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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
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廻り始める歯車

         ☆


 あれから数日が経った。ここ何日かでのニュースと言えば忍田も寮暮らしになったことくらいだろう。「これで拙者も毎日の辛い早起きから解放されたでござる!」とか言ってた。すげーどうでもいい話だが。


 閑話休題(それはともかく)


 ようやくこの学園での生活に慣れ始めた俺は今日の授業を終え、寮へと向かう。


 今日の授業で最も辛かったのは体育だ。いくら体鍛えてもビームなんて出せるわけないだろ。修行してビームとかどこの武闘家だ。

 授業が辛いなら聞かなければいい、とは思うがそうするとテストが厳しい。なにか上手くいく手はないものか。


 それにしても最近誰かにストーキングされてる気がする。ストーキングされてるなんてまさに中二病のような発言だが、つけられるくらいなら妄想の方がマシだ。


 しかし、そんな俺の願いも虚しく校舎を出て、少し歩いたところで俺は異変に気付いた。


 誰かの視線を感じる。俺につきまとう奴なんて忍田くらいしか浮かばないが、あいつは恐らく白だろう。あいつはオープンでつきまとうからな。こんなオブラートに包んだようなストーキングはしない。


 そんなことを考えている間に寮へ着いてしまった。階段を上って自分の部屋へと向かう。相変わらずストーカーの姿は見えないが俺に対する視線は一向に消える予兆が見えない。


「誰が付けてるのか知らないけど」


 俺は部屋へと入ると急いで扉を閉めて鍵を施錠した。


「これでよし」


 いくらストーカーでもこの鉄の扉より先へ進むことはできないだろう。

 対策、という程ではないが施錠により万全。今の俺の部屋はまさに金城鉄壁となっている。


 すっかり安心した俺は薬缶に水を注いで火をかけた。何でかってココアが飲みたかったから。

 なぜかこの学園の自販機にはブラックコーヒーしか売ってないし。


 この学園では、ブラックコーヒーを飲めるのが当たり前でどこへ行ってもブラックコーヒー。購入者が選択できるのは「あったか〜い」か「つめた〜い」かの二択だけだ。



 ——ピンポーン。



 ん? 来訪者か? 誰だろう。出て行きたいのは山々なのだが、今の俺はココアを作ることに全てを注いでいる。あと少しだけ待ってくれ。



 ——ピンポンピンポーンッ!



 チャイムが荒々しくなった。どうやら来訪者の気は短いらしい。この学園でそんな気の短さでこの先過ごしていけるのだろうか。

 いじめ……は無さそうだが、能力は〜とか言ってるやつらを敵に回してもいいことないぞ。


 いやでもこの学園、血の気の多いやつがたくさんいそうだからなぁ……。


 開けてヤクザみたいなやつがいたら困るので一応一言断っておく。


「少し待ってくれー!」


 ココアパウダーを入れたカップにお湯を注ぐ。順番? 味は変わらないでしょ。


 カップをかき混ぜて──よし、ココアが出来上がりだ。ココアからは湯気共に甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 俺は出来上がったココアを飲もうと口にカップを近づけ──



 ——ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーンッ!



「っ⁉︎ はっつ(あっつ)!? ひたがっひたが(舌がっ舌が)!」


 驚いた拍子に熱々のココアが勢いよく口の中へ飛び込んでいき、文字通り焼けるような痛みが口内を襲う。確認することこそないが舌周りはむごたらしいことになっていることだろう。


 冷蔵庫の自動製氷機から作った氷を口へ含むという応急処置を済ませると俺は玄関へと向かった。


「ったく、誰だよ。はいはい、今開けますよ。ってあれ?」


 扉に付いているドアスコープから外を覗いてみても誰をいない。イタズラか?

 探偵とか称して一件一件回ったりする中二(バカ)がいそうだからなあ。扉に『バカお断り』の貼り紙を貼る準備をしといた方がいいのかもしれない。


 にしても誰だったんだ? 今からなら探偵──元い犯人が見えるかも。

 俺は周囲に誰かいないか確認する為に扉を──開けてしまった。


 これが最大の悪手だとも知らずに。


「ん? はっ? んあっ!?」


 ラノベ風に表現するなら、『まさに一瞬だった』が正しいだろう。


 今起こったことを何の誇張もせずに一から説明すると、

 ん?(扉を開けた途端、そいつは俺が閉めるという動作に及べないように扉をがっちりと掴む。)

 はっ?(そいつの正体が判明する。)

 んあっ!?(俺の一瞬の隙を突き部屋に侵入する。)


 すごいだろ? これがほんの数瞬の間に本当に起こったんだぜ?


 一見すると強盗のような鮮やかな手口で普通ならば全力で逃げるか、警察に電話するか。


 でも、見知った顔なんだよなあ……。


 そいつは俺の部屋──リビングで仁王立ちをしていた。

 俺も部屋へ入り、ちょうど良い温度にまで冷めたココアを飲みながらそいつに尋ねる。


「ココア飲むか? 姫野さん(、、、、)


         ☆


「ほらココア」


「ん」


 リビングにあった椅子に腰掛けた姫野さんは俺からココアを貰うと猫舌なのか、「ふーふー」と息を吹きかけて冷まそうとする。その様子は彼女の容姿レベルの高さと、普段無機質なところしか見せないという点も相まって、見ていて幸せな気持ちに──って駄目だ。騙されたらいけない、さっきのことを思い出せ。突き詰めていけば口内が阿鼻叫喚の地獄絵図になったのもこいつのせいだ。


 ……まあ、もう治ったけどね。


 本題に入ろう。俺はどうしてこの部屋へ突入してきたのかを探る為、本人に接触を試みた。


「姫野さん?」


 ガン無視。ファーストコンタクトは失敗しました。


「あのー……。姫野さん、だよね?」


 すると普段の気の強そうな目が1.5倍増しになり、まさに「キッ!」という擬音が聞こえてきそうな目で俺を睨んできた。正直すっげー怖い。


「私、さん付けされるのぞわぞわするから嫌なのよね」


「す、すみません」


 こいつ普段クラスで取る態度と全然ちげえ。というかなんで不法侵入してきたやつに謝ってんだ?


「本日のご用件は?」


 ──キッ!


 また睨まれた。今俺のできる最高の対応だったぞ?


「敬語辞めなさい」


「どうしてでございましょう?」


 ああ、こんなにもあなたのことを敬っているのに、どうしてっ?


「完全にバカにした敬語だからよ」


 バレた。


「わかり…いや、わかった」


 鋭い眼光が飛んできたので急いで訂正する。いきなり押しかけてなんだこいつ。

 このままだといつまでも続きそうだったので、俺は早速切り出した。


「で、何の用だ?」


「それなんだけど」


 刺々しい雰囲気を解いた姫野は真剣な表情になって言った。ようやく本題に入れそうだな。


「このことは他言無用でお願いね」


「あ、ああ」


 今日初めて会った奴に何を伝えようとしてるんだ。中二病に舐めてかかると痛い目見ることは学習済みだ。最悪「そうだね」と「へぇ」という二つのカード(伝家の宝刀)を多用して切り抜けることも想定しておかねばならない。


 俺は十手先まで予測する。……今姫野とオーストラリアへ出かけるプランを立てるところまで予測できた。今の俺に死角はない!



「私──」



 いや待て、まさかの告白パターンか? やばい、そっち方面の予測は──



「中二病じゃないのよ!」



 してな…は? あれ耳がイカれたかな? もう16年間も使い続けてるからな。そろそろガタが来てもおかしくない時期かもしれない。


「ごめん姫野、もう一回言ってもらっていいか? 次までには耳部を交換しておくからさ」


「脳味噌も交換してもらったほうがいいんじゃないの? 私は中二病を発症してないって言ったのよ」


 あっれ? 姫野の言う通り脳の方にもガタが来てるかも。俺は壁に頭を何度も叩きつける。


「ちょっ⁉︎ 何やってるのよ⁉︎ 私の話を無視しないでよね!」


 まさか……本当なのか? だとしたら姫野は世界で二人目の非発症者となる。まさに世界を揺るがす大ニュースだ。


 あれ? でも一つだけ気になる点が。


「なんでそんな格好してるんだ?」


 そう、片眼鏡。その圧倒的な存在感は彼女が中二病であるということを物語っていた。


 姫野は俺の視線に気付いたのか「ああこれ? 確かにここでも付ける意味はないわね」と片眼鏡を外す。そして今まで開かれたことのなかった左目が開かれると、そこにはサファイアのような蒼い色彩を纏った眼が正体を現す。いわゆるオッドアイというやつだ。


「もちろんカラコンよ? 『見切りの魔眼(シー・スルー)』っていう設定があるしね」


「設定って……!」


 自己の能力を設定と簡単に言い切りやがった。こいつは中二病ではない(本物だ)


「じゃあ俺じゃなくて大人に言えばいい話だろ」


「誰が進んで研究所に幽閉されたがると思う? あんたくらいよ」


「……ごもっともだ」


 彼女は「で、」と言った後に続ける。


「入学して僅か数日。だけどもう私はギブアップ寸前だわ」


 今の話が本当なら当然だろうな。俺でさえこの生活には相当の精神力を消費してるんだ。無理矢理キャラ作りしている姫野(こいつ)は俺以上に頭が痛い状態だろう。でも何で俺のところに?


「だからね、同じ仲間に愚痴れば少しは楽になるかなぁ〜、と」


 つまりそういうことだ。こいつは俺で日頃の鬱憤を晴らそうとしているのだ。

 こいつ、中二病患者たちとはまた違ったベクトルでめんどくせえ……。だが、これは授業でもなんでもない。


「俺がそれに協力してやる義理は?」


 俺だってギリギリの生活なんだ。こいつに構っていたらそれこそ先ほど言ったように頭破れる。

 だが、姫野はどこか己の勝利を確信しているようだった。正直嫌な予感しかしない。


「そう言うと思ったわ」


 姫野は不敵な笑みを浮かべると制服の内ポケットから数枚の写真を取り出した。それを「あー落としちゃったー」とわざとらしい演技で俺の方へ落とす。


 何が写ってるんだ?一番手前に落ちた写真を一枚拾って見てみる。


「これは…」


 そこに写っていたのはパンツ一丁という裸も同然の格好をした男の写真。ただ顔の部分にはモザイクがかけられている。


「誰だ? このモザイク男」


 姫野ははぁ、とこめかみを押さえる。


「現実逃避するのはやめなさい。モザイクなんてかけてないわよ。どう見てもあんたでしょ」


 こいつは何を言ってるんだろう。あれ? この写真に写ってる男の首元に特徴的な黒子があるな。俺と同じ位置じゃん。

 この男を不憫に思いながらさらに写真を眺めていると──


 そういえばこのパンツ、俺とお揃いのものだ。この同調(シンクロ)率、こいつとは気が合いそうな予感がする。ぜひ会ってみたいな。それにこいつの指先、絆創膏が貼ってあるじゃん。この前初めて自炊しようとして俺も指先切っちゃったんだよね。凄い偶然もあったものだなぁ。


 ………………。


「嘘だああああぁぁ!」


「観念しなさい!」


 他の写真も確認する。これはこの前コンビニで成人向け雑誌を立ち読みしてたときの写真でこっちは俺が弁当を持って便所へ入っていく写真だ。なんでこんなにも俺の私生活が盗み撮りされてんの!?


「私の頼みを聞いてくれないとこの写真が学園中に流失しちゃうかもしれないなー」


 うるせえよ! その演技が俺のイラつきに拍車をかけてんだよ!

 まあ、姫野の圧倒的理不尽さの前には何もかもが無力であり、俺は泣く泣く承諾することしか道は残されていなかった。いつか絶対に下克上してやる。


「やったわ! ここ最近あんたを尾行したかいがあったわね。まあ、『見切りの魔眼(シー・スルー)』の名は伊達(だて)ではないということかしら」


 それを聞いてハッとする。ここ最近俺を悩ませていた原因の一つであるストーカー野郎。それは──


「お前かああああぁぁ!」


 その後、周囲の部屋から近所迷惑だとの苦情が入ったので一人一人に謝りに行く羽目になった。姫野? もちろん先に帰ったよ。

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