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僕は結局一晩中、パソコンに齧りつきだった。もちろん、昨夜出会った黒猫さんの画像をせっせと検索していたんだ。
でも一枚も見つからなかった。正確に言うと、昨夜の黒猫さんの画像は見つからなかった。
コスプレイヤーの黒猫さんは全国に何人もいるみたいで、お相撲さん体型の黒猫さんや、筋骨隆々の黒猫さんの画像は嫌というほど見つかった。……むちむち巨乳の黒猫さんもいらっしゃったり。むちむち黒猫さんの画像は、僕の秘蔵フォルダにありがたく保存させていただきました、ごちそうさまです。
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開けはなたれた窓からは、爽やかな夏の風が吹きこんでいる。そよぐカーテンの隙間からは朝日が差しこんでいた。
僕はベッドに体をこすりつけた。枕に顔をうずめ、目覚まし時計がけたたましい音を立てるまでの短い時間を楽しむことにした……。
「お兄ちゃん、おはようおはようおっはよう~~~!」
憎らしいほど明るく、かつ乱暴に僕の部屋に侵入してきたのは、この春中学二年生になった、三つ年下の妹、初美だ。
「おはようの~~~、ダ~~~イブッ!」
「ぐええぇ」
初美は僕のベッドめがけてダイブした。もちろんカエルの潰れたような情けないこの声は僕の声。
初美は僕の上にまたがり、僕の体をひっきりなしに揺さぶった。朝から初美の金切り声プラス揺れは……かなりキツい。
「お兄ちゃん、早く着替えてよ! 今日は終業式だよ! 夏休み、はっじまっるよ~!」
夏休みに入るのがそんなにうれしいのか、初美のはしゃぎようは常軌を逸していた。……とりあえず初美ちゃん、僕の上からどいてくれないかな?
「ほら、早く起きてってば!」
初美は無理やり僕からタオルケットを剥ぎとり、ついでに僕のTシャツもむしり取ろうと裾に手をかけた。
「ちょ……ちょっ……自分でできるって! っていうか着替えるから出ていって! もう!」
僕は顔を赤らめながらギュッと胸元を抑えた。ここまで積極的だといろいろ将来が心配だよ。
「え~、そう?」
初美はポリポリと頬をかいた。そして僕の上から渋々といった風に下り、部屋の全身鏡を覗きこみながら、短く切った髪の毛を手ぐしで直している。兄妹揃ってくせ毛に悩まされるなんて……瀬野家の血の濃さを感じるよ。
「じゃあ初美、朝ご飯食べながら待ってるね~」
初美はピョンと跳ねると、来た時と同じく破壊神顔負けの勢いで扉を閉め、慌ただしく階段を駆けおりて行った。
その瞬間、目覚まし時計がジリリと盛大に自己主張し始めた。僕の朝の平穏な時間はどこに行ったんだろう……。
僕はため息をつき、Tシャツを脱ぎすてた。