彼女に恋した3分間。
今日は朝から何かと駄目な日だ。
起きたら足元に落ちていたらしいお気に入りだった置き時計を踏み壊すし、朝飯食おうとしたら口にしたパンにカビ生えていたのに飲み込んでから気付くし、ウゲェッて言いながら炊飯器開けたら開けたでもう………。
「あれ?なにお前今日の昼飯ってばカップ麺?」
「お袋様が飯炊き忘れたんだってさ」
「ぶふっ!ドーンマイッ」
「あーウッセ!じゃっ俺食堂行ってお湯貰ってくるわ」
俺はケラケラと笑うダチを無視し、水に浸かったまま思いっきりふやけた米を思い出しながらカップ麺(大盛)を片手にずんずんと食堂へと向かったのだった。
「………あー、彼女いたら弁当の一つや二つ作ってくれんのかなぁ」
それなりに遠い食堂の道をだらだらと歩く。
彼女…、彼女なぁ、年齢=(イコール)いない歴な俺。
これでも恋の一つや二つしてきたぜ?しかしそれは全て敢えなく撃沈。
告白した女子からは定番のセリフ「……ごめん、友達にしか見れない」で断られる。
…は、はは、ははは。おーけー、オーケー。要はあれだろ。フレンドリーすぎて恋愛対象に見えないと…………………くそがあああああっ!
いつのまにか辿り着いていた食堂。食堂のおばちゃ…っごほん!ちょーキレイなお姉さんに頼んでカップ麺(辛子&にんにく倍増!鯖味噌味大盛)にお湯を入れて貰う。
渡したとき「え、これ食べるの?」って顔された。
うん、俺もその味に今気付いた。
そしてそのなんとも言えない味のカップ麺を片手に教室に戻る。そこはかとなく手元が臭う。周りの人、特に食堂のお姉さんの顔が酷い。だが俺は気にしない。誰がなんと言おうがこれが俺の今日の昼飯なんだ。
……………食いたくねぇぇええ……!
「真田、スゴい昼ご飯だね」
「…………はっ、葉山…!」
真田と俺の苗字が呼んだのは我が校一金持ちイケメンでもあるダチの葉山だった。
うわっ、コイツすっげー笑顔。楽しんでいるのが目に見えて分かる。
「真田はいつもそんなのを食べるの?」
「母ちゃんが飯炊き忘れたんだよ。だから某は昼餉にこの異物を食さなければならんのだ」
「ブフッ、真田キャラ、が、変だよっ」
大口を開けて笑う葉山。クソゥ、イケメンは何をしてもイケメン過ぎて泣ける。これだからイケメンはっ!
「……うわぁ、よくそれを食べようとする勇気があるわ」
「……ん?」
笑う葉山の背後から大盛カレーが乗ったお盆を持った女子が現れた。モテる葉山のファンか?と思ったが彼女は俺のカップ麺に夢中。
……え、つか大盛?
「これどこで買ったのさ。ていうかこれ売っていること自体が謎だわ」
そんな見知らぬ女子にいきなり声を掛けられてびびった。
「え、あ、これ?いやこれ母ちゃんが買ってきた?やつだからどこで売ってんのかは俺もちょっと…」
「君のお母さんは勇者だね。例え興味がそそられたとしても私は買わないよ」
だよねー、
「俺も買わねぇわ」
…え、おっ?ちょ、これなんか良い雰囲気じゃね?あ、なんだろ。この胸の辺りがドキドキするんだけどっ!
手元の物体Xの臭いで冷や汗だらだら心臓ばくばくしてたのが、顔が熱くなって嘘みたいに今胸がドキドキしてる。
………ま、まさか、これが…本当の……恋!?
「え、あ、良かったら一口食べてみっ………」
「あっ、相間さん。あっち席が空いたみたいだから先に行っててくれない?」
「おう?え、……あ、はい了解しました」
ウソオォォン!?おいいい葉山くうううん!?
アイマさんと呼ばれた女子は気まずそうに葉山が言った席に向かっていった。
「葉山さあああん!?ちょ、俺いまの子とお近づきになれたかも知れないのに!!」
涙目で葉山にそう言ったら、葉山はそれはそれはキレイな笑顔で「真田」と呼んだ。
「真田、僕さ相間さんとはお付き合いを前提に“友達”になって貰ってるんだ。だから、邪魔しないで欲しいな」
じゃあ、またね。それはまあーキレイな笑顔で弁当片手にアイマさんが待っている席に向かっていった葉山くん……………。
「…………はあああ!?」
ふらふら、教室に帰り着いたとき、既に3分以上は経っていた。
当然カップ麺の中は悪臭放つ見るも無惨な本当の物体Xと成り果てていたのは言うまでもない。
『彼女に恋した3分間。』
食いたくねぇぇええ。自分で書いときながら思います。
食いたくねぇぇええ!