第4話
今日は両親の銀婚式祝い。これからも元気でいてください^^
花束とケーキを姉と買ってプレゼントしました。後からより大きな花束を父が・・・負けた;
カズマとシェリは長い廊下を渡って階段を降り、一階のリビングに入った。
「遅いぞシェリ。みな席に着いて待っているというのに」
「そうですよシェリ。朝早く起きることはレディとして当然なのですよ?」
「はい。すいません、お父様、お母様」
居心地悪くて周りを見ると、あれ?カズマがいない!?素早いわね・・・
実際、シェリの席の真後ろに控えていなくてはならないので当然ではあるのだけど。
テーブルには両親と軍隊で働いている兄、ジェドが座っていた。ジェド兄様は無口で、喋っているところを見るのはお父様に日課の報告をしているときくらい。髪は短く切りそろえられ凛々しい面立ちだった。
実は内心兄のことを尊敬しており、軍務めの兄にいろんな話を聞きたいが家にあまり留まらないこともあって会話をする機会が減った。・・・お忙しいようだし、仕方がないわね。今度のお休みはいつなのかしら。
私が席に着くと同時に朝食が出される。しばらくの間静かな時が流れ、お父様が皆に向かい立ち上がって言った。
「今我が国では何年かに一度訪れる最も寒い『冬寂』の時期に入り、寒い中使用人達には苦労をかける。そこで俺は、皆の労をねぎらうため別荘に移動しようと思う。」
「まぁ、それは良い案ね」とお母様。
別荘!一回行ったことがあるけど、美味しいものばかりを食べた覚えがあるわ。
山の上にあって木々が風を遮ってくれるせいか、家の周りは冷たい風が来ないのよね。
「明日には出発したい。シェリはお母様に荷造りを手伝ってもらいなさい。お前もそろそろ覚えて良い頃だ」
「はい。お父様!」
「それと、ジェド。後で俺の部屋に来なさい」
「分かりました。父上」
・・・?お兄様はどうして呼ばれたのかしら。んー、でも今は別荘へ行くための準備をしないとね!急がなきゃ!お母様ー、早く早くー!
私は自分の部屋に向かって一目散に向かったわ。もう自分自身が風じゃないかってくらいに。
廊下の途中でカズマに捕まったけど、気にしなーい。
「淑女としては気にしないとダメだと思うよ?」
「・・・はっ!なぜシェリの胸の内を!」
「昔からテンションが上がると自分のことをシェリって言うのもやめた方が・・・」
昔から・・・?えーっと、心の中でしか言ったことなかったはず。嘘よ。えぇ、嘘。
「いいのいいの!誰も見てないし聞いてないなら罪じゃないのよ、って神は仰ったわ」
「神は男なら男らしく。女なら女らしくと仰せだそうだよ」
「もう!カズマの意地悪!・・・あっ、お母様が来たようね」
お母様はカズマがさっき私に言ったことを一通り叱り、一緒に荷造りを始めた。お気に入りの櫛を入れて、手鏡を入れて、大好きなクマのぬいぐるみをっと。服はどれを持っていこうか散々に悩み、結局お母様が選んでくれた。
侍女たちも参加し、これは要る要らないと大騒ぎ。昼前には大体終わったけど、こんな大変なのをいつか一人でやらなきゃいけないなんて思うと気が遠くなりそう。
‐‐
昼食を取り、外套を羽織ってお庭に出ると、雪がドサッと落ちる音があちこちから聞こえてくる。今いる玄関先の屋根の両側からも大きな雪の塊がが落ちてきた。とりあえず声をかけてみる。
「・・・誰か屋根にいるの?」
「はい、カズマです。今雪下ろしをしております」
屋根の雪を下ろす作業は1年中行わねばならず、重労働だ。朝には夜の冷え込みで雪が凍結しカチカチの氷になってしまう。その上にまた雪が積もると屋根が重さで歪むため、それを防ぐために雪を下していかなければならない。刃みたいに鋭く尖った氷で傷を負う人がいるくらい大変な仕事だ。
「怪我しなかった?大丈夫?」
「心配には及びません。もう一段落着いたところです」
その声を聞いてすぐ、後ろから執事のハイクが私の元へやってきた。おそらくカズマの仕事の進み具合をチェックしに来たのだろう。案の定、想像していた言葉が聞こえた。
「カズマよ、どうだ。終わったか?」
「完了しました、ハイク様。ご覧になられますか?」
「今向かうので待っていなさい」
これは私も見に行けちゃうんじゃないかしら。行ける、行けるわきっと!
今まで足元が危ないからダメって言われてたけど、行動しなきゃ始まらないわ。
「私も行ってもいい?」
ハイクはもう耳にタコができるくらい言ったセリフを聞くと渋い顔をした。
無理なのかなぁ。雪下ろしの度に聞いて回ったのが失敗だったの?でも聞かないで一人で登ると後が怖いし。
「・・・何度お断りしても聞きに来られるお嬢様には負けました。仕方がないですね、1回くらいは登らせてあげましょう」
はぁ、今回もダメだったかー。次よ、次があるわシェリ!まだ未来は明るい・・・って、え?
「ウソ、本当にいいの?もう取り消し効かないわよ!?今ダメだって言っても聞いてあげないからね!」
「分かっております。どうして今まで屋根の上に登らせなかった理由をご説明しましょう」
私は彼に連れられ、2階の物置部屋に向かう途中の廊下で天井からかけられていたハシゴを登った。すると上った先には氷の階段が築かれ、屋根を覆っていた雪がほぼ取り除かれていた。屋根自体は氷で覆われていたが、負担をかけない程度にを残し積もった雪を払うくらいで良さそうだ。等間隔で氷にラインが刻まれており、そこから解けた氷の水が流れ落ちている。
磨かれてガラスのように透き通った氷が太陽の光を反射し、燃えているのではないかと思わせる。いつまでも見ていたいほどに綺麗だった。
「どうです、お嬢様?カズマがここに来てから少しずつ屋根に蓄積していた氷を切りだし、磨き、人に見せても恥ずかしくないものになりました」
「すばらしいわ!こんなに美しい氷を見れるなんて、明日の別荘行きが惜しくなるくらいね。
ちょっとカズマ。少しお話したいんだけど、いい?」
カズマを連れて屋根の中央まで歩いていく。滑って転ばないよう人が歩く道は氷を砕いているようだ。小さな工夫だが、安全性を十分に確保している。
「・・もしかしてこれ、魔法を使ったの?使ったんでしょ?白状なさい」
「いやいや。使ってないとは言わないけど、氷の切り出しは最初から最後まで手作業だよ。積もった雪は少しだけ手伝ってもらったくらいかな。ほら、こんな具合に」
カズマが地面にあった雪のかけらを掬い上げ、私の目の前に放り投げる。すると空中で雪が小さな光になって消えた。わぁ、きれー。カズマが背中で隠していたためかハイクには見えなかったみたい。
「氷がここまで綺麗なのは雪の精のおかげだね。氷の中で眠っていたのを起こして回ったよ」
「氷の中に精霊がいるの?」
「いるというか、在るの方が正しいかも。この氷は元々雪が空気中の水分を吸って出来たわけだから、氷自体が精霊そのものなんだ。違う場合だってあるにはあるけど。じゃあそろそろ屋根から降りよう」
シェリ達は屋根から梯子のある方へ慎重に歩き、廊下に降り立った。無事3人とも地に足がついた時、ハイクが尋ねる。
「ところで、お嬢様とカズマは何のお話をされていたのですかな?」
「どうしてこんな風に仕上げることができたのか聞いてみただけよ。ねぇ?」
「そうですね。シェリ様に氷を加工する過程をお話ししておりました」
「ほう、そうですか。それはなにより」
カズマとハイクはまだ仕事があるからと階段先で別れた。別荘へ行く前にしなければならないことは多いはずである。屋敷の中はいつも以上に慌ただしい。
あぁもう、早く明日にならないかなぁ。