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「ふんん~~~っ!」
離せ、と言ってるのか、黒猫さんはくぐもった声をあげた。
「コスプレを楽しむのはいいけど、不法侵入はよくないよ。ちゃんとした服に着替えて、早くお家に帰ったほうがいい。Tシャツとジャージくらいなら貸すからさ」
「ふんふん~~~っ!」
変態って言っているように聞こえるのは僕の気のせい?
黒猫さんは手足をばたつかせて最後の抵抗と言わんばかりに暴れ始めた。
「ちょ……! 変なことは何もしないってば!」
その小柄な体の、一体どこからそんな力が出てくるんだろう。黒猫さんの口を抑えつけていた僕の手がつかの間、ゆるんだ。
「がぶっ!」
「いっ……!」
黒猫さんが僕の手に全力でかみついた。こっちがせっかく穏便に話を進めようと思ってるのに……!
僕は黒猫さんの動きを封じこめようと、黒猫さんの肩に右手をのばした。
その時、悪あがきをする黒猫さんが僕の手を思いきり払いのけた。
「いい加減にっ……!」
僕の右手はそのまま黒猫さんの胸にまっしぐら。
……そんなつもりなんてなかったんだ。ただ、黒猫さんがあんまりにも抵抗するもんだから、着地点がずれたといいますか。
僕は自分の手の位置を確かめるように、グッと力を込めてそれをわし掴んだ。僕の右手にはささやかながら、しかし確かな感触があった。低反発のまくら程度には柔らかい。
黒猫さんはピタリと抵抗をやめた。しばしの沈黙の後、黒猫さんが大きく息を吸いこむ音が聞こえ、そして……。
「いいい、一体いつまで人の胸触ってるんだ! この変態~~~!」
「なっ……!」
僕は急いで黒猫さんの口を手で押さえた。侵入者のくせに大声出してどうするんだよ!
「お、お兄ちゃんどうしたの!」
黒猫さんが叫ぶやいなや、初美が僕の部屋に押し入り、明かりをつけた。その手には金属バットとおぼしき……凶器が握られている。
「は、初美!」
「お兄ちゃん、今、ものすごい叫び声が聞こえたんだけど!」
僕たちと初美との間にベッドがあったおかげで、初美には黒猫さんの姿が見えていないみたい。僕はベッドサイドから頭をひょいとのぞかせ、早口でまくしたてるように初美に言い訳した。