むかしむかし、あるところにおじいさんと小さな娘さんと年老いた犬と猫がいました。二人と二匹はとても仲がよく、貧しいながらもそれはそれは幸せに暮らしていました。
いつまでも続くと思っていた日々。そんな幸せな日々も長くは続きませんでした。おじいさんが流行り病で倒れてしまったのです。
娘さんは毎日町へ出ては、おじいさんの病を治す薬を探し回りました。
日に日に弱っていくおじいさんを看病しながら、娘さんは涙を流し、神様におじいさんが元気になりますようにとお祈りしました。犬と猫もそれを見て、同じように神様にお祈りするのでした。
ある日、いつものように薬を探しに村へ出た娘さんに、一人の商人が声をかけました。流行り病の薬を持っているというのです。その薬を飲むと、たちまち病気が治るとのことでした。
娘さんはそれを聞いてとても喜びました。しかし、家は貧しく、高価な薬を買うお金などとてもありません。商人はお金の代わりに、娘さんが大切に持ち歩いていた手鏡と交換したいといいました。娘さんはどうしようかとためらいました。
この手鏡は死んだ母の形見……でもおじいさんの命には代えられません。娘さんは鏡と薬を交換することを決心しました。
すぐさま娘さんは薬を持って、家に帰りました。布団で横になっているおじいさんに薬を飲ませます。これでおじいさんもすぐに元気になる……娘さんは安心しました。
ところがおじいさんの病気はよくなるどころかどんどん悪くなり、数日後息を引き取ってしまいました。
娘さんはとても悲しみました。犬と猫もとても悲しみました。娘さんは悲しみにくれ、床にふせってしまいました。
実は商人が持っていた薬は流行り病の特効薬などではありませんでした。
それを知った犬と猫はたいそう怒りました。
寝込んでしまった娘さんに元気になってもらうにはどうしたらいいのか……おじいさんは帰ってこないけれど、せめて手鏡を商人から取り返そう、犬と猫は心に決めました。
犬はくんくんと鼻を鳴らし、鏡が隠されている場所を突き止めました。
猫はぴょんぴょんと体を滑らせ、鏡を取り返しました。
鏡を盗まれたと怒った商人は、二匹を追いかけました。二匹はどこまでもどこまでも走りました。ついに商人はくたびれ、二匹を追いかけることをあきらめました。二匹は命からがら商人の元から逃げ出すことができたのです。
犬と猫は倒れそうな体を引きずりながら、娘さんの待つ家に帰りました。そして眠っている娘さんの枕元にそっと手鏡を置くと、そのまま娘さんの家を出ていったのです。
二匹はずいぶん年老いていました。そしてたくさん走ったことで、力を使い果たしてしまいました。二匹はもう自分の命が長くないことを知っていたのです。
娘さんに自分たちの弱った姿を見せまいと、二匹は北野山の森の奥へと身をひそめました。そこでひっそりと最期の時を待ったのです。
それを見ていた北野山の神様、二匹のことを気の毒に思い、何か願い事がないかと尋ねました。
二匹は神様にこう答えました。娘さんがこれ以上さみしい思いをしないように、人間に生まれ変わって娘さんと一緒にいたい、と。
神様は願いを叶え、二匹に人間の姿を与えました。喜んだ二人は娘さんのところへ飛んでいき、ずっと三人で仲良く暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし……。