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愛玩ファントム 〜真夏の夜のエトセトラ〜  作者: 山石尾花
正体! 【七月三十一日 水曜日】
13/100

4

 *****


「朝から佐々木くんと優人くん、二人とも先生に怒られたんだって? うちのクラスまで噂になってたよ」


 瞳はおかしくてたまらないといった様子で始終笑いころげていた。


「しかも夏休みの宿題のことで佐々木くんと言い争ってたんだってね。休み中、あたしの家で一緒に宿題やろうよ。お父さんも優人くんが来ると、きっと喜ぶよ」

「う~ん、考えておく」


 瞳と宿題をやるとはかどる。それに瞳の教え方はとても解りやすい。

 僕が「うん」と即答できない理由はただ一つ。瞳の家に行くと決まって瞳オリジナルのお菓子がふるまわれるからだ。僕はまだ死にたくありません……!


「今日はどうする? 辻屋寄ってく?」

「ちょっと待って」


 今月、お財布がピンチなんだな~。もう寄り道するお金も残ってないかも。

 僕は財布の中身を確かめようと、鞄に手を突っ込んだ。その拍子に、鞄の中からチャリンと何かが転げおちた。


「優人くん、何か落ちたよ」


 瞳は足元のそれを拾いあげた。鞄から落ちたのは、昨夜拾ったおもちゃの指輪だった。なんとなく肌身離さず持っていたくて、登校前、鞄に入れたのを思い出す。


「あ、ごめん。拾ってくれてありがとう」

「優人くん、この指輪、どうしたの?」


 やけに真剣な表情で瞳が僕を問いただす。もしかして、女装趣味なんて疑いがかけられてるのかな。それとも嫉妬?

 僕は瞳の手から指輪を受けとった。


「それ、偶然拾ったんだ。ほら、この先の公園で。僕たちが昔よく遊んだ、あの公園だよ」


 瞳は僕の手にある指輪を穴が開きそうなほど見つめていた。


「どうしたの? 見たことあるの?」

「う、ううん、見たことないよ。ただきれいな指輪だなって」


 瞳は何でもないといった風に、自分の目の前で手を振った。

 ……瞳になら昨夜のことを話しても笑われないかな。


「昨夜、公園で変な子に会ったんだ。猫耳つけた子。黒猫さんっていうんだって。背格好は小学生くらいかな? 小柄だったし。このあたりもコスプレする子、いるんだね」

「猫耳の、黒猫……?」


 瞳は怪訝そうに眉をひそめた。そりゃそうか、急に猫耳の子に会っただなんて。夢でも見てたんじゃないか、って言われるのがオチだよね。


「信じてもらえないかな。その子が落としたのかはわからない。でも、その子がいなくなった後にこの指輪が落ちてたんだ」

「へえ……」

「この指輪持ってたら、またあの子に会えるんじゃないかなって。ちょっぴり期待してるんだ」

「そ、そっか……」


 よっぽど僕の話が妙だったのか、話を聞く瞳の顔は曇っていた。なんだか悪いことをした気になり、会話が途切れてしまう。

 僕は財布の中身を確認した。お金は……少しならある。ここはひとつ、元気のない瞳さんにアイスでもごちそうしてあげようかな。


「アイス、おごるよ。今日は変な話聞かせちゃったからさ」


 僕はここぞとばかりにキメ顔で瞳を誘った。が、呆気なく撃沈するハメになる。


「おごってくれるなんて珍しいね。でもこの後、用があったの忘れてたよ。ごめんね、今日はもう帰るね」


 瞳は困ったような顔をすると、僕が止める間もなく、そのまま走り去ってしまった。

 あれ? いつもなら食べ物のことになると、喜んで食いついてくるはずなのに……おかしい。普段おごることのない僕からの誘いを怪しんでる?


 他にも聞いてもらいたいこと――黒猫さんの不思議な力や人間離れした身体能力――はあったけど、それについては一言も瞳に話すことができなかった。

 とりあえず、財布のピンチは回避できたからいっか。やっぱり慣れないことはするものじゃないね。反省。


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