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異世界血ート剣客 拙者・葵光剣は異世界に貢献するでござる!  作者: 鬼京雅
一幕・人妖戦争の闇 タカスギ・シンクウ一派との戦い編
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妖怪秘境での休息 そしてミツバの復活

 連戦で疲弊していた拙者とミツバは金粉シスターズの計らいもあり、タカスギ戦の前に休憩する事になったでござる。あえて金粉シスターズには聞かなかったが、これもタカスギの命令なのだろう。

 あの男は拙者がここに来るのを楽しみにしている。自分の部下と戦わせて、強者との戦闘を経験させて自分の立ち位置を教えているように感じるでござる。

 ミツバはこの連戦の疲れで、口数も少なくなっているでござるな。

 粗暴ながらも狡猾で頭の働くタカスギは拙者との戦いで何を得ようとしているのかは分からぬが、拙者は勝つしか無い。人妖戦争じんようせんそうを終わらせた身として、裏で暗躍していた者達も倒さねば真の終結にはならぬでござるからな。


「……一時間ほど、寝れたか」


 拙者は金粉シスターズの作った料理をミツバと共に食べ、与えられた寝室で休んでいたでござる。

 そして月明かりが見える室内からベランダで淡い月を肴にポーションと呼ばれる回復ドリンクを飲んだ。

 その水が全身に行き渡るような爽快感を感じ、清流刀に打ち粉を打って刀の目釘を確かめる。


「タカスギとの決着は明日の早朝。体調は万全でござる。奴がどんな力を秘めているかは知らぬが、血ートの拙者は負けぬでござる」


 すると、部屋のインターホンが鳴り拙者は扉の方へ向かう。

 そこにはピンクの寝間着のミツバがいた。

 敵地の為か、あまり眠れぬらしく拙者の部屋に来たらしい。


「やっほー。元気かなアオイ」


「ミツバ……入るでござる」


「ほーい。入室、挿入」


「……足が止まってるでござるよ」


 いつものように立ち振る舞うが、やはりミツバは緊張している。

 ろくろ首のロコとの戦いから始まった連戦で疲弊があるのだろう。

 新選組でも、新入隊士は初めて人を斬った後はろくに飯も食えず、これから人を斬り続けねばいけない自分に恐怖して自暴自棄になる者もあった。新選組の隊規で、戦闘で背を斬られた者は逃げたとされ、戦闘に参加しない者は刀の使用を改められ屯所で切腹させられる。それとは違うが、やはり生き死にがかかる出来事とは人を簡単に闇に落してしまうでござる。新選組・闇の武にいた拙者にも経験があるでござるよ。


「……」


 やや乱れ気味になるポニーテール姿のミツバの手を引き、無理矢理室内に入れた。

 そして冷蔵庫から冷えたポーションを取り出し、渡す。

 そして二人は月明かりをベランダから見上げ話すでござる。


「何だかんだでこうして二人で夜の月を見上げているのも珍しい光景でござるな。相棒って割には」


「そうね……私は夜は早く寝るし、国王からの魔法研究依頼があるから今は相棒としていられるけど、これからもずっと冒険ばかりはしてられないかも」


「カツラ国王直々の魔法研究というのはミツバの才能が認められているからでござる。新しい魔法はスザク王国に繁栄をもたらすだろう」


「でも戦争にも使われるよね。普通に働かなくていいのは助かるけど、人妖戦争が終わってこれからも魔法研究依頼があるかはわからないわ。それに、私も戦争の裏側を知って人間だけが正しいとは思わなくなったし……」


「人の数だけ正義はある。大抵の人間はその正義を他者のかざす正義に委ね行動する。しかし、歴史を動かす者は自身の誠を持って動くでござる」


「それはアオイのような人間の事ね。私にはそーゆーの無いし……相棒失格かも」


「失格と思うなら失格でござるな」


 すると、ミツバはうつむく。

 確かに、このままミツバを巻き込んで血ートになり続けるならばミツバも強敵と対峙しなくてはならなくなる。それには強くならなければならないし、日々が戦い中心になるでござる。争いの解決でこの世界に貢献しようとする拙者といるには相応の覚悟が必要だ。ミツバが無理なら他の者の血を求めなければならない……しかし、拙者に合う血を持つ者が簡単に見つかるかはわからない。だが、言わねばならぬ事は早い方がいいでござる。


「拙者は争い事の解決でこのバクーフ大陸に貢献し続ける。ミツバが時間のかかる魔法研究の道を進む限り、相棒である事は難しいだろう。けれど拙者はミツバの血が必要だ。ミツバ以外の血は飲む気がしない……仲間として……それ以上のものとして……」


「それ以上のもの……」


 口調が熱くなる拙者に、ミツバは冷たいポーションを一口飲み呟く。

 それはいつものミツバとは別人のような声だった。


「私は……私よりも他の血液相性が良い人間の方が相棒に向いてるんじゃないかしら? こんな状態の私じゃ、アオイの役に立つ事も出来ない。必要なのかがわからない……」


「……」


 そのミツバを見た拙者はやれやれと頭をかく。

 これは決定的に戦いの連続で心が疲弊してるでござる。

 心の安定には心で訴えるしか無い。


「拙者がミツバを必要とする限り、相棒失格かどうかの判断は早いでござる。もし、ミツバがこの冒険のような事が好きで無いなら今回限りで相棒は解消だ。けども、拙者はミツバが必要だ……カツラ国王は拙者から説得する。拙者の側で貢献してくれ……」


 拙者はギュッ……とミツバを抱き締める。

 それは力強く、不安が募るミツバの心を満たす暖かさがあったようでござる。


「タカスギに勝てば息子の反乱を解決した事でカツラ国王に一つの恩を売れる。まぁ拙者に任せるでござる。血ートの拙者は最強でござるから」


「じゃあ、期待してタカスギ戦を観戦してるわよ……」


「……」


 ミツバの行動に反応出来ない拙者は動きが止まる。

 キスをされた拙者は驚いた顔のまま去りゆくポニーテール姿の少女の背中を見送ったでござる。


「絶対……勝つ」


 拳を唇に当て、淡い月に向かい呟いた。





 そして翌日早朝――。

 拙者とミツバは身支度をし、朝霧が立ち込めるキャバクラ街に出たでござる。

 すると、突如当たり前のように妖怪幼女・ろくろ首のロコが拙者とミツバを迎えに来た。

 決戦の前にロコは無駄口を話す事も無く、事務的に言うでござる。


「おはようございます。タカスギ様の館に案内させてもらいますロコ」


『……』


 会釈をし、ロコがもう罠を発動しない事を確認してロコの後を歩き出す。

 それを見送る金粉シスターズにも会釈をしたでござる。

 霧が立ち込める道を歩いて行くと、一つの古びた神社に着いた。

 その東行とうぎょう神社の境内で、ロコは止まる。


「ロコの妖気でタカスギ様の場所に行くゲートを開くロコ。少し下がっていてロコ」


「念の為確認する。もう無用な罠はいらぬでござるよ?」


「わかってるロコ。すでにタカスギ様は戦闘準備をされている。ここで余計な事をしたら、恐らくロコは殺されるロコよ。あの人はアオイとの戦いを楽しみにしてるから」


「そうでござるか。ならばゲートの開放を頼むでござる」


「任せるロコ」


 拙者達は少し下がり、ロコが転送ゲートを開くのを待つ。

 念じ始めるロコは自身の妖気を高め、唱えた。


「ロココ、ロココ、ロココのコー!」


 すると、ズズズ……と一つの門が現れ、その扉は開く。

 その異空間のような先にタカスギの城があるのだろう。

 少し震え、桃色の髪を抑えるミツバの肩を支え、拙者は共に歩き出す。


「行くでござるミツバ。ミツバは拙者が守り、タカスギは必ず倒すでござるよ」


 じっ……と拙者の青い瞳を見つめるミツバは、ゆっくりと頷いた。

 そして、いつもの笑みで言うでござる。


「うん……行こう!」


 おいで、おいで……と手招きをするロコに促され、拙者とミツバはそのゲートをくぐった。


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