摂理に則って
2本目…2本目…。
――ポヨンッ!――
「ふぅッ!――良し、獲物見っけ!」
着地と共にそう言いながら、私は今し方拾い上げた〝同種〟と、それを狙っていた角兎に視線を向ける。
「ミ……ミィ?」
同種の方は状況が理解出来ていないのかしら…フルフルと震えながら此方を見ているけれど…戦闘の意思は無いらしいわね。
「この子は無視で良いわね、戦わないなら捨て置きましょう…それで、此方は?」
角兎を見る…此方は仕留め損なった事に驚き、乱入した私に警戒が有る…それに、敵意もバッチリ…うん、良いわね♪…。
「逃げる獲物を甚振っても楽しくなんかないもの♪…やるならちゃんと〝敵〟として殺さないと♪」
私は標的を此方に定めた角兎を見ながら…触手を再び生成する…互いに敵意を向けながら様子を伺い…まだ仕掛けてこない角兎を前に、私はその触手で地面の礫を掴む。
「さぁ、試しましょう…新しい戦技で何が出来るのか…先ずは――」
そして、その触手を素早く振るい…角兎に向けて投擲する…コレが戦技を見て最初に考え付いた攻撃手段…〝投擲〟である。
「――小手調べ、ね♪」
――ヒュンッ――
それなりの勢いをつけて放たれた投擲は…そこそこの勢いをつけて、角兎に迫る…。
――ガッ!――
「キュッ!?」
「フフッ、ヒット♪」
その礫は寸分違わぬ軌道で角兎の頭部を掠め…その痛みに角兎は思わず小さく鳴く。
――――――
【角兎】LV3/10
HP:180/200
MP:120/120
――――――
「ダメージ確認、行けるわね♪」
その姿と、数値として表示されるHPの減少に、私はコレが武器足り得る攻撃手段と認識する。
「そうと分かれば、此方から仕掛けましょうか」
そして、私の行動が均衡を壊す一因となり…角兎は、弾かれた様に私へ頭突きを見舞おうとする。
「ソレはもう対策済みよ」
しかし、此方は既に何度もその攻撃を食らっている身である…今更こんな物を受けてあげるつもりもない。
――ポヨンッ――
空中に跳ねて、角兎の突進を躱す…本来ならコレで終わりだったけれど…既に空中での身体の使い方を知った私は…そのまま視線を真下の角兎に向けて…2本の触手を伸ばす。
――ギュウッ――
「キュッ!?」
その触手は立ち止まる角兎の身体に素早く取り付き、その身体にガッチリと掴みかかる…コレで捉えた。
「後は軌道に気を付けて…っと!」
驚き固まる角兎の声を聞き流して、私は角兎の背後を取ると…背に回った瞬間、掴んでいた触手に力を込めて〝引き寄せる〟…!
何も角兎を此方に引き摺り出したかった訳じゃない…寧ろその逆で、大地を踏み締める角兎と空中から引っ張る私とでは、素のステータスも相まって私が押し負けるだろう…だが、それこそが〝狙い〟なのである。
――グイッ!――
引っ張られた身体は勢いを付けて角兎の背中へと肉薄する…私は、なるべく全身に力を込めて精一杯固くなり…その勢いのまま、角兎にタックルする…。
コレこそ、〈掴み〉を併用した私の武器…〝誘導タックル〟…!
その一撃は、確かに角兎の背中に衝突し…。
――ドンッ!――
そんな衝突音と共に、角兎は微かな悲鳴を上げて押し飛ばされる。
――――――
【角兎】LV3/10
HP:150/200
MP:120/120
――――――
「タックルもダメージ有りね…投擲の方がダメージが低いのは…重さの問題かしらね」
着実に削れるHPを見ながら、私は独り言の様にこの戦闘を記録する。
「――フフフッ、楽しくなって来たわねぇこの世界♪」
自身の身体に奔る痛みに、漸く角兎も気付き始めたのだろう…私が、〝己を殺し得る存在〟である事に。
「キュウゥ…!」
気が付けば角兎の身体から敵意が消え、代わりに怯えと警戒が色濃く瞳に滲み出す…どうやら、完全に戦意が萎えたらしい…けれど。
「――駄目ね、一度敵意を向けた以上…貴方を逃がすつもりはないわよ?…可愛い目で命乞いしても、駄目なものは駄目よ…フフフッ♪」
私は反対に、戦意を猛らせながら角兎にジリジリと近付いて行く…私が退かないと分かったのだろう…角兎は踵を返し、逃げようとする。
――ポヨンッ――
「はい駄目♪」
しかし、そんな角兎の逃走を私は飛び掛かり…触手を使って拘束し、阻止する…最早完全に、精神的な勝敗は着いていた。
「キュウッ、キュウゥッ、キュッ!!!」
「あら、あら、あら、あら……さっきまで弱いもの虐めしていた癖に、いざ自分がその立場になると命乞い?…フフフッ、フフフフフッ♪」
弱々しく鳴く角兎の声に、私はソレが命乞いをしているのだと理解し…可笑しくて笑ってしまう。
「――駄目ね、駄目よ…この世界は〝弱肉強食〟なのでしょう?…襲う気で、殺す気で、甚振るつもりで弱者を狙うと言うのなら、自分が殺される事も承知しておかないと駄目じゃない…今更に命乞いなんて許さないわよ♪」
――ギュウゥッ!――
触手に力を込めて締め上げる、ソレに反発する様に角兎は藻掻き始め…私の触手と角兎の抵抗は拮抗する。
「あら、振りほどけ無いのね…もしかして、ステータスが拮抗していると拘束は解けないのかしら?」
……恐らく、そう言う事なんでしょうね。
「この辺りも要検証ね…うん、もう十分かしら…この戦いで収穫は大量に手に入れたわ♪」
攻撃手段の確立、戦技の応用、ステータスの差、拮抗が齎すメリット、デメリットの可能性…一戦から得るには十分過ぎる程の収穫ね。
「フフフッ、それじゃあもう…貴方は用済みね……〝殺す〟わ♪」
――ポヨンッ――
そして、それから数分掛けて角兎に攻撃を加え続け…最後のタックルで角兎を吹き飛ばすと…角兎はピクリとも動かなくなる。
《角兎を倒しました、経験値を獲得しました!》
《戦利品〈角兎の毛皮〉を入手しました!》
《〈触手〉のレベルが上がりました!》
《〈生存強化〉のレベルが上がりました!》
「ん…フフッ、戦いに勝って鳴り響く成長報告…悪くないわね♪」
完全に自力で討伐した角兎の死骸の前で、私は勝利の悦に浸りながらそう言葉を零す…しかし、それも束の間に、私は直ぐに角兎ね死骸を取り込み…お腹を満たす。
――シュウゥゥゥッ――
「御馳走様♪…コレで満腹度も回復したし、直ぐに取り込んだから臭いも広がってない…わよね?」
そして、戦闘を終え…私は満足感を覚えると…そのまま触手を生やし、木を登る。
「それじゃあ引き続き獲物探しね…じゃんじゃん狩ってレベルを上げて行くわよ〜!」
そして、そのまま戦場の跡を放って次の獲物を探し始める…。
「…ミ、ミッ!」
「――貴方も気を付けなさいな、どう言う目的でこの世界に来たかは分からないけど…この場所じゃ、強くならないと何も出来ないわよ?」
最後に、取り残された同種の子にそう言い残して。
「か、カッコいい…!」
その後、あの子がどうなったのかは分からないし興味も無いけれど…どうせなら、楽しめていると良いわね。




