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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
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とある女子中学生の日常

 とある休日、なんでもない街の一角に二つの影──否、二人の少女が相対していた。


 休日といってもたかだか街の一角であり、人通りは少なく人の影がちらほらと伺える程度である。

 そこで二人の内の片割れが楽しそうに口を開いた。


「ここにしよっ! お姉ちゃん」


 それはまるで遊びの誘いのような──はたまた昼食をどこで食べるかという問に、「じゃあここで」と軽く決めたような、仮に他の誰かが聞いていたとしても全く気に止めないような──そんな一言。


 天真爛漫な、いかにも活発そうな可愛らしい女の子が端的に言って「これからここで闘ろうっ!」という意味で言ったなど誰も信じないだろう。



 ──そう、普通ならば。



「…ここじゃあ一般市民が巻き込まれる可能性があるわ」


 普通ではないのならなんなのか、そんな疑問に風貌で応えるかのように、その提案に難色を示したのは左目に眼帯を付けた少女。


 その少女は、──眼帯、十字架のネックレス、極めつけには日本人が着るには少々派手すぎる純白のドレスと──目の前の活発そうな少女とは打って変わって、町中を歩いていたら絶対に二度見されるであろう異質なものを放っていた。


「大丈夫だって。私もお姉ちゃんも広範囲系の能力者じゃないでしょ?」


 眼帯の少女は何も言わず、手馴れたように相対する形をとる。それは片割れの少女の提案に応じた証であり、眼帯の少女の対応からして今回が初めてでないことがわかる。


 眼帯の少女はすぅっと吸い込んだ息を全て放つように叫んだ。


「応じなさい、私の能力っ! 全てを暴け、私の眼っ! 『見切りの魔眼(シー・スルー)』!」


 辺りのコンクリートや家の壁を伝いその声が大きく木霊(こだま)する。


 それを受けて周囲の人々が苦笑いを浮かべ、近所の住民が家の窓から「何事だ⁉︎」と身を乗り出してくる——ようなことは一切ない。それどころか近くを通った女性は「ああ、始まったか」とでもいうような顔でその中学生たちを一瞥(いちべつ)し、通り過ぎていく。


「どうしたの? 梓姫(あずき)。私に攻撃を見切られるのが怖いのかしら? 私の持つ保有能力、『見切りの魔眼(シー・スルー)』の力はこれでもまだ五割方しか開放してないわよ?」


 先ほど叫んだ方の女子中学生はニヤリ、という顔で向かいに立つ梓姫と呼ばれた少女を見遣る。


 先ほどまで付けられていた眼帯は外されており、左の瞼の下からは綺麗な蒼色の瞳が姿を見せている。


 もちろん彼女はハーフでもなくただの日本人でありサファイアを彷彿とさせる蒼色の瞳はコンタクトレンズで作ったものであるが、今それを言うのは野暮であろう。


「あははっ…あははははは!」


 そんな少女の言葉を受けて梓姫は突然ネジが外れたように笑い出した。


「っ⁉︎ 何が可笑しいの⁉︎」


 完全に格下だと侮っていた梓姫の突然の変貌ぶりに戸惑いが隠せないでいる少女。そんな少女の心内を知ってか、梓姫は畳み掛けるように続ける。


「あははっ、いや…思い返してみれば長い付き合いだったと思ってね、お姉ちゃん。龍神谷、そこが私とお姉ちゃんの初めてやり合った場所だったっけ?」


 梓姫は遠い目で空を見つめる。少女もその話に耳を傾けるが決して構えを解くようなことはしない。気を抜けば何をされるかわかったものではない。


「…何が言いたいのよ?」


 梓姫の核心の見えない話に痺れを切らした少女は警戒をしつつ問う。

 すると梓姫は今までとは明らかに雰囲気を変え、虚空から何かを掴み(・・・・・)、その先を少女に向ける動作をとった。


「私が龍神谷の(あの)ときの私のままだと思った? ならおめでたい頭だね。私の保有能力、『聖剣召喚(ディヴァイン・ソード)』は次のステップへと入った。つまり覚醒したということよ。『魔剣召喚(グラム)』へとね!」


「なんですって⁉︎ くっ!」


 それを聞いた少女は、梓姫を中心に発生する見えない力に耐える様子を見せる。

 草木は揺れず、近くの雀は相変わらず呑気な鳴き声をあげているが、確かに二人の間には見えない力が働いていた。


「…ならばこっちも、『見切りの魔眼(シー・スルー)完全開放(フルリリース)』!」


 堪えるような体制で踏ん張る眼帯の少女は、それを跳ね除けるようにもう一度大声で叫ぶ。

 すると、少女は見えない力など端から無かったかのように落ち着きを取り戻した。


「やっぱり。そう来ると思ったよ」


 梓姫は見えない剣で下段の構えの形をとる。


「けどお姉ちゃん、その力は己に膨大な負担を及ぼすから3分が限界だった筈だよね」


 そう言いながら微笑む姿は相変わらず純真な少女の笑顔そのもので、逆にそれが恐ろしかった。


「っ! だから防御に向く下段の構えってワケね。」


「うん、わざわざ私が手を下さなくても3分間凌げば良い話」


 明らかに少女側の劣勢。勝機は僅かほどしかない。だが、その蒼色の瞳からは諦めの色は全くと言っていいほど見えない。


「3分凌ぐ? 凌げるものなら凌いでみなさい!」


 その言葉が開戦の合図となり、少女が間合いを一気に詰める。


「はぁぁぁ!」


 向かってくるを待っていたとばかりに梓姫は見えない剣を持ち(、、、、、、、、)、気合の入った一閃を放った。だが少女はそれを悠々と(かわ)す。


「っ! これならっ‼︎」


 華麗な連続攻撃。しかしそれも紙一重で全て躱されてしまい、一度距離を置く。

 梓姫は自分を見つめて離さない蒼色の瞳に身震いする。


「流石は『見切り』という名を冠する魔眼の持ち主だね、お姉ちゃん。けど——」


「やっぱり武器がないと厳しいわね。隙をついて拘束、無力化するしかないか」


 無手と剣の勝負では圧倒的に剣にアドバンテージがある。だが、ないものねだりはしても仕方がないと眼帯の少女は再び構えをとった。


 一瞬の静寂、そして再び二人は交錯する。

 梓姫の怒涛の連続攻撃にも怯まず、少女はぴったりとくっ付いて隙を伺う。


 そして——


「てやっ! …あっ!」


 初めて生まれた梓姫の小さなミス。切りかかろうとする気持ちが強すぎるが為に重心が前へと移り、梓姫は次の動きに咄嗟(とっさ)に転じることができない。


 そしてこの隙を見逃すはずもなく、少女は拘束しようと梓姫の後ろへと回る。



「——なんてねぇ」



 それが梓姫の罠だとも知らずに。


 魔剣(グラム)を握っていなかった方の手が何かを掴み、少女の腹部へと向かっていた。


「え?」


「おねぇちゃーん、誰が魔剣は一本(グラム)しか持ってないって決めたのかなぁ? こっちにも持ってるよぉ? 魔剣(ダーインスレイヴ)ぅ」


 カラカラと歪んだ笑みを浮かべる。


「この剣はねぇ、いっぱい生き血を吸わないと鞘に戻らないの。だからぁ」


「ここまでのようね…」


 ついに3分が過ぎ、片膝をついた少女は何かを悟ったように梓姫を見上げた。


「じゃあねぇ、私の永遠のライバル。私の永遠のお(ねー)ちゃん」


 梓姫はそれだけ言うと剣を振り下ろした。


 時は二十一世紀後半。今から数十年前に突然現れたウイルス。

 そのウイルスは何故か中一の十二歳前後ーーつまり思春期に入ると男女問わず全ての人間にある病気を発症させた。



         ☆


『      個人調査表



 第1学年 1組 28番 学生番号10128

 氏名 姫野舞姫(ひめのまき) 女性

 生年月日 平成46年 11月 8日生 16才

 住所 ——

 設定能力 『見切りの魔眼(シー・スルー)』【B+】…あらゆる攻撃を見切る眼。魔眼は軒並みトップクラスとされる能力だが、『見切り』の名を冠するこの魔眼には攻撃力が皆無の為、一般的な評価はそこまで高くない。

 二つ名/称号 『魔眼使い』

 備考 ・一つ年下の妹がいる。』

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