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「いや、あのさ、ラ、ラジオ聞いてて。ね、寝ぼけて音量ボタン最大にしちゃった……ははははは」
「なあんだ、初美、てっきり今日はお父さんもお母さんも出かけてるからって、お兄ちゃんが過激なえっちぃSMもののビデオを一人でこっそり夢中になって堪能してたのかと思ったよぉ!」
初美は満面の笑みを浮かべ、右手の親指をぐっと立てた。サラッと何をとんでもないこと言ってくれてるんですかっ!
「大丈夫。初美、SM趣味があるからってお兄ちゃんを軽蔑したりしないから! 趣味は人それぞれだもんね!」
「僕はSMに興味ないよ! 実の兄をどんな目で見てるの⁉」
「どんな目って……お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。それより初美、眠いからもう寝るね。お兄ちゃんもえっちぃビデオ、ほどほどにね。おやすみなさ~い」
「だから違うって!」
初美はふぁ……と大口開けてあくびをひとつ、それから手を振りながら僕の部屋から出ていった。
初美の中の「お兄ちゃん」像はどうなっているんだろう。お兄ちゃん、すっごく心配だ。
「んんん~~~!」
初美が僕の部屋から出ていくと、僕の体の下で黒猫さんがうなり声をあげた。そうだ、今は初美の心配をしている場合じゃない!
初美が明かりをつけていったおかげで、黒猫さんの姿は蛍光灯の明かりのもと、はっきりくっきりと晒されていた。
暴れまくったせいか、黒猫さんの目元にあるマスクははずれかかっている。黒猫さんはそのことにまったく気づいていない。僕はごくりと息を呑み、黒猫さんのマスクに手をかけた。
「……っ!」
ふいを突かれた黒猫さん。顔を隠そうと、両手で顔を覆うも、時すでに遅し。僕は黒猫さんの顔から、マスクを素早く剥ぎとった。
「え……?」
それは……僕が見知った人だった。
僕に顔を見られ、余計な抵抗は無駄だとあきらめた彼女は射抜くように僕を見つめた。
「どいてくれない? 重いんだけど」
「あ……ごめん……」
僕は体をずらし、彼女を解放した。体を起こした彼女は、乱れた髪を整え始める。
頭が混乱している。どうして彼女がここにいるんだ?
「玉井……」
僕は目の前にいる「黒猫さんだった人」の名を呼んだ。