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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
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授業開始と嬢王様

         ☆


 その後の休み時間、やはりと言うべきか姫野の周りには人集りが出来ていた。

 その中心にいる姫野はというと涼しい——というよりは無表情でクラスメイトたちの質問に短く受け答えている。


「っと。そんなことよりも最初の授業は…国語か」


 俺は鞄から一度も使われていない新品の教科書を取り出した。何度も表紙を確認して。


「やっぱりこれだよなぁ……」


 國語(こくご)壱。そう表紙に書かれた漆黒の教科書は開くことさえも躊躇(ためら)わせる雰囲気を醸し出している。

 どうしてこれが審査を通ったのか、そもそも売り出そうと思ったのか不思議でならない。


「はぁ……」


 どうしたものかと考えていると休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、またアノニマスマスクをつけた教師が入ってきた。どうやら、りのりのではなく別の教師らしい。


 この学校を卒業する頃には歩き方や身長だけでどんな先生かわかる、という一生使うことのない無駄な能力を得ていることだろう。


『号令〜。あ、まだ決まってないのか。じゃあやりたい人いる〜?』


 生徒たちに問いかける。まあ、普通そんな面倒な係は嫌だよな。


「「「「「はいっ!」」」」」


 俺以外の全クラスメイトが手を挙げた。


 俺はお前らの考えていることがわからない!


『うーん、じゃあ皆んなよりも少し手を挙げるのが早かった忍田さんにお願いしようかな〜』


 決め方雑だな、小学校かよ。しかもちゃっかり忍田が任命されてるし。


 号令係になるメリットって一体何なんだ? 内申点が上がる訳でもなかろうに。


「チッ! 俺がクラスの指揮を執りたかったのにっ!」


「忍田…。奴はクラスの中では頭一つ抜きん出た存在となったな」


 あーなるほど、わからなくもない。要するにこんな感じでクラスカーストが決まっていくのか。ならば俺は最下層という立場を甘んじて受け入れよう。


「起立!」


 忍田の声で、全員が一斉に腰を上げる。これこれ、これが学校って感じ。

 この後は礼をして着席。久しぶりだから少し緊張するな。間違えたら明らかに浮きそうだし。

 俺は忍田の声を聞き逃さないようにしっかりと耳をすませ、礼に備えた。


「頭が高い! 控えろ〜!」


「「「「「はは〜」」」」」



 …………は?



 他の奴等は平身低頭のポーズをとり、俺だけが取り残されて立ち尽くす状態。


 なんだこれ。もう一度言う、なんだこれ。


「おもてを上げぃ!」


 その言葉で全員が頭を上げて席に座っていく。なんでお前らこの馬鹿の言葉に咄嗟(とっさ)に反応できるの?


『は〜い。それでは授業を始めますよ〜』


 てめぇも何か言えよ。


「先生」


 そこで氷帝、元い枝野君が手を挙げる。もしかして俺以外にもこの号令に不満が?


『どうしたの?』


「教科書忘れてしまいました。予備を貸していただけますか?」


 あーいるよな、クラスに一人はこういう教科書忘れてくる奴。あれ結構恥ずかしいんだよな。だからなんでこいつがこんなにも堂々としてるのかは全く理解できない。


『次からは忘れないでね? はい、どうぞ〜』


 先生は片手サイズの本を手渡す。


 ん、あれどう見てもライトノベルだよな? なんで教科書じゃないんだよ。


『じゃあ教科書の50ページを開いてね〜。枝野君は125ページ』


 俺は恐る恐るその禁書目録(教科書)の50ページ目を開く。


「こ、これは……?」


 そこに書かれていたのは——


「まんまラノベじゃねぇか!」


 おっといけない、思わず口に出してしまった。先ほど枝野にラノベを渡したことってそういうことか。


 先生は『そうなの!』と俺の言葉に反応すると黒板にまだ長いチョークで何かを板書し始める。


『面駅君の言った通り、これは大人気ライトノベル、『ファンタジーライフ』の一節です。この小説を知らない人はいませんよね?』


 まあ、俺でも知ってるほどに有名な超大作だ。読んだことはないけど。


『『ファンタジーライフ』は国内累計販売部数が千万部、海外を含めると二千万部を突破する超有名小説なのです。あ、ここテストに出すからね〜』


 クラスメイトたちは早速ノートに黒板に板書されたことを書き写し始めた。


 これ本当に国語か? 本当にこんな感じでいいのか⁉︎


 疑問を覚えつつ俺もノートに書き写し始める。あっ、消された。早いだろ!


 その後も先生が本文を読んで説明、黒板に板書という流れで授業が進んでいく。


『姫野さん、五十ページ十行目ヒロインの「ほんっと鈍感なんだからっ!」というセリフ。このときの気持ちを答えて下さい』


 女の子の気持ちか。女子じゃないから考えづらいな。うーん、早く自分の気持ちを察して欲しい、みたいな感じか……?


 姫野さんは少し考える素振りを見せた後、はっきりとした声音で言った。


「素直になれず、はっきりと思いを伝えることができないヒロイン。それでも勇気を振り絞って少しずつ思いを伝えていく。しかし、そんなヒロインの気持ちとは裏腹に全く自らの思いに気づいてくれない主人公。そんな主人公へのもどかしい気持ちと、素直に思いを伝えることができない自分への怒り。そんな混同した二つの気持ちだと思います」


 おお! それっぽいぞ! 果たして答えは…。


『うーん、違うかな〜』


 違うんかい。姫野さんの顔はここからでは見えないが耳が仄かに赤く染まっている。堂々と言い放ったからなぁ。


『じゃあ他にわかる人いる〜? わかった人は挙手して下さい』



「「「「「はいっ!」」」」」



 俺以外の男子全員。まじか、俺にはさっぱりだ。


『男子の皆さんはわかっているみたいですね〜。じゃあ一斉に言ってもらいましょうか。せ〜〜の!』



「「「「「リア充、死ねばいいのに!!!」」」」」



『大正解ですっ』


 気持ちってヒロインのじゃなくて読者(俺たち)のかよ。


 登場人物の気持ちではなく読者の気持ちを考えるって、既に国語ではない気がする。


『じゃあ忍田さんに質問〜。五十一ページの三行目で「(ほのお)」という言葉が使われていますが、一般的に使われる「(ほのお)」との違いは何ですか〜?』


 次は忍田か。この質問も俺にはわからん。何か深い意味でもあるのか?


「カッコいいかカッコよくないかの違いでござる」


 流石忍田クオリティだ。姫野の答えとは根本から違う。それで答えは?


『正解で〜す。焔にするとカッコいいというだけであって特に深い意味はありません〜』


「ないのかよ!」


 先生がビクッとなった。クラスメイトたちの視線が俺に一身に注がれる。視線が痛い……。


「す、すみません」


『いえいえ〜』


 これ、俺が悪いのか?


         ☆


 昼休み。それは心身共に絶対的な安静をとれる時間。そんな昼休み、俺は——


「この卵焼きしょっぱいな、甘くしてくれって言ったのに」


 トイレの個室にいた。今俺がしているのは俗に言う「便所飯」というやつだ。

 だが、誤解しないでもらいたい。決して話す相手がいなかったから泣く泣く……、という訳ではないのだ。


 「面駅殿〜、共に昼食を取ろうではないか!」という誘いを全面的に御断りした上で便所飯という行為に及んでいるからな。


 クラスメイトたちと一緒に食事に及ぼうものなら半ば強制的にツッコんだら負け選手権が開始するだろうからな。ろくに休めないのは目に見えてる。


 俺はエネルギー補給(昼食)を済ませると名残惜しい個室に別れを告げて男子便時を後にする。


「あ…」


 だが、運悪く弁当を持って男子便時から出たときに生徒と鉢合わせしてしまった。

 便所飯してたことが他人に知られるってめっちゃ恥ずかしい。一から事情を説明するのも何か必死ぽくて嫌だし……。ここまで考えるともうまともに相手の顔が見れない。


「ふふっ、どうしたのですか?」


 声から察するに女子だろう。


「まさか…調子でも悪いのですか?」


 俺がいつまでも下をうつむいていたので心配させてしまったようだ。俺は誤解を解くために顔を上げる。


「あっ…え?」


 女神?


 いや違う。俺と同じ人間だ。

 目の前にいた人はまるで作り物のように綺麗な顔立ちで、雰囲気もどこか神々しい。


 俺は喋ることも忘れてただただその外見に見惚れてしまった。


「やはりどこか調子が悪いのでは?」


「え? いや大丈夫です。この通り」


 見惚れてました。なんて恥ずかしいことは勿論言えないので、その場でジャンプをして誤魔化す。……何やってんだろう、俺。


「大丈夫そうなので安心しました」


 女神は胸に手を置き、ホッとした表情を浮かべる。外見だけでなく、一つ一つの動作も周囲の人間を釘付けにするものだった。


「ご心配をおかけしました。えーと…」


神宮寺(じんぐうじ)神楽(かぐら)と申します。貴方のお名前も教えていただけますか?」


 神宮寺さんがにっこりと笑う。まるで彼女の周囲に花が咲いたようだ。


「つ、面駅秀勝です」


「面駅さんですね。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 俺は仰々しい礼をする。……何やってるんだろう、俺。


「ふふっ」


 だが、そんな俺の変人と間違われそうな態度を気にした様子もなく、再び周囲に花を咲かす。意識すれば花の香りさえ香ってきそうだ。


 だが幸せな時間はあっという間で、ふと目に入った時計を見るともうすぐ昼休みが終わる時間になっていた。

 次は体育だからもう着替えないと授業に遅れてしまう。


「そろそろ時間だ。神宮寺さん、ありがとうございました」


 俺は再び一礼してその場から立ち去ろうとする。だが、それも彼女の唐突な一言によって止められた。


「面駅さん、私の保有能力『心酔する美貌(チャーム)』は異性はおろか、同性でさえ自由に操り人形に(仲良く)することができる能力です」


「それが…何か?」


 神宮寺さんは一体俺に何を伝えたいんだろう。


「いえ、それが言いたかっただけですので。同じ学園の生徒同士、また会うこともあるでしょう。それでは」


 そう言って神宮寺さんは立ち去っていく。

 俺は教室へ戻る為、彼女とは間逆の方向へと歩きだした。


「私の保有能力を知ってしまったということは、貴方も下僕の仲間入り♡」


 故にそんな彼女の小さな呟きも聞き取ることができなかった。

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