婚約破棄をさせましょう
「君と婚約破棄する!!」
ルーカス王大使殿下の成人祝いのパーティーで、この私ベル・アドーナはパーティー開始早々に婚約していたルーカス王子に婚約破棄を言い渡された。
あまりの衝撃発言に音楽もやみ、会場はしんと静まり返った。
「冗談では?」
会場の皆に聞こえるように階段の上から見下ろしている王子に向かってベルは笑って見せた。
「いいや本当だ。王妃になるのは私の隣にいるエルシーだ!!」
王子は隣で笑っている小柄な可愛らしい女性を皆に紹介した。
祝うために参加した貴族たちは予想していなかった事態にしばらくぽかんと口を開けたままだったが、王子の言葉を理解するとわっと拍手喝采し、多いに喜んだ。
(そうだろう、そうだろう!誰もベルが時期王妃になることを望んでいなかったのだ!)
王子は拍手に一瞬戸惑ったが、周りの様子にほくそ笑んだ。
王子はベルの表情をじっくり見ようと首を前に戻すと、目の前の元婚約者になる女は婚約破棄されて悲しむ様子は一切なかった。
むしろこの上なく美しい笑顔で恍惚に微笑んでいる。
うっっと王子は気味悪さを感じたじろいだ。
「大臣」
「はっ、ここに」
ベルに呼ばれた大臣は前に出て来て、懐から丸めた紙を広げ、書かれた内容を読み上げた。
「ルーカスがベル王妃候補との婚約破棄を宣言したのであればすぐさま婚約解消を許し、ベルは第五継承権がある我が弟オーウェンと婚約させるものとする。」
オーウェンは王子の叔父であり、現王の末弟である。
(オーウェン叔父上とだと?ふん、王位継承からほど遠く左遷させるには相応しい相手だな。)
私と相対する派閥になるのならまとめて潰してやると言わんばかりの表情。
しかし続いた手紙の内容を聞き、王子は目を見開いた。
「ならびに、ルーカスに選ばれた者は婚約者となり、破棄はできぬものとする。そしてルーカスの王位継承権を剥奪し、新しい婚約者と共にガラドの領地への幽閉とする」
王子は頭がフリーズし、手紙の内容を咀嚼するとぶわっと汗が溢れだした。
「なっ、どういうことだ!?継承権の剥奪だと!?ありえない!」
「国王様直々に書かれたものです。サインと印はここに」
大臣は王子に書面を見せた。
そこには間違いなく王家の紋章と、現王の名前が書かれている。
「おっお前が偽造したんだろ!!大罪だ!!おい、誰か大臣を捕えーーー」
王子の命令に誰も従わず、汚物を見るような目、あきれたような目、王子でなくなることを大層喜ぶ目ばかりだった。
皆の様子に王子はぞわりと寒気で震えた。
「ベル!お前がやったのか!?」
「いいえ、陛下御自身が判断されたのです。直接お聞きになればわかります。」
ベル勢いよくは扇子を広げ口許を隠して淡々と話した。
「ばかなばかなばかな!!王の子どもは私一人なのだぞ!」
頭をかきむしり、自分は絶対的に守られる存在だとさも当然な態度で王子はわめき散らす。
王子の隣にいる浮気相手の女は状況を理解できず困惑している。
調べではこの娘は親の指示でベルを蹴落としてその座を獲ようとした。
誰も助けてくれない状況に焦っているのが表情に出ている。
「殿下!婚約破棄をありがとうございます!これで貴方からの無茶な命令はなくなりました!」
「国庫の金を無駄遣いをしなくてもよくなりました!」
「娘に色目を向けられなくなるので安心です!」
次々と拍手と共に貴族達の王子に対する不満が弾けていく。
王子には大層うんざりしていたのだろう。
皆本当に嬉しそうにして、中には号泣している者までいる。
脅されていた者達だろう。
領地や家の存続が危ぶまれるほど王子の不当な扱いで、いつ首を吊るか負け戦になったとしても反旗を翻すか悩んでいたのを知っている。
貴族たちの狂喜ぶりは、ベルも少しおぞましくも感じた。
ちらりと視線を外すと貴族の中で笑ってない者達がいた。
王子を傀儡にしたがっていた者達だ。
巻き込まれないよう、そそくさと気付かれないようにパーティー会場から続々と退場している。
ベルはワイングラスを手に取り天井へ掲げて、
「皆様、今日は喜ばしい日です!夜が明けるまで祝いつくしましょう!!お疲れの方は退場していただいて結構ですわ。気持ちの良い夜をご自宅でお過ごしくださいませ。私は父にすぐさまこの事を伝えないといけないためお暇させていただきますわ!」
貴族たちは酒を手に取り嬉しそうに飲み始めた。
貴族のマナーを知らぬ下町の酒場のような騒ぎだ。
ベルは王子に一礼して会場を出た。廊下に出た瞬間軽やかな足取りで淑女らしからぬステップを踏みながら進んでいく。
「終わったかい?」
ベルに向かって微笑むのは先ほど話に出たオーウェン公爵。
現王とは12歳下の弟であり、私からは10歳年上の、先ほど読まれた書面に書かれていたベルと婚約する男である。
「ええ、婚約破棄を申し込まれました。」
流石に喜ぶのはおかしいと思い、悲しい表情をつくった。
オーウェンは優しくベルの手を取り馬車へエスコートする。
柔らかなクッションに座り、向かい合った。
パンと手綱の音が聞こえ、ゆっくりと馬車が動き出す。
「最後まで君も周りの者も諭そうとしたというのに、愚かな甥だよ。」
オーウェンも王子を諭そうと頑張っていた一人だった。
王子は自分が今後やらなければならない国政を手伝いすらやらず、ベルに全て押し付け遊び呆けていたのだ。
妃教育も大変なのに国政の確認にあちこち歩き回って、作業が遅れると文句ばかりベルにぶつける日々であった。
ある日の出来事で、その日中に終わらせなければならなかった書類をベルが手をつけてなかったことに怒り、王子は手を上げたところ、オーウェンが庇ってくれたことがあった。
それから時折ベルを気にかけ、王子自身にやらせるよう取り計らってくれたり、分からないところを丁寧に指導してくれた。
それがよくなく、王子はオーウェンを恨み始め、根も葉もない噂や、権力を振りかざして他国へ使者として国からいなくなるようにした。
(オーウェン様になかなか会えなくて、王子の恨みは天元突破したけど、今日でそれもなくなる)
ベルは一息ついた。
「あっ、すみません。だらしない座り方をして」
「いいよ、今まで苦労してきたんだ。俺しか見ていない。楽な姿勢でいてくれ」
ありがたく身体を崩し、背もたれにもたれた。
「…今回のことは君のせいではないのに、俺のところへ嫁ぐことになってつらいだろう。不満をいくらでも言っていい」
「いいえ、私は貴方が婚約者であればよかったと夜空の星ほど思ったことか。貴方が王位を継承する私の婚約者であればよかった」
「それは思ったとしても言ってはいけないことだ。…聞かなかったことにしよう」
オーウェンはベルの王家に対する批判を呆れながら叱った。
でもこのベルの気持ちは本当だ。
忙しくてつらかった時、何度も国政を手伝ってくれたのだった。
自分がやったといっていいのに、私の手柄にしてくれたこともたくさんあった。
この人のためならもっと頑張れるとそう幼い時から思って、この人に褒められたくて頑張ってきたのだ。
叶わぬ恋だと知りながら、たまにの逢瀬を待ち遠しく思っていた。
ベルの両親は王家に連なる家という看板をとても欲しがった。
どんなにオーウェンが優秀だとしても、王位を告げる可能性は低く、一人の少女が自分の感情で好きな人は選べない。
結婚は無理だろうから私が妃になって、陰ながら助けることが彼の恩返しになるだろうと、妃になるためがんばった。
王子のことが苦手でも我慢して、初恋の男を守るために働いた。
しかし状況は変わった。
王妃教育を受けながら王室の仕事に関わっていると、ある日王子の浪費を知ったのだ。
陛下に確認をしたところ、陛下も知らなかったようで深く眉間のシワをつくり米神を押さえた。
「このままだと、あやつには王位をやれないな…」
これはチャンスだと思い、賭けにでた。
ベルは陛下と取り決めをし、成人の誕生日まで待つことになった。
流石になにもしないということは結婚したくないですと言っているようなものなので、浮気などを見かけたら無視をせずそれとなく注意をした。
「王になったら執務室に監禁なんだ。今は許されたっていいだろ」
と、へらへらしながら弱々しそうな演技をする見目麗しい令嬢を侍らせながら去っていった。
その度に私はガッツポーズをした。
それとなく令嬢を誘いやすい隙の時間をわざとつくり、政策に文句ばかり言ってくる本人を執務室に来ないようにもした。
ずっと働くベルを側仕え達が心配していたが、本人はうきうきで仕事ができたのだった。
ついに来た成人祝いのパーティー。
長年の我慢が今日実を結んだのだ。
王子は期待どおりの働きを最後に盛大にしてくれたので、現在のベルは過去の事は全て水に流していいほど気分がさっぱりで、高揚していた。
「オーウェン様とならどんなところでも安心して共に政をやっていけると思います。」
「しかし、家を開けることが多いぞ。家で一人過ごさせることになる。不自由はさせないようにするが…」
オーウェンは辺境の地を治め、王の命令により各国へ視察に行ったり交渉しに行ったりと忙しかった。
それに加え無謀な仕事は王子の不当な恨みからに与えられたものもたくさんある。
「今後の仕事は第二継承権の―いえ、新しい王大使殿下から采配していただけるでしょう。それに、他国へ行ったことがないので、共に使者として妻として支えたいと思っているのですが、だめですか?」
「それは嬉しいが、働きづめはよくないぞ」
そういってベラの頭を優しくなでた。
「貴方もそうでしょう」
むっとした顔で抗議すると、オーウェンはまるで子供をあやすように笑いごまかした。
この人は私の事を女性として見てくれていないとベルはわかっていた。
それが少し痛みとなって胸を傷つけた。
ガタンと馬車が止まった。
ベルの屋敷に着いたのだ。
今回の事を何も知らない両親に説明しなければならない。
そして王位継承権が5番目と低い男と婚約を知れば発狂するだろう。
「これから君の両親にひどく詰められるだろう。俺が絶対に守ってやる。」
表情から見て本当だろうとわかる頼もしい顔をしていた。
(初恋の人はとてもかっこいい男性だ。私の成人は2年後。それまでにオーウェン様が思うドンピシャの女性になる研究と努力をしなくては。親に怯えていてはだめだわ!)
オーウェンに出された左腕に自分の右腕を回し、家に一歩踏み出した。
年の差が好きなので、長い時間もだもだしているカップルの話を作れるようになりたいです。




