第7話
「・・・ですよ。・・・・てください」
「えへへ。もう食べられないわー・・・」
「別荘に着きましたので起きてください」
え?もう着いたの?隣で馬車の中毛布にくるまり寝ていたカズマに起こされる。前の馬車と比べると全然お尻が痛くない。サスペンション様々ね!
別荘は大き過ぎず小さ過ぎずといった感じで、首都の屋敷と似たような作りをしているが、外壁には小さな穴が開いていたり外へ出るための出入り口が多かったりする。盗賊が襲ってきたときに備えるためだってジェド兄様が仰っていたわ。でも、別荘に着いたというのにお兄様の姿が見えない。どこに行ったのかしら。
女性陣は急いで荷物を降ろし中に運び込む。掃除もしなきゃいけないし、最初の1日目は大変そう。でも屋敷ほど広くないからすぐ終わりそうかも。
割り当てられた自分の部屋に行ってみる。掃除が終わった後だったみたいで、埃が無く清潔なのはウェントワース家の使用人がすごいからだと思う。ベッドには布が被せられていて外せばすぐに使えるようだ。
しばらく布団にくるまり寝心地を楽しんでいたら昼になっていた。あぁ、着いたら周りを探索しようと思っていたのに~。寝るとだらける自分が憎い!
家族全員で食事を取り、午後からの予定を確認しなくちゃ。カズマを連れて山の散策開始よ!
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「こちら第3小隊。ウェントワース邸に到着。次の指示を待つ」
『現在、主だった指令は特に無い。別命あるまで待機。不用意な行動は控えよ』
「了解」
黒いプレート板を耳から離し、プレートの色と同じ漆黒の鎧を着た男性が整列の合図を出した。
ザッ!!
かかとを合わせ隊員全員が横一列で並ぶ。
「指示は今出されていない。速やかに野営の準備を進めよ。偵察部隊は1時間おきに交代。手の空いた者は休めるうちに休んでおけ、解散」
「「「イエッサー!」」」
テントを張る作業に戻り、武器の手入れを始める彼らを確認した後専用のテントで自分も仮眠を取る。標的はこの貴族が持っているとされる情報。まずは人質を確保し交渉に入らねばならない。
偵察兵の情報ではスィルタイトの軍隊が近くで常駐とのこと。我らが襲う可能性に気付かれたか。止むを得ないな、不意をつけば人1人さらうことなど容易い。もう直に夜だ、我らの力をスィルタイトに見せつけてくれようぞ!!
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「父上。隣国である鉄の国<ガラハイル帝国>の偵察兵を発見いたしました」
「そうかご苦労だった。ジェド、別荘にいる間の警備は任せたぞ」
「承りました。父上も襲撃の際は敵に後れをとりませんよう。失礼します」
「あぁ、おまえも気をつけよ。それとカズマにこのことは・・・」
一礼して部屋を出ようとしたジェドの足が止まる。
「はい。伝えておりますのでご安心を」
バタン。扉が閉まる音を聞き、ウェントワース家当主は今の事態を冷静に考えていた。
敵が欲しがっている情報は俺が握っている。やつらは”アレ”が欲しいのだろう。”アレ”の鉱脈の場所はどの国にも知られるのはタブーなのだ。ここはジェドにすべてを託そう。
目を閉じて今後について考えるうちに意識は我が愛娘にそれる。
シェリ。お前のボディガードはそう遠くない日にお前の元を・・・・
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たしか別荘の近くには大きな滝があったはず。お母様に連れて行ってもらった記憶を辿り、まずそこを目指すことにするわ。それじゃ、
「出発進行よ、カズマ!」
「・・・背中に引っ付いてないで、自分で歩いてもらえませんか?」
「寒いから却下」
「・・・かしこまりました」
野宿の時に確信したわ。カズマといると暖かい!むしろ熱いくらい!
顔も火照ってくるし、やっぱりこれは魔法を使っているのよ間違いなく。あと敬語禁止ー。
「ほら、方角は南南東。つまり真っ直ぐ!足を動かしてこー♪」
「仕方ないなぁ。よいしょっと」
サワサワッ
「へ、変なところを触らないでよ!」
「いてて、脇をつねらないでっ!理不尽過ぎるっ!」
滝へはけもの道を使っていくため傾斜がなだらかに続いている。木の根っこがあちらこちらで好き勝手に生えていて転びやすい。ましてや雪が積もっているのだ、カズマは軍靴を履いているおかげで幾分か滑りにくくはある。いつの間にか女性には危ない状態に変貌していたのは予想していなかったシェリだった。
「おぶってもらって、せ、正解ね」
「そうだね。僕も転んでしまいそうなくらいだよ」
「転んだらどうなるか、分かって言っているのよね?」「だったら降りて歩けば・・・」
もし転んだらどんな罰を与えてやろうかという話題で喋り時は過ぎ去る。2人の様子を伺っている動物以外の存在がいることは知らずに――――
何やら話がきな臭くなってきました。