絶対服従と一蓮托生
2本目…ヨシッ…。
(馬鹿か私はッ、情報は既に拾っていたのに!)
目の前に居る、〝ソレ〟の姿を前に…私は内心で毒を吐く。
〝ゴブリンの個々は弱い〟、〝弱い魔物が私を襲う事は無い〟、〝なのにゴブリンは襲撃した〟…。
「――〝より強い魔物〟と、手を組んでいる〝可能性〟」
ソレを、今に至るまで思い付きもしなかった…。
「――ゲァァ?」
「〝ゴブリン・ソードマン〟…LV18/20」
相対するのは…レベル数段上の格上と、雑魚だが数の多い取り巻き。
「守り切れる自信は無い――だったら」
私は…レイナを掴んでいた触手を収縮させ…狙いを定める…狙いは。
「半端な守りは――〝捨てる〟」
優先は周囲で立ち呆ける…〝取り巻き〟の排除…次点で――。
――ドスドスドスッ――
「〝敵主力〟の能力把握…ね!」
触手の槍が、ゴブリンの下腹部を直撃する残りは僅か3匹…頭部狙いの方が威力は上がるがその分命中精度が落ちる…なら。
「〝貫いて〟…〝投げる〟」
腹部を貫き、そのゴブリンの身体をソードマンに投げ付ける。
「ギィ――」
己目掛けて飛んでくる小鬼の身体を前に…ソードマンはそう、何かを小さく呟くと、剣を手に掛け――。
――ザンッ!――
「グギャッ――」
その剣の一振りで、味方の身体諸共私の触手を切り飛ばす。
「――容赦無いわね、部下は手駒って事かしら?」
(ステータスはゴブリンの比じゃない、名前から凡その種族傾向は読み取れる…〝剣士〟…つまり)
――ギュンッ!――
「ギィ、〝ギギャァ〟――」
――ザザザンッ――
「成る程――〝物理ステータス〟を特化させた〝昇華先〟と見た」
(この感じ…明らかにパラメータ上のスペックは私以上)
速さが違う…それに、今の一瞬…ソードマンから〝魔力〟の放出が見えた。
「察するに〈剣術〉系統の【能力】と〈戦技〉持ちって訳ね、名前通りなら…だけど」
(となると面倒ね…遠距離から触手の攻撃は対応される…かと言って近接戦は私の不利)
飛び跳ねて避けて躱す私と、小回りの利く剣術使いじゃ、先ず空中を狩られて死ぬ。
(残る雑魚達は2匹、一匹健常、一匹手負いで打撃を使えば仕留められる…問題は〝彼奴〟)
「ギィ…ギギャア、ギャウッ、ガウッ!」
「「ギ、ギィィ…」」
「〝ギアァ?〟」
「「ギ、ギャウッ!」」
彼奴が動き出したら、先ず勝ちの目が薄い…幸い、今は指揮官ごっこに夢中で自身への攻撃以外は部下任せ。
(ただ、部下を全滅させると彼奴が出張らざるを得ない…最悪、足止めすればエレナを逃がせる?)
無理だ、レイナとソードマンじゃ体力と速力が違う…相手の方が地形の把握も上とみれば、先ず逃げられない。
つまり、私が死ねば連鎖してレイナも死ぬ。
「――……打つ手は…一つ」
●○●○●○
――ブンッ――
目の前で繰り広げられる戦いを、私はただ…見続ける事しか出来なかった。
「ミッ!」
振るわれたスライムさんの触手が、ゴブリン達を襲う…だけど。
「ギャッ!」
「ギィィッ!」
――ゴッ!――
その触手は、ゴブリン達の棍棒によって地面に叩き落とされ…ピクリとも、動かない。
「嘘…!」
「ミッ…ミィィ…!」
ピクリとも動かない触手を、ゴブリン達が木の棒で滅多打ちにする…ソレに、スライムさんが悔しげな声を上げながら、動かなくなった触手を千切り…再び、触手を形成する。
「ミィィッ!」
そして、再びまた…ゴブリン達に攻撃を加える。
「ギギャア!」
――ゴッ!――
だけど、その攻撃さえ…ゴブリン達の棍棒に叩き落とされ、同じ様に滅多打ちにされて潰れてゆく。
「ミィ!」
それでも、再びスライムさんは触手を再生させ…身を削りながら猛攻撃を続ける。
「でも…このままじゃ…」
繰り返す…何度も、何度も、何度も…スライムさんは触手を再生させる度にゴブリンへ攻撃を続け…その度にスライムの攻撃は叩き落とされ、その触手を潰されてゆく…。
明らかに…スライムさんは〝弱っていた〟…。
(でも…どうして?)
そんな状況に、私は心の中でそう疑問を紡ぐ…さっきまで、そんな気配は全然無かった…あのゴブリンのリーダーが出て来た時も…なのに、急に勢いが弱くなっていった…。
「……どういう事…?」
スライムさんとは、ついさっき出会ったばかりだ…1時間も会話はしていない…だけど。
(この〝魔物〟は…〝賢い〟…!)
会話や、動きから…否応なしに理解させられる…このヒトは、其処等の魔物よりも遥かに賢い、知性を持っている…。
(そんなヒトが、明らかに効果の無い攻撃を繰り返す理由は…〝なに〟?)
疑問が脳裏を巡り…私は、スライムさんを注視する…。
「……あ」
だから、気付いた…スライムさんの猛攻撃、ゴブリン達への攻撃…その触手の動きと、スライムさんの身体によって隠された…もう一つの〝触手〟に。
「〝アレ〟は……!」
その触手に、私は駆け寄り、地面を注視する…其処には。
――ザリザリザリザリッ――
ゆっくり、ゆっくりと…地面を掘って進むスライムさんの触手と、その触手によって作られた〝絵〟があった。
「この〝絵〟は…!」
其処には、短く簡潔に…〝私に向けて〟綴られた絵が有った。
その絵とは…〝人と杖〟、〝放たれた何かと耳の尖った小さな人〟…その絵から読み解ける意味…とは。
「私が…〝魔術〟を…?」
「〝ミッ〟」
その言葉に、スライムさんはそう鳴く…どうやら、私の考えが合っていたみたい…だけど。
「私…〝魔術〟なんて知らない」
「〝ミ〟」
私は、魔術なんて分からないし…知らない、使った事も、自分が使えるのかさえ知らない。
「教えてもらった事もないのに…」
「〝ミッ〟」
今まで、誰もそんなの教えてくれなかった…なのに急にやれって言われても――。
「〝出来る訳がない〟…!」
「〝ミッ!〟」
私が…スライムさんにそう言うと、スライムさんが一際強く鳴き…私に触手を伸ばす。
――トンッ――
その触手は、強く私の胸を突き…それから地面に描かれたスライムさんの絵にバツを記す…ソレはつまり。
――〝二人とも死ぬ〟――
そう言いたいのだろう…スライムさんは、再び私に触手を伸ばすと、その手に触手を絡ませる。
「〝ミ♪〟――」
「―――」
その声は、私へ向けて優しく放たれ…スライムさんが私の手を優しく握りながら…私へ視線を送る。
「――分かった…やってみる…!」
そんな、スライムさんの姿に…私は、自分中に渦巻く不安を押し込めて…そう、スライムさんに告げると…スライムさんはそれ以上何も言わず…ゴブリン達に意識を集中させる…その後ろで。
(やらないと…二人とも死んじゃうんだ…!)
「……私が…やらないと…!」
私は…触手を握り締めて…目を閉じた…。




