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第3話




―――6年後―――



「シェリお嬢様、朝ですよ。起きて着替えをなさりませんと」


「もう少しねてたいー」


「いけません。朝食は家族全員で取られているのですから。皆を待たせていては迷惑がかかります」


「うー・・・まだねむいのにー・・・」


ぐーっと伸びをして私はベッドからモゾモゾと動きながら起き上がった。

目の前には侍女達。もうずっと待たせておけばいいのに。はぁ~、着替えて下に降りよっと。


服を適当に見繕ってもらい、鏡を見る。枝毛一つ無いブロンドの長い髪。・・・よし、寝癖はないわね!


部屋を出ると廊下のすぐ近くにカズマが待機していた。この青年はある日突然、私の家の執事となった。

今ではシェリのボディーガードだ。生まれて間もない頃はハイクがシェリのボディーガードだったらしいんだけど、よく覚えてない。



―――彼が私のボディガードになってすぐのこと。


 シェリが今日はお出かけしたい、とお母様に告げてから門を出て、いつの間にか暗がりの路地裏に足を踏み入れていた。

そうした途端ガラの悪い人たちがわたし達の行く道を遮ったの。意地悪だなぁ、と思って横に回って通り過ぎようとしたら、何か私たちに言っているらしい。

その時カズマが応えてたようなんだけど、向こうが急に怒り出しちゃって。襲いかかってきた瞬間急に手を引かれて男たちをすり抜けたのよ。相手は追いかけてこなかったわ。


でも・・・あれ?あの人たち、雪に足をとられて動けなくなっているように見えたんだけど?

急に足元の雪が固まることってあるのかな。



外出を終えて家に戻る途中でカズマに聞いてみた。あれは何だったの?カズマがやったの?って。そしたら、


「シェリお嬢様と私だけの秘密です。ほかの人に話されたとしても、信じてもらえはしないでしょう」


彼は私を諭すように言った。

うん。お母様は信じてくれるかもだけど、お父様はダメかもー。子供の言った”たわごと”だって思われそう。むぅ、大人は見えるものしか信じないんだもん!


「そうだ!目の前で見せればお父様たちだって・・・」


「すみませんがシェリお嬢様。この”魔法”はなるべく隠しておきたいのです。非常時や誰にも見られていない時以外使うことは師匠から禁じられておりますので」


カズマはじっとこちらを見ている。なんだか怖い顔をしていた。

昔、イヤなことでもあったのかな?・・・っと、もう少しで聞きそびれるところだったわ!


「ま・・・”魔法”!?さっきのが魔法なの?えー、カズマすごーい!」


魔法。おとぎ話でしか聞いたことがない不思議な力。シェリも使いたいって思ったことあるもん!

あこがれてたし、もっと見てみたいよね!


「魔法というよりは、精霊術に近いですね。自分は雪の精にお願いしているのですよ。師匠が呼び名を決めず面倒くさいからと”魔法”と呼んでいたのです。簡単なことなら念じるだけで済みます」


せいれいじゅつ?魔法と変わらないじゃない。


「それよりも、魔法でちがうことはできないの?面白いことやってよー」


今度は申し訳なさそうな顔をするカズマ。なによ、聞きにくくなるじゃないの。


「先程も言ったように、むやみに見せることはできないのです。しかし再び目にする機会があるかもしれません」


「分かったわ。見れる機会を楽しみにしてる!それと、私のことはお嬢様だなんて呼ばなくてもいいわ。長ったらしくてイヤなのよ」


侍女たちもお嬢様、お嬢様って。お外でも呼ばれているとなんだか恥ずかしい気分になるの。普通の子みたいにシェリも呼ばれたいものだけど・・・


「かしこまりました、シェリ様」


「様もつけなくていいのよ?」


「呼び捨ては恐れ多くてとてもできません」


むぅ~むぅ~、どうしよ。どうにかして呼ばせることはできないかしら・・・”ばつ”で名前を呼ばせるのは無理があるし、歯痒いわね・・・・・・・そうだわ!


ここは『こうかんじょうけん』というものを使うしかないわ!お父様がお母様によく『こうかんじょうけん』と言っておこづかいをもらってたもの。さすが私!

でもお父様、いつも話が進むにつれて顔色が悪くなっていってたけど。


「だったら、そうね。私があなたの魔法を黙っていてあげる代わりに、二人きりの時はシェリと呼んでくれないかしら?魔法を絶対大人が信じないわけでもないでしょ?師匠がいるってことは、知っている人だって必ずいるんだからね」


「あぁ、なるほど。最悪誰かの耳に入るということも・・・分かりました。二人きりの時はシェリと呼びましょう」


「敬語なんてもってのほかよ!普通に話してほしいの。ほら、あの子達みたいに」


指で示す先には街の子供達が仲良く雪合戦をして遊んでいた。だがカズマは示された場所を見るや苦虫を噛みつぶしたご様子。私ったらちょっとぶしつけだった?いえ、そんなはずはないわ!もうひと押し!


どこから自信が湧いてくるのか、シェリはカズマに詰め寄って言った。


「カズマ。私の言うことが聞けないの?聞いてくれないの?」


「いえ、自分は誰に対しても敬語でしか話したことが無いもので。あの子達ほど”普通”の話し方というものが分かりません」


「師匠に対してもそうだったの?」


「いえ、この話し方は師匠が生きるために必要だからと教えてくれたのです」


なんてこと・・・!神様はシェリの思い通りにさせてくれないというの!

いや、まだよ、諦めるにはまだ早いってものよ!


「だったら話は早いわ。私を練習相手にすればいいのよ、かんぺきね」


「いえ、シェリ様にそのようなことは「てい!」・・痛っ」



しまった、つい手が出てしまったわ。もうこうなったらっ!


「カズマはシェリの言うことを聞いていればいーの!聞いてくれなきゃヤダ!

カズマは敬語を使っちゃだめなの!普通に話さなかったらキライになっちゃうんだからね!」

地団太を踏みカズマの服の端を引っ張る。


お父様もお母様もこれをすると、しょうがないなぁ、って感じになるのよね。

女のプライド?そんなの後からくっついてくるわよきっと。

この後彼は苦笑しつつ、私の頼みごと(?)を了承した。



--



「―――おはよう、カズマ」


「おはようございます、シェリ。昨晩はよく眠れた?」


柔和な顔に少しボサっとした茶色い髪。それが彼。


「眠れたのだけど、もう少しだけ寝させてほしかったわ」


家の者たちが誰もいない早朝の渡り廊下を歩く時間だけがカズマと普通に話せる時間だ。

外出時は人の目があるとのことで、私がお願いした時だけ敬語で話すのを止めてくれる。

1年も練習した成果が出たわ!・・・達成感に似た何かを感じる。


「シェリは本当に朝が弱いね。夜更かしでもしているの?」


「そんなことしてないわ。大きくなれるように早く寝てるもの」


「だったら尚更朝は早く起きなきゃ。ベッドから出たくない気持ちも分からないでもないけどね」



 もー。カズマはいっつもあーしなきゃとか、こーしなきゃとか言うんだから。

でも言われてイヤじゃないし文句も言えないのよね。侍女に言われるとイライラするのに、どうしてなの?と思った気持ちは胸の中にひとまず置いておくことにする。






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