タカスギの腹心・金策担当猿顔のモンタ
ろくろ首の妖怪幼女・ロコを倒した拙者とミツバは、タカスギの隠れ家であり大妖怪ぬらりひょんの居城でもあった古びた小さな城の前に立つ。
左右を木々に囲まれた城で、背後には大きな沼がある。侵入者はこの正面からの侵入経路を進むしか方法は無いようだ。おそらく左右の林と裏の沼には罠があるでござろう。
城の辺りは警戒兵の一人もおらず、拙者達は少し呆気に取られながらもその内部へ進行した。
「さて、城の内部に入ったが出迎えは無いでござるな」
「無いね。タカスギも呼んだなら出迎えればいいのにね。やーな感じ!」
「いや、そうでも無いようでござるよ」
二階へ続く階段の上に、すでに倒したはずのろくろ首のロコが居た。
拙者は一応の警戒をしつつ、おかっぱ頭のロコに問う。
「何故、また現れたでござる? すでに戦いの決着はついているはず」
「別に戦うつもりは無いロコ。あたしは道案内をする為に来たロコ」
『……』
拙者とミツバは顔を見合わせ、微笑むロコを見つめる。
確かにロコには敵意は無く、単純に道を案内してくれるらしい。
ここは敵地……。
無駄に暴れて無用な怪我人を出すよりも、必要最低限の敵と戦いタカスギとの決着まで行ければいいだろう。幸い、まだこの城を警戒している兵はいないでござるからな。
「助かるでござるよロコ。道案内を頼む」
「アオイ、簡単に信用していいの? さっきまで戦っていた相手だよ?」
「もう、ロコは拙者には勝てない事は承知している。単純に道案内をする命令を受けているのでござろう。これは、相手の思う通りにすればいい。タカスギとて、拙者が来なくては決着はつけられないでござるからな」
そして、拙者達はロコの道案内に従う。
まるで城の迷宮結界のような複雑な通路を進んで行く。
すると、ミツバが壁などを触り、言うでござる。
「……妖気で壁などをコーティングしてるわね。恐らく、この城全体を……でしょうけど」
「ほーほー。ならば、今の道は妖気で作られた幻影の道でござるか?」
「現実と幻影を混ぜてるわね。上手く実態を掴ませないようにしてるわ。大妖怪ぬらりひょんの元住処だけあってこった作りだこと」
そのミツバの台詞に対し、ロコは言う。
「確かにそうだロコ。これは城の迷宮結界。普通に進んでいたら決してタカスギさんの元へはたどり着けないロコ。だから安心してついてくるといいよ」
「やっぱねー。アオイ、いつ何があっても大丈夫なように血を吸っとく?」
と、ミツバは首筋に手を当て言う。
しかし、拙者は断り、
「血の力を多用する副作用があった場合、タカスギとの戦いに支障が出る。今のままで大丈夫でござるよ」
「そう、ならいいけど。もしもの時は全身のどこでもいいから血を吸ってね」
すると、指をくわえてミツバを見るロコは言うでござる。
「なら、ロコが吸いたいロコ」
「ふへ? コラ! オッパイに吸い付く気? コラ! 離れなさい!」
と、魔法少女服に飛びかかるロコはミツバのオッパイを丸出しにして吸い付こうとするが、離された。
ほーほー。
ロコは結構面白いでござるな。
ふと、拙者は前の戦いの最中起こった事を思い出す。
「そういえばロコは拙者との戦いの最中に、軍隊ブックという本を落としたでござるな。軍隊に興味があるでござるか?」
「きょ、興味ある……ロコ。たくさんの人と、剣を交えたいロコ。ロコはあまり友達がいないから……」
ロコはタカスギの仲間でござるが、普通の若い女の妖怪のようだ。
これは人間社会でも馴染めると思うでござる。タカスギの奴は、上手く仲間を教育しているのか?
ポンッとロコのおかっぱ頭に手を置き、拙者は言う。
「ロコは中々の剣の腕でござる。おそらく、スザク魔法王国の兵隊よりも強いであろう。指揮力さえ身に付けば一軍の長にもなれるでござるよ」
「え? そうロコか!」
「アオイ、着いたわよ」
と、ミツバの冷静な声で拙者は目の前に広がる門を見た。そして、ロコに乗せていた手もいつの間にかミツバに持たれ離されていた。そして、ロコは言うでござる。
「ここからはタカスギさんの腹心が相手ロコ。この相手に勝てなければ、タカスギさんとは戦えないロコよ。では、はりきってローコ!」
ズズズ……とロコは冥界へ繋がるような鋼鉄の門を開いた。
そして、拙者達はタカスギの腹心のモンタと戦う事になったでござる。
※
鋼鉄の門を開き内部に拙者とミツバは入る。
そこは壁や天井までも鋼鉄であり、非常に圧迫感がある閉塞的な空間でござった。
そして、その奥には茶色い羽織を着た首に緑のマフラーを巻いた人影がある。
それにミツバは、
「アオイ……猿がいるよ?」
「確かに猿でござるな。でも二本足で立っているでござる」
「じゃあ、人間? 猿人間? それとも北京原人?」
「いや、北京ダックかも知れぬ。あれはおそらくこの世界の新種……」
「モンモン! じゃかしいわボケ!」
『!?』
その謎の人物の怒りの声で、拙者達はそれが人間だと認識したでござる。
「俺はモンタ。タカスギさんの決起する上での金策担当のモンタだモンモン!」
「金策担当のモンタ……」
そういえば、魔法居酒屋キキョウに居たな。
タカスギの腹心の二人の内の一人でござった。
確か、元の世界の似た人物は井上聞多。
確か外国に密入国し、異国の文化を学び旅に出た者。
しかし、新聞で長州藩が無謀な行動である、外国艦隊に大砲で攻撃を仕掛けるのを読み、長州の為に舞い戻った志士の二人……高杉を頭にした三人党とも呼ばれる者。
異世界バクーフにおいても厄介な敵でござるな。
そしてその猿顏のモンタは言う。
「モンモン。噂は聞いてるぜ。お前はこことは違う異世界からやって来た。そこで一度死に、何故かこのバクーフ大陸に転生し、何とあの大妖怪ぬらりひょんを倒した。そして人妖戦争を終わらせ、一日にしてバクーフ大陸の英雄となった……」
「そうでござる。しかし、転生したと言うのは極一部の人間しか知らぬ。主はどうやってそれを知った?」
「俺は早耳、地獄耳。情報は金になる。俺はバクーフ大陸一の物知りを目指してるからな。モンモン」
「タカスギの入れ知恵か。奴は国王の息子だから何処からか情報を得てるのだろう?」
「違うな。間違ってるぞ、棒きれ侍。俺がタカスギさんに教えてるんだよ。情報収集モードの俺は、全ての人間から情報を引き出させる人当たりの良さを演じられるのさ。それに地獄耳が加われば鬼に金棒よ」
「粋な事を言うでござるな。そこを退かぬなら強行突破するがどうする?」
「聞かなくてもわかるだろ? 早くその棒きれを抜きたくてウズウズしてるのが丸分かりモンモン。下半身の棒きれは後ろの女で抜いて――」
「黙るでござる――」
「!」
瞬間、モンタの視界から拙者が消える。
高速移動術・瞬歩で左右にステップを踏んでから斬りかかった。
そして瞬きをする猿顏の男が次に瞼を開いた時――拙者の清流刀から火花が発したでござる。
「……!」
「俺の防御力を甘く見るなよ?」
モンタには龍が描かれた緑の盾で攻撃を防がれていた。
やけに重厚で、迫力がある盾に見入りそうになると、後ろのミツバが叫んだでござる。
「アオイ! それはドラゴンシリーズの九龍の盾よ! バクーフ大陸の秘宝・覇王武具の一つで防御力はメチャクチャ高く、私の魔法はまともに効かないわ!」
「そうでござるか。ならば拙者のみで相手するしかあるまい」
ドラゴンシリーズと呼ばれるバクーフ大陸の覇王武具の一つ、九龍の盾を活かすモンタにはその速攻が通じる事は無かった。開始早々にカタをつけようと思ってた拙者は舌打ちし、
「その模様から見て九つの龍のウロコが使われる九竜の盾か。いい盾をゲットしたでござるな。覇王武具か……拙者もこの刀が折れた時の為に新しい刀が欲しいでござる」
「覇王武具はこの世界にゴロゴロ転がってるよ。だいたいがもう回収されちまってるだろうが、突如出現する覇王ゲートダンジョンに入って迷宮を攻略すれば貰えるぜ。俺は覇王ゲートを攻略してこの九龍の盾を手に入れたけどな……まぁ、変な小うるさい幼女に貰ったが品物はこの通り本物だぜ!」
「!?」
すると、首に巻いていたマフラーが剣に変化した。
その蛇の剣・スネークソードは拙者の顔面に迫る。
「終われアオイ! お前はタカスギさんの邪魔をする為にここに転生したんじゃないだろ!」
「確かにそうでござるが! 転生させた人間に聞かねば本当の所は知らぬ! そして、タカスギのように事件の裏で暗躍している人間が拙者は好まぬでござるよ!」
現世にて拙者の最後の敵となった西郷隆盛を思い出しつつ、蛇のようにウネウネする攻撃をギリギリの所で回避するが、頬を軽く切られてしまう。そして、鉄の床をを抉るようなスネークソードの応酬が繰り広げられる。左手で九龍の盾を上手くコントロールし拙者の剣を防ぎつつ、右手の捻りでスネークソードを操り攻防一体の姿勢を保ち優位に立つでござる。
「直線的な剣を曲線の剣に変化させたのか――これであの盾の奥から攻撃出来る。考えたでござるな」
「モンモン! 無駄口は舌を噛むぜ!」
更に威力とスピードを増すスネークソードは拙者のダンダラ羽織を切り裂く。
九龍の盾により魔法攻撃を無効化される為に援護が出来ず焦るミツバは叫ぶ。
「アオイ! 攻めないとやられるわ! まだタカスギ戦じゃないのよ! ガツンといっちゃいなさいな!」
「そうでござるな。速度を上げるか」
高速移動技・瞬歩の速度を最大限まで上げてヒット&アウェイを繰り出す事にしたでござる。
急加速と急停止をする拙者の数が何故かモンタには増えて見えた。
「残像? またけったいな事をしやがるぜ棒きれ侍」
パワーの解放と停止を上手くコントロールすれば残像が生まれる。
(いや、違う……もっと違う何かが生まれそうだ……新しい力が……)
スネークソードを回避し、攻撃に転じる残像を生み出す方法は確立した。
しかし、拙者はそこから生まれそうな新しい技の胎動を感じている。
「その残像も見切ったぜ。モンモンモン!」
モンタは啖呵を切るの殺気で残像をかき消した。
そしてモンタはとどめの一撃に出る。
無数の蛇の頭が同時に襲いかかって来た。
「スネークブロークン!」
「清流鬼神流・鋼鉄岩壁!」
鉄を斬る斬鉄をした拙者は、削れた床を無理矢理岩壁として扱い、スネークブロークンを防ぐ。
「うおおおおおっ!」
そして拙者は九竜の盾を弾き、モンタを倒した。
一段階上のパワーを手に入れたような快感を拙者は感じ微笑む。
「……血ートモードじゃなくても斬鉄を出来るようになったのは正に異世界の力のおかげだな。主には感謝するでござる」
「勝って感謝されるなんて最悪だモンモン……」
思ったよりもモンタはピンピンしてるが、痩せ我慢というのは足のガクガク具合から察した。
痩せ我慢を続けるのがこの猿顏男の意地のようでござる。
「俺はおいとまするぜ……後はシュンの野郎に任せるわ。女好きのシュンによぅ……」
そしてモンタ突如現れる煙幕と共に膝を笑わせながら煙玉を投げて去った。
すぐにミツバが駆け寄り、拙者は回復魔法を施される。
「敵は結構ヤバいわねアオイ。部下の一人が覇王武具を持ってるとなると、タカスギは覇王武具の中でも最強クラスの武具を持ってる可能性があるね。……ぶっちゃけ楽しみでしょう?」
「そうでござるな。血が騒ぐでござる」
「まだお預けだよアオイ」
「わかってるでござるよ。血の力は拙者の体力の消耗も大きいでござるからな。タカスギ戦までは温存したいでござる」
そして、拙者達はいつの間にかまた現れたロコの案内で次の間に進んだ。
そこは糸に囲まれた異様な空間でござった。
タカスギの腹心であり、モンタの相棒でもある女好きのシュンとの連戦を迎える事になったのでござる。