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第8話




 無事お目当ての滝に辿りつけたはいいんだけど、これはー・・。




「カッチコチに固まってるわね。・・・滝が」


滝から発する轟々と唸る音が聞こえてこないと思ったら、凍ってしまっていたというわけね。小川に沿って上流へ歩いてきたけど、流れていた水は滝の氷が解け出したものだったらしい。滝を冷え上がらせるほどの寒さ。さすが白の国<スィルタイト共和国>といったところかしら。


見上げれば天辺から真下で弾けた飛沫まで見事な氷の芸術品。まるで竜が川に飛び込んだみたい。ここに来ただけの価値はあったってものよ。


「とっても綺麗ね。お父様とお母様に見せてあげたいわ」


「見せたい気持ちも分かるけど、来るまでの道がとても危険だよ。お二人にお怪我をさせる可能性だってある」


「そうよね。お父様とお母様と私3人をカズマ背負うのは、ちょっと無理があるわね」


「ちょっとじゃなくて絶対無理だから!

目的のものも見れたんだ、そろそろ戻ろう。今から別荘に帰らないと夕食の時間に間に合わないんじゃない?ほら、外も暗くなってきたし」


「目に焼き付けて、・・・よし!早くおんぶして頂戴カズマ、帰って教えてあげなくちゃ」


「帰りもおぶってくの?拒否権は「無い」・・・ですよね」


帰りは前に通った足跡があるため危ない場所を通らずに済んだ。もし長い間滝を見てたら降る雪で消えちゃうところだった、とカズマ。

途中カズマの様子が少しおかしかったけど、うーん。たまに立ち止まってはまた歩き始めた動きから考えると、もしかしたら狼が襲ってくるのを警戒して?滝が凍っていたのがそんなに変だった?雪の精がらみじゃないでしょうね~。どっちにしろ、隠しているなら後でとっちめて聞き出さなきゃ!


別荘に着いて夕食を食べ終えたシェリはお母様に今日あったことを伝えた。


「ねぇお母様。あのね、今日お外で―――」


「シェリ。あなた、外に行っていたの?ならもう家から出てはダメよ。お部屋にいなさい」


「・・・・」お父様は無言で私を見つめる。


「ど、どうしてよ!?前に来た時はそんなこと言われなかったのに!」


私はお母様に言われた意味が分からず声を荒げた。無理やり押さえつけられたようで無性に腹立たしい。

お母様は依然としてそれ以上口を開くことはなく厳しい面持ちで席を立ちお父様と共にリビングから出て行った。


やり切れない苛立ちを噛みしめていると、ジェド兄様が話しかけてくれた。


「シェリ、母上達は何も意地悪であんなことを言っている訳ではないんだ。君のためを思ってのことなんだよ。聞き分けてくれ」


「シェリの、ため?それはどういう意味なのジェド兄様?」


兄は頭を横に二度振り、席を立つ。


「今話せるのはここまでだ。カズマ、我が妹を頼んだよ」


「はい、お任せください。ジェド様」



 シェリとカズマ以外誰も居なくなった食卓。

メイド達が皿を片付け、暖炉の火が私の顔を明々と照らす。

燃え盛る炎はシェリの胸の内を表すかのようにうねり、ずっと見ていると自分が呑み込まれてしまいそうだ。薪の割れる音でぼんやりしていた意識が戻り、両手を頭の上で組んでグッと背伸びをする。


「んー、ふぅ。部屋に戻るわ。今日はもう寝たい気分」


「かしこまりました」



 自室まで歩いている途中、ちょっと心細くなってきた。

別にお化けが怖いとかじゃないのよ。屋敷にいた時より別荘の中の雰囲気が違っていることが怖い。私の知らないところで何かが起きているんじゃないかと思うとゾッとする。そういえばここに来てメイドや侍女しか見ていないわ。ハイクや他の執事達はどこに行ったのかしら。私の部屋の前に着くと、カズマは別れの挨拶を述べ廊下の曲がり角で姿が見えなくなった。



バタバタバターー!!バフンッ!

自分のベッドに飛び乗って枕に顔を埋めた。

もう、シェリがこんなに不安だっていうのにさっさと離れて行っちゃって、カズマのバカーー!!どうしてシェリの様子に気づいて、一緒にいてあげましょうかとか、眠れるまでお傍にいますとか言ってくれないの、この唐変木とうへんぼく!いいわ、一人でだって寝れるんだから。明日は私の誕生日だし、12歳最後の夜をひっそりと迎えてやるわよ。うわーん!


ひとしきり胸の内で(若干口から出てたような)叫んだ後、喉が渇いて近くの机にある水差しをつかんだ。あら?中身が空っぽ。水は台所まで行けばあるかしら。


ベッドを抜け出てふいに窓を見る。カーテンを開ければ、雲がいつの間にか晴れ綺麗な月が見えた。綺麗な満月。滅多に見られない月の輝きに私は見惚れていた。それでも喉の渇きは主張を再開し、早く扉を開けて水を飲めと騒ぎ立てる。仕方ないわ、月は逃げないんだし飲んでからゆっくり眺められるもん。




 扉の取っ手に手をかけ開けようとしたその時、急に何かが窓を遮り部屋の明かりが消える。一体何が起こったのか振り返ると、そこには見たこともない人影が視界に入り、・・・誰?


ガチャン!!


と窓の割れた音が聞こえたのを最後に目の前が真っ黒になった。




・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


カズマ・・・。







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