甘美なる誘惑・キャバクラ嬢金粉シスターズ
モンタとシュンを倒した拙者達は妖怪幼女ロコの罠の穴に落ち、とあるキャバクラ街に出たでござる。
キラキラとした街並みは金と欲望の渦巻く世界で、スザク魔法都市以上の情欲を感じさせる。
ここは妖怪専門のキャバクラ街らしく、タカスギなどがよく利用しているそうだ。
その街を歩く拙者とミツバの前に、キラキラとした金髪の一糸纏わぬ素っ裸の女二人が現れたでござる!
『ぜ、全裸!?』
と、拙者とミツバは反応する。
しかし、この金髪の全裸女二人組は首を振り答える。
『私達は妖怪・金粉シスターズよ。タカスギ・シンクウ様の命で出迎えに来たの』
ほーほー……。
タカスギからの出迎えで金粉シスターズが出迎えたでござる。
本当に素肌に金粉を散らしただけの姿である。
よーく目を凝らせば大事な所が見えそうであるが、残念ながらそうはいかないらしい。
いや、残念ではないが!
「出迎えるならば自分で来いと伝えるでござる」
「アオイは結構言う時は言うタイプね」
「ミツバもそうでござるよ」
「そうかな?」
「そうでござる」
そして、拙者達は妖怪の街のキャバクラ嬢である金粉シスターズに案内されてとある店に入った。
※
とりあえず拙者達はキャバクラという飲み屋に連れて来られたでござる。
ここは普通の飲み屋と違い、派手な格好をして着飾った女達が接客し、指名制度などで客の競争意識を駆り立て店の懐が潤うように出来ているシステムでござった。
そして、この裸に金の粉を纏う金髪の金粉シスターズの姉妹は、この店のナンバーワンとナンバーツーを競う間柄だった。その二人に挟まれ座る拙者は、横のテーブル席から聞こえる叫びに溜息をつく。
「コラー! カルピス持ってこーい! 濃いめでね!」
と、すでにミツバはカルピスで酔ってるでござる……まぁ、とりあえずはあれで良しとするか。
「……で、このもてなしはタカスギからのようだが、目的は何でござる?」
「目的? ここでは世俗の野暮な話はしないのよ」
と、姉のフウコが言いつつ、妹のライコは拙者の口にチェリーを押し込んで来る。
そんな密着接客を受ける拙者は野暮な話ではなくこの妖怪の里について聞く。
「ならば、この妖怪の里の話を聞こう。それを知る事が、主達を知る上での近道でもござる」
『いいわよ。ア・オ・イ』
と、シンクロしながら金粉シスターズは拙者の左右の耳でささやく。
耳がこそばゆい……そして酔ってるはずのミツバの視線が怖いでござる。
フウコとライコの話によると、この色街は人妖戦争で疲れた妖怪達が日頃のストレスを癒す為に作られた場所だった。
店並を見ると、男が接客するホストクラブという店が多くあり、男色が多い妖怪達の溜まり場となっていた。
そして、前妖怪首領・ぬらりひょんは女嫌いだったからこのキャバクラ街は冷遇されていた。基本的な税が高く設定されているが故に店の料金も高くしなければならなくなり、妖怪の中でも一部の富裕層しか来れない特別な場所になってしまっていたでござる。
タカスギ達がいなれば、ここの営業は立ち行かなかったという話だった。
どうやら人も妖怪も、知的生物として見た目以外の違いはあまり無いようでござる。
「これからは、この妖怪の里にも人間達も来れるようになり店は繁盛するでござろう。人間もこういう所は好きでござるからな」
「なら、人間達への案内よろしくね」
そして姉のフウコは言い、ライコはほっぺに接吻……いや、キスをしてきた。
ドキッ! としつつ拙者は答えた。
「わかったでござる。魔法騎士団の連中がこういう場所が好きでござろうから連れて来るでござるよ」
皆、喜んで来るであろう。
魔法騎士団の連中も鍛錬だけでは鬱憤が溜まるでござるからな。
何事にも休息が必要でござるよ。
そして拙者はこの二人の金粉美女にお願い事をする。
「かわりにというわけではないが、この妖怪の里で採れる野菜をわけて欲しいでござる」
「野菜が欲しいの? そんなんでよければ種をあげるわよ。でも、野菜はそこまで美味しくないわよ? 人間の好きなのは肉じゃないの?」
「いやいや、野菜も調理法によっては色々と種類があって美味しいでござるよ。では、野菜の件はよろしくでござる」
『オッケー!』
と、二人は納得してくれた。
そして、横のテーブルで接客されるミツバを見る。
(ミツバの方もだいふ酔わされてるな。そろそろこの話もいいだろう。拙者も動くか……)
グラスの甘酒を飲み干し、テーブルに置いた。
「……いやはや、キャバクラというのは楽しいでござるな。これだけ男として持ち上げてもらえると、はまってしまいそうでござるよ。タカスギがはまる気もわかる」
『タカスギさんは、はまって無いわよ』
「? はまってない?」
「そう、あの人は思想などの酒に酔えない現実家だからこそ、酒を求めてどんちゃん騒ぎをするの。どこまで騒いでいても、あの人の瞳は笑って無いわよ」
そこで拙者はタカスギの意外な事実を知る。
しかし、今はそれどころでは無いでござるよ。
「タカスギは倒す。この人妖戦争の裏で暗躍していた事実がある以上、許せぬ存在。悪意をばらまくのは人のする事では無い」
人間側の悪人がいなければ、四方を囲まれ勢力で負ける人妖戦争はもっと早くに終わっていたはず。
それをタカスギだけではなく、それ以前から人間側と妖怪側を行き来し、暗躍していた人物こそが悪。タカスギ一人のせいでは無いが、それに関わった者として倒れて貰わねばならない。スザク魔法王国の次の国王になるべき存在として、新しい出発をする為に――。
すると、姉のフウコが拙者の腕にやけに絡みつき重い話をさせないようにする。
妹のライコが上目使いでニコニコと聞いて来た。
「アオイは元の世界に恋人はいないの?」
「そうでござるな。いたでござるよ」
ピリピリッとミツバの耳が動いているのを見た。
そろそろ酔いが醒めたかな?
(そろそろ頃合いだ。拙者の話からこの宴をお開きにするか。今度こそ本当に……)
そして拙者は意を決して話す。
「……拙者は禁断の愛というものをしていたでござる。そう、この世界の物語にあるノミオとジョリエットのような関係だった。拙者は敵軍の女性と恋に落ちていたでござるよ」
『敵軍の女……』
キュン! とした顔の金粉シスターズはシンクロして言う。
拙者は元の世界では幕府軍。
その相手の女性は薩長連合の薩摩藩の娘だった。新選組の闇の武時代に薩摩の人間とも知らずに出会い、拙者達は偶然か必然か出会う機会が多くなり恋に落ちた。初めこそ薩摩藩は幕府側でござったが、西郷隆盛の奸計によりいつしか坂本龍馬の仲介で薩長連合が立ち上がっていた。その力は急速に肥大化し、時代の流れに乗る官軍に拙者達は敗北した。
全ては西郷の手によって……。
「という次第でござる」
腕に絡む姉のフウコは、
「もう一杯飲んで、もう少し聞かせてよ。胸がキュンキュンする話じゃない」
それを無視し、拙者はミツバのテーブルへ向かう。
「ミツバ……それは飲むなでござる。おそらく神経性の毒が入ってるであろう」
「ん?」
その微かに液体が青くなるグラスを取り上げ、捨てる。
怜悧に金粉シスターズを見る拙者は言う。
「戦いになら応じよう。これもタカスギの作戦か? 飲み物に混ぜた薬で相手を倒す。姑息なやり方でござるな」
『違うわよ! タカスギ様は姑息な事はしない!』
「果たして、そうでござるかな?」
『殺す! 滅殺よ!』
「いいだろう。表に出るでござる」
そう、それでシスターズは戦う気になった。
タカスギという言葉を上手く使えばチョロイチョロイのチョロインでござるな。
ほーほー。
『延長料と指名料は、命で頂くわ!』
そう、金粉シスターズのフウコとライコが言い、構えた。
拙者達はすぐさま外に飛び出し、路上に立つ。
そして、衆人環視の中での戦いが始まるでござる。
※
「その格好で戦うか。気組みが違うな金粉シスターズ」
拙者は金粉以外身に纏わないこの金髪妖怪美女二人に敬意を表する。
元の世界でも素っ裸同然で戦う者などいないでござるからな。
すると、よろけるミツバは胸元をはだけながら言う。
「こうなったら奴等を素っ裸にしたげるわよ! ねぇアオイ!」
「いや、事故が無い限り素っ裸にはしないでござるよ」
「起こすのよ! 事故を!」
やけにミツバは気合いが入っているでござるな。
まさか、本当にあのジュースにはアルコールが入ってたのでは……?
「……灰燼と化しなさい! マグマドラグーン!」
ズバババッ! とミツバはマグマドラグーンを放った。
対する金粉シスターズは回避しようともせず、キラキラ光る金髪をかきあげ薄い笑みを浮かべていた。
キラキラキラッ……と金粉シスターズの金粉は空気中で無数のシールドになった。
「金粉ってそういう使い方が出来るでござるか!」
『おおーーーー!』
観客達は二対二のこの戦いに興奮し、いつの間にかどちらが勝つかを賭けている者もいた。
やはり花街。
人間も妖怪もやる事は変わらぬでござるな。
観客の拙者達の戦いに対するボルテージが上がる中、戦う演者である拙者は冷静に攻撃を仕掛けつつ、相手の攻撃もいなす。にしても、ミツバはやけに暴走しているでござるな。
「……ぬどりゃー!」
拙者は艶やかな青いポニーテールをちゃんと纏め、暴れる相棒に問う。
「ミツバ、疲れてるなら休んでいるでござる」
「疲れてないよー! むしろ身体が火照って絶好調! ガンガンやったるわよー!」
「そうでござるか……確実に酔ってるな……」
すると、まるで裸でしかない二人の姉妹が観客から熱い声援を浴びながら、ミツバの魔法攻撃を全て金粉でガードする。粒子状の金粉であるゴールドシールドを身体に纏わせる二人の姉妹である姉・フウコは指を指し言う。
「無駄な会話はそこまでよん。金玉に召されて死になさい」
「玉ではなく粉ですわお姉さま」
そう、妹のライコがツッコんだ。
そして拙者は一つの違和感を感じていた。
(……これは、毒?)
この姉妹の金粉は毒の役割もあり、すでに空間に毒の粒子は散っていた。
これは報告せねばなるまい。
「観客達よ下がるでござる! この金粉には毒があるでござるよ!」
『……うーい』
文句を言いながら、野次馬達は遠くに避難するでござる。
気を充実させる拙者は毒に対する耐性を高める。
そしてミツバはハンカチで口元を抑えながら、ヨロヨロと言う。
「破廉恥な女には負けないよ! ちょーりゃー!」
金粉バリアに弾かれ、数々の魔法は力を発揮しない。
拙者も攻撃を仕掛けるが、砂の金粉に剣を防がれて相手の生身に触れる事が出来ない。
これは互いに消耗戦になるでござるな。
フフフ……とキラキラ微笑む妹のライコは言う。
「この絶対防御は破れないわよ。ねぇお姉さま」
「えぇ、妹よ」
そして、隣のミツバを見る。
やはり魔法にキレも無いし動きも鈍いでござるな。
酔いと毒が同時に進行していてダメでござる。
金粉シスターズにも酔ってから破廉恥だとかヤケに突っかかってたし、いつものミツバとは大違いで……?
(こうなったら……)
拙者はミツバの耳元で囁いた。
「ミツバ、自分にモザイク魔法をかけて姿を隠すでござる」
「? あいよ」
ミツバの背後に拙者は回り、その魔法服の胸元を左右に開いた――。
「えっ……?」
ブルん……と豊かに揺れるおっぱいが晒された。
しかし、モザイクで観客は見られない。
そんな失望の声が響く中、拙者は言う。
「けど、朗報でござる。金粉シスターズは完全に乳が見える」
『きゃーーー!』
『うおーーー!』
と、金粉シスターズの悲鳴と野次馬妖怪男の叫びが上がる。
拙者達の今までの攻撃は確実に空中に舞い散る金粉を減らしていた。
つまり、金粉シスターズの肌を隠す金粉は確実に減っていたでござる。
それに観客は大興奮する。
怒る金粉シスターズは叫ぶ。
『アオイー! 覚悟しなさい!』
「次は下でござるな」
「コラー! アオイ! 破廉恥め!」
何故か拙者と酔いミツバの三対一の戦いになっていた。
『……』
茫然と観客もこの戦いを見つめる。
店の屋根にいるタカスギもこの様子を見ているらしい。
「ケケッ、中々やるな……だが、もっと踊ってもらうぜ。今後の為にな」
そして、ミツバの攻撃と金粉シスターズの攻撃を回避し続けた拙者は言う。
「やっとらしくなって来たでござるなミツバ。手間をかけさせおって」
「まさか……その為にモザイク魔法でおっぱいを? ……オエェェェ……」
と、ミツバは吐いて酔いの全てを解放した。
そして拙者は背中を撫でてやり、スッキリするミツバは何時もの調子を取り戻す。
「んじゃ、とどめと行くでござるよミツバ」
「……そうだね。金粉の絶対防御など貫いてやろーじゃないの!」
拙者とミツバは右手と左手を突き出し構えに出る。
そして、これが最後の勝負だと金粉シスターズも最後の妖気を胸に集中させ高める。
互いの力がズズズ……とキャバクラ街に拡がって行き――。
『巨乳! 爆乳! 絶倫突破! 金粉ブラスター!』
『鬼神貫通・ラブラブドーン!』
ズバアアアアッ! と拙者達の突きと、金粉ブラスターが激突する。
凄まじいエネルギーの激突は、屋根にいるタカスギの煙管の火を消したらしい。
『うおーーー!』
そして、金粉シスターズの金粉シールドは突破され、吹き飛ばされ倒れる。
すると神風のようにろくろ首のロコが現れ、全裸の二人にマントをかぶせたでござる。
そしてまた消えた。
(!? また消えた? 全く、神出鬼没な幼女妖怪でござるな)
全ての決着がつき、立ち上がる金粉シスターズの姉、フウコはライコを支えながら言うでござる。
「流石ここまで来ただけはあるわね。私達はモンタやシュンほど強くない。タカスギ様を楽しませるかどうか見極めたかっただけ」
「飲んで行きなさい。今度はちゃんとサービスするわ。それとも、ベッドで仮眠を取る?」
ライコはフッ……と微笑み、拙者は頷く。
確かにそろそろ休息が欲しいでござる。
特にミツバには必要でござるからな。
拙者達は金粉シスターズの言葉に甘え、しばしの休息をもらったでござる。