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――カタン。
僕は物音で目を覚ました。結局瞳のことが気にかかってなかなか寝つけずにいた。ベッドに入って小一時間、ようやくうとうとし始めたところだったのに。
――カタン。
また同じ物音。眠気はすっかりどこかへ飛んでいってしまった。
――トン。
僕は薄く目を開けた。窓際に誰か、いる。月明かりに照らされて、そこに誰がいるのかはっきりとわかった。
侵入者の頭には、公園で見たものとよく似た猫耳がついていた。……昨日の、黒猫さん?
黒猫さんは僕が起きていることにまったく気づいていないのか、こそこそと僕の部屋を物色し始めた。僕の勉強机の引き出しを上から順に開けては閉めている。
僕のコレクションが入ってる引き出しだけは開けないでね。何のコレクションって……言うまでもないよね。
机の次はそのそばにある鞄を、その次はクロゼットの中にある僕の制服のポケットを。黒猫さんは僕の部屋のものを次々と探っていく。何を探してるんだろう?
僕は薄く開けていた目を固く閉じ、狸寝入りをしながら考えた。
こんな風に簡単に部屋へ侵入してくるくらいだ。この手のことは馴れているのかもしれない。コスプレごっこはいいけど、不法侵入はよくないよ。
できれば黒猫さんとは良好な関係を築きたい僕は、事を荒立てずに済ませたかった。でも、どう行動に出ればいいのか、見当もつかない。
その時、ギシッとベッドが軋んだ。黒猫さんの影が僕の顔に落ちる。
な……なんで僕のベッドにあがってくるの⁉ まさかこれが夜這いってやつ……⁉
僕は胸を高鳴らせて、再び薄く目を開けた。
黒猫さんは僕の上にまたがって仁王立ちになっていた。足場が不安定なせいか、少しぐらついている。そして黒猫さんの手には……ひも状のものが握られていた。
まさか……ロープで僕を縛る気⁉ 黒猫さん、結構ハードなのが好みなの⁉
黒猫さんは息を殺して、僕をひっ捕らえるタイミングをはかっている。このまま黙って縛られるわけにはいかない。だって僕はどちらかというと縛られるより縛るほうが好きなんだ!
どちらが先に動いたかはわからない。でもそれは一瞬のことだった。
黒猫さんが僕の体にロープをかけようとした隙を狙い、僕は体を横に滑らせた。僕の体に押されて、黒猫さんが体勢を崩す。黒猫さんはベッドサイドにあおむけに倒れこんだ。
「いったぁ……」
頭を押さえる黒猫さんの上に僕はすかさず覆いかぶさり、その手からロープを奪う。そして黒猫さんの手の届かないところにロープを放り投げた。抵抗される前に、僕は素早く黒猫さんの手首と口を抑えこむ。
「夜這いはうれしいんだけど、ものごとには順序があるんだ。あと僕は縛られるのはあまり好きじゃない」
こんなときこそ紳士的に! やっぱり何事も話し合うのが大事だと思うんだ。僕は黒猫さんの耳元で囁いた。