学びと理性、欲動する獣性
2本目…次の次にはこの章の山場を描きたい所。
――カリカリカリカリッ――
「此処の数式は――」
「……」
現実世界では、筆を紙の上に走らせる。
――カリカリカリカリッ――
「■は〝大地〟を表す文字で、◆は〝空〟を表す大地…▲は――」
「……」
電脳世界では、レイナからこの世界の文字の読み書きを教わる。
――カリカリカリカリッ――
「この反応は――」
「※と※を繋げると〝※※※〟、つまり――」
「……」
学び、理解する…知恵を喰らい、糧とする。
――カリカリカリカリッ――
「※◆∇◆と」
「◆∇◆■は」
「…」
〝学習〟…そのプロセスの重要性は、十二分に理解している…だからこそ、私はソレを受け入れているし、その事に不満は無い。
「「※※※※」」
しかし…来る日もあくる日も、動く事もままならず、文字と言語の海の上で泳ぎ続けるのは、流石の私も答えるわけで……。
「―」
〝退屈〟だ…。
《新たな【能力】を獲得しました、〈簡易言語〉を獲得しました》
私は、私の心が灰色に染まり…私の首を真綿で絞める〝忌むべき退屈〟の姿を幻視し…錆び付いた心臓の奥にジワリと拡がる…〝ソレ〟の姿を…確かに認識する。
――『……』――
何時ぞやか、その存在の名を私は知っている…かつて、ソレは〝私〟であり…〝私の一部〟だった物だ。
『嗚呼…つまらない』
退屈を拒む様に〝ソレ〟は言う…そして、ソレは私に手を伸ばし…言葉を紡ぐ。
『〝まだ〟…〝足りない〟』
その手に、私も手を伸ばす…そして、その名を口に出そうとした…その瞬間。
――ピコンッ!――
《新たな〝営巣〟を設営しました、〈陰鬱の岩戸〉を獲得しました!》
「ッ――!」
跳ね上がる様に、私は夢の境から目覚め…横で眠るレイナが、物音に薄目を開く。
「ん…んん…スライムさん…?…どうしました?」
「……」
「?…スライムさん?」
レイナの問いに、私は沈黙で返す…久し振りに躍動する身体と、地面に刻まれた文字の図解に視線を這わせる…そんな私の脳髄には、既に…あの夢の境で見た〝光景〟は消え失せ…ただ、久方ぶりの〝肉体の躍動〟に、心臓が逸っていた。
「レイナ…悪いけれど、ちょっと外に出るわ」
辛うじて文字を紡ぎ上げ…その文字にレイナが不安気に私を見上げる。
「…直ぐに…戻って来る?」
「えぇ、約束するわ」
レイナの問いに私はそう返し、頭を撫でると…レイナは柔らかい笑みを浮かべ…私に手を伸ばす。
「うん…それじゃあ…待ってるね、スライムさん」
「有り難う、私のレイナ」
その手に私も軽く手に触れた後…再び眠るレイナを尻目に、隠し部屋から出て洞窟を飛び出す…。
――ドキッ、ドキッ、ドキッ――
痛い程跳ねる心臓の鼓動に身を任せ…全身の力の枷を外し…外に飛び出す――そして。
「―――ハハッ!」
〝満願成就〟の…夜が来た。
――ドッ…ドッ…ドッ…――
「グルルゥ?」
月光に晒され…私の影が大地に差す…その影に被さり…月下を歩く、〝夜の化物〟は、空の上の私に気が付いた。
――――――
【小鬼の狂戦士】LV23/30
HP:3550/3550
MP:1200/1200
――――――
「――アハッ♪」
目と目が合った、その瞬間…私は強固な筋肉の鎧に身を包んだゴブリン目掛けて落下しながら、その触手の刃を振るう。
――ザシュッ――
――ズドンッ――
――ズドンッ――
――ガッ、ドゴォッ――
――ドスッ!…――
幾らかの騒音と、血と粘液が飛び散り…数分後。
――ポタッ…ポタッポタッ…――
「ギィッ…ガァッ…!」
其処には、死に体の身体を引きずる私と…その四肢を切り裂かれ、抉り取られ…地面に転がる狂戦士の姿が合った。
――ゴポッ…グニャァァッ――
凄惨な死の中で、私は触手の槍を生み出し…狂戦士の胸に、その槍を突き立てていく…苦悶に歪む顔、肉を抉り分ける感触…心臓の鼓動が近付く感触を味わいながら…その、生命を絶つ。
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
《レベルが最大に成りました、【進化】を行いますか?》
「…当然」
その瞬間、私は数日ぶりの【進化】に笑みを浮かべ…再び眠り落ちる。
――パチッ――
そして…目が覚めると其処はやはり白く…無数の螺旋が集約する渦の間に私は立っていた。
《進化先を表示します》
――――――
【昇華】
・ギガントスライム(条件未達成)
【再誕】
・グリーンスライム
・シャドウスライム
・マーダースライム
【回帰】
・グレイウルフ
・角兎
・森護鹿
・突進猪
・ゴブリン
――――――
2度目ともなれば、感慨も薄れると言うもの…私は流れる様に進出した項目と種族の詳細に目を通す。
―――――
【回帰】
自らの全てを忘却する道、一部のステータスと能力を忘却するが、同じレベルに達するまでステータスと能力の成長ボーナスが付与される。
――――――
――――――
【マーダースライム】
スライム種の中では異質な、戦いに特化したスライム…狡猾な知性を持ち、真紅の血のような身体を持ち、生き物の血肉を食し、その触手は他者を殺めることに特化している。
発生条件が極めて珍しく、研究目的にこのスライムを求める物は多い
――――――
情報はざっとこんな所か…さて、それでは種族の選択を…と言いたい所だけど、残念ながら昇華は能力が条件に達していないらしく、行使できない…。
(〈触手〉と〈再生〉がレベル上限に達しないと解放されないのね…なら)
ならばと、私は【再誕】の中から次の進化先を決定する。
――カチンッ♪――
《【マーダースライム】への進化が決定されました!》
すると、聞き慣れたアナウンスと共に私の意識は再び闇に落ち…私は目覚める。
《新たな【能力】を獲得、〈模倣〉を獲得しました!》
《〈簡易言語〉は〈模倣〉に統合されました!》
それと同時に響いたメッセージに、私は能力を確認し…その内容に笑みを零す。
「へぇ…コレが【固有能力】ね…〝面白い〟じゃない」




