それでも懲りずに恋をする。
俺には幼馴染みが1人いる。俺は男で、あっちは女。
つまるところ異性同士という訳でよく周りの奴から冷やかされたりしたし今もされる。
マンガでもよくある定番過ぎるパターン“お馴染みとの恋愛”、周りからは実際のところどうなんだ、とよく聞かれたりもする。
実際のところ?そんなもの簡単だっつーの。
答えはノーだよNO。つまりマンガのような都合の良い恋なんかない。
なぜなら、
《……あー、ヤバいよ。心臓持たない…なにあのイケメン、私死ぬ》
「おー、死ね死ね」
俺の幼馴染みは別の奴に恋してる。
というか恋し始めた。
幼馴染みは何かあれば隣に住む俺の家にやって来る…とかそれこそマンガみたいな展開はなく、ただ電話を寄越してくる。
ソイツのことで頭がいっぱいいっぱいなんだろうなぁ、とその電話越しに感じる。お互いよく知った相手だし夜中に電話が掛かってきても迷惑とは思わない。
ていうか、多分俺から電話掛ける回数が数回多いと思うしお互い様か。
「で、今日は何があったんだ」
《あったというか、今日は雨が降ったからいつも通り図書室に行って――》
電話越しでしか聞けなくなった幼馴染みの声。
最近は全く会ってすらない。
昔からこの落ち着いたコイツの声が好きだった。どことなく口の悪い喋り方が好きだった。
へらへら笑う幼馴染みが好きだった。
いつか伝えようと胸の中で暖めていた想い。
……でも、もう、伝えるには遅い。
《――手を繋いだだけで、さ。すごく恥ずかしかったわ》
「…、」
手なら俺とも何回だって繋いだだろ、口から出かけた言葉を俺は必死で押し戻す。
《――…?おーい昌平やーい?あれ、寝た?寝たのかよ?》
「――寝てないし、ウッセ耳元で繰り返すなよ」
《あー、はいはい。で、そっちはどう?元気してる?》
ぼふん、変な音が聞こえた。ベッドにでも転がったんだろう。
「元気元気。元気過ぎて風邪も引いてない」
《あはは、まあ体には気を付けてね》
「…おーよ、」
《じゃっ、寮でも頑張れ。おやすみ》
おやすみと返して数秒後、電話はプツンと切れた。
こんなことになるなら、早く気持ちを伝えれば良かった。
こんなことになるなら、家に出てまで格好つけるんじゃなかった。
あの頃の俺は親元を離れて暮らすことに憧れを感じていた。だからわざわざ遠い寮生活必須の学校を選んで受験した。
幼馴染みは俺の隣にいるものだと思っていたから。
幼馴染みは別の奴に恋してる。恋し始めた。
「……くそ、やっぱ好きだわ……七弥」
それでも、俺はお前のことが忘れられなくて、明日もまたお前に電話をするんだろう。
『それでも懲りずに恋をする。』