饗宴への招待状
2本目…眠い…可笑しい、つい数時間前に一度寝た筈なのに…何者かからの攻撃を受けている…!?
――ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ…――
「邪魔者を、排除出来たのは良いんだけどねぇ…」
洞窟の奥で…私は、死肉と悪臭を処理しながら、そう言い触手を振るう。
「厄介な置き土産を、隠していたわね…ホント」
其処は、洞窟の深奥に有る岩の隙間から繋がる、小さな隠し部屋…その中に蠢く小さな命を…私は、その手で手折っていく。
「ウギャアッ、ウギャアッ…!」
「――例え異形とは言え人型の、それも罪も何も無い赤子を殺すのは、さすがに良心の呵責に見舞われるわね…」
母胎は疾うの昔に死んでいた、何処の誰かも分からないほど腐敗し、風化した死体も…その胎から生まれたのだろうゴブリンの赤子の骸も、等しく喰らい…私の胃の中に放り込む。
《新たな【称号】を獲得、〈小鬼狩り〉を獲得しました!》
「レイナに見せなくて正解ね…あの子も流石に、この子達を殺す事は出来いでしょうから」
そうしている間に、息を着く声は消え失せ…私は、地面に滴る血の一滴までもを吸い尽くす。
《〈雑食〉のレベルが上がりました!》
「さ…過ぎた事、仕方の無い不条理は切り替えて…早速〝巣〟を作っていきましょうか」
粗方を清潔にした所で、私はその魔力を洞窟内に満たしていく…。
「――流石に、あの兎の巣穴と比べると必要な魔力量は段違いね…1日2日じゃ無理ね」
…とは言え、現在の私の魔力を以てしてもこの巣を〝拠点〟とするには魔力のリソースが足りず…私は、此処に長時間拘束される事を余儀なくされる。
「――ハァ…仕方無い…コレも安全な拠点を手に入れる為…甘んじて受け入れましょう」
「スライムさ〜ん!――入口の掃除終わりました!」
私がそうして、この空間で魔力を流し続けていると…掃除が終わったのだろうレイナが戻って来る。
「スライムさん、何をしてるの?」
「ん…そう言えばレイナは魔物の巣の作り方を知らなかったわね」
私の傍にやってきたレイナに、軽く労いを告げながら、私はレイナに巣の作り方を説明する。
「――へ〜、それじゃスライムさんは暫く動けないってこと?」
「まぁそうね…でもまぁ、其処まで問題は無いわよ…今は別に急ぐ様な予定は無いし――」
その説明の合間に、レイナの言葉にそう返していたその時。
『〝全プレイヤー〟の皆様へ、ワールドアナウンスを通達致します』
「ッ!」
「?…どうかしたの?」
私達に向けて放たれたメッセージに私は驚き、ソレにレイナが首を傾げる。
『1週間後の午前0時より、〝特別イベント…獣達の饗宴〟を開催する事を予告致します』
『詳しいイベント説明はプレイヤーの皆様に送付されたシステムメッセージのURLリンクよりご確認下さい』
そんなレイナを差し置いて、私はそのアナウンスに暫く呆然とした後。
――クワッ!――
疾風の如くにシステムメニューを開き、その中からメッセージの項目を確認し、イベントの詳細に触れる…内容は――。
――――――
【小規模イベント〈獣達の饗宴〉】
彼方の獣よ、混沌の因子よ…汝らは未だ雛である。
世界を巡るには力が足りぬ、世界を変えるにはまだまだ足りぬ。
故に、コレは恵みであり…試練である。
・プレイヤーが存在しているエリアに〝人間の集落〟が生成されます。
・イベント期間中、〝人間の集落〟周辺で発生した戦闘への経験値ボーナスが与えられます、沢山倒しましょう!
・イベント終了後、プレイヤー各位に其々〝ポイント〟が付与されます…イベント終了後に解放される〝イベントショップ〟で、特別な【能力】や【称号】、【装備】を手に入れましょう!
――――――
上記の通りである。
「……」
沈黙が…私達を包む…そう、このイベントは…とどのつまり…。
「〝強化イベント〟じゃないのー!?!?!?」
そう、プレイヤーのレベルを上げる為に企画された〝強化イベント〟である。
「ノー!!!…何でこんな間の悪いタイミングでくるのよー!!!」
今から1週間後、その間イベントの為に備えるとして、7日の内何日が巣を作る為に潰されるのか!…全く、全くなんて運の無い!…。
「ぬぁぁぁ……!!!」
へなへなへなと…自分の体を溶かしながら、私は体の力を抜く…そんな私を心配したのかレイナが私を掬い上げ…私へ伝える。
「その…大丈夫?…具合が悪いの?」
「のぉぉぉ…具合が悪いと言えば、そうね…現実の無情さに打ちのめされてるわよ…」
届かない声で、私はレイナにそう言うと…レイナは困った様な顔で私を抱えたまま…静かに膝に乗せて、語り掛ける。
「スライムさん、何があったのかは分からないけど…今は目の前の事に集中しよ!…スライムさんは今は此処から動けないんでしょ?」
「――えぇ、そうよ(ミィ、ミミ)」
「なら、その間は私がスライムさんの御世話とお勉強に付き合ってあげる…スライムさんが私達の文字を覚えたら…きっと、お話が出来るでしょ?」
まるで母の様に慈愛に満ちたその言葉に、私は気を取り直し…レイナの目の前に、再び形を保つ。
「ん…そ、そうね…あまりのショックに頭が真っ白になってたわ…その案には大賛成よ…この世界の言語や文字の知識は知っておくだけ有利でしょう」
その手の勉強なんて、こんなタイミング以外じゃほぼ手を付けないでしょうしね。
「―イベント期間のロスには、この際目を瞑るとして…それじゃあ、レイナの案でこの巣が出来上がるまでの暇潰しをするとしましょうか」
「――それじゃあ、先ずは簡単な所から始めましょう」
私はそう言い…レイナの手から触手を解き…ソレを地面に向ける…すると、そんな私を見たレイナがクスクスと笑いながら、私に合わせてその手で文字を記し始めるのだった。




