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僕のクラスは高等部二年三組。教室に着くと大半のクラスメイトが集まっていた。僕は窓際にある後ろから三番目の席に荷物をおろした。ここが僕の席だ。
「朝から浮かれてるな、親友」
「そうかな、むしろちょっと疲れたよ、親友」
僕に声をかけてきたのは親友の佐々木吉行。黒縁めがねで、いかにも優等生です~ってやつだ。
初めて同じクラスになったのは中学二年の時だった。いつだって冷静沈着。頭もよくて、渋りながらも宿題のノートを見せてくれる神様のようなやつだ。本当、感謝してます、佐々木様。
……一つ気に入らない点というと、俗に言うイケメンってところかな。イケメンめ!
「お前、夏休みの宿題、ためんなよ。今回はノート見せてやるつもりねえからな」
吉行が僕の前の席に座った。眼鏡の向こう、眼光が鋭い。
「え~、そんなこと言うなよ。夏休みは忙しいんだよ」
「最初から、見せてもらう気満々だな! ちゃんとやれ、死ぬ気でやれ」
「神様、仏様、吉行様~~~! どうかお願いします、見せてください~」
僕は吉行の足元に土下座した。男ならプライドを捨ててもやらなきゃいけないときがあるんだよ!
「やめろ! そんなこと言われてもぜってえ見せねえからな!」
吉行は足元の僕を追い払おうと、シッシッと手を払った。離れるものか、意地でも離れるものか! 僕の悠々夏休みライフは吉行のノートにかかってるんだから!
「あのさ、朝っぱらコントするのはいいんだけど、号令聞こえてるの?」
「え?」
「あ?」
呆れ口調で花野が僕たちに告げた。吉行と二人、グルリと教室を見回す。起立せずに馬鹿話をしているのは僕たちだけだった。
「あ、あれれ~?」
教壇に立っている担任が咳払いをして僕たちを睨みすえた。はげ散らかした頭は上気し、汗の玉が光っている。
「終業式の後、お前ら二人だけで教室の掃除をしてから帰れ」
担任からの最後通告。僕と吉行は顔を見合わせた。
「はい」
「はい」
朝からほんとについてない。疲れは三倍増になって僕の肩にのしかかった。