ」


 そして玉井はこの北野山に伝わる昔話を、静かな口調で語りはじめた。

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