井の中のスライム、大海を食らう
審議の結果、コレを本日1本目とする事を決めた作者です。
2本目は…0時付近に出る…かも知れない(頑張ります)
――ダッ!――
迫る狼を肉眼で捉え…その攻撃の予兆を捉える。
「…〝噛み付き〟!」
牙を剥き出し、大口を開いて迫る…その行動に、私は大きくその場を退く。
――ポヨンッ――
「――その行動は悪手じゃない?」
牙は虚しく空を噛み砕き、頭上に飛んだ私はそんな彼に目掛けて触手を撓らせる。
――ブンッ!――
「ギャウッ!?」
空を切って進む触手は、鞭のように彼の皮膚を奔り…その衝撃と苦悶に、初めて彼は苦痛の声を漏らす。
(攻撃手段は普通の〝灰色狼〟と同じ?…ステータスが強化された個体って事なのかしら?)
そんな彼の様子に、私の思考は彼をそう評価する。
「――でも、引っ掛かるわね」
(〝灰色狼〟…〝灰色〟…態々色を強調する種族名なのが気になるわ)
考え過ぎなら、其れで構わないけれど…もし、この〝色〟に種族としての〝特性〟が有るとするなら?…。
(【スライム】と【グリーンスライム】の違いは――)
思い返すのは、あの時…進化の螺旋が渦巻く世界で見た…〝情報〟――。
――――――
【グリーンスライム】
【スライム】がこの地の性質に適応した姿、他のスライムと異なり、〝土と風〟の属性を有している。
――――――
「〝属性〟の有無…!」
(だとするなら〝灰色〟と〝影色〟の違いは――)
其処までが思考に至り…私はふと、彼の方に視線を向ける…しかし。
――……――
先程まで其処に居た筈の彼の姿は見当たらず…私は一瞬、その事態に思考を止める。
――グルルルッ――
そして、その声が私の直ぐ後ろで聞こえた瞬間…堰き止められていた思考の枷が外れ…弾ける様に私の身体は動く…。
――ズドンッ――
その行動は、背後から繰り出された爪の攻撃を肉を掠める程度の被害に抑え…私は直ぐにその場から飛び退き、いつの間にか〝背後〟に回っていた影色狼を視界の内に捉える。
「…今、〝何をやられた〟の…?」
声色に驚きは無い…けれど、内心では今起きた出来事に驚愕と、恐怖と、焦燥が渦巻き思考が巡り続けていた。
(〝姿が消えた〟)
確かにほんの一瞬、視界が外れる事は有るだろう…けれども、相手が隠れ…剰え数歩離れた距離から音も無く背後に回れる程猶予を与えたつもりはない。
「何らかの【能力】を行使した、と見るべきね…」
私をジッと見詰める〝影色狼〟の視線に、私は真っ向から見返しながら傷口を再生させる。
――――――
【マオ・ディザイア】
HP:800/800
MP:246/500
――――――
(魔力残量は大体半分…やっぱり、再生は魔力消費が大き過ぎるわね…)
優勢に進めていた戦局が、敵が持つ謎の【能力】によって覆され始めているのを感じ…このままじゃ、何も分からず負ける。
(――考えろ私、この状況から何が見える?)
あの時、あの一瞬…あの瞬間に発動し、私の目を掻い潜った方法――。
――――――
【再誕】
自らを再構築する道、ステータスの変動は無いが〝その種固有の能力〟を獲得出来る。
――――――
『スライムとグリーンスライムの違いは〝属性の有無〟』
灰色狼…〝影色狼〟…〝影色〟――〝影〟!
「――推測するに、奴の能力は…!」
奴の姿がまた消える…しかし、今度は確かにこの目で捉えた。
「〝影の中を移動する能力〟…!」
奴は…今、確かに〝影の中〟に沈んでいった…。
――ポヨンッ――
其れを見た瞬間…私はその身を躍動させ…木々の葉が産み落とした〝影〟の外に飛び出す――。
「――だと、するなら…!」
其処は、草の葉さえ届かない…広場の中心…月光が差す草の壇上で――。
――スッ――
空の上で…私はその月光を一身に浴びながら、眼下を見下ろす。
「――グルゥッ!?」
其処には、私の影から弾き出されるように光の中に取り残された影色狼が天を見上げていた。
《新たな【能力】を獲得、〈看破〉を獲得しました!》
――――――
〈看破〉 レア度:★★☆☆☆
能力系統:任意型
対象の情報を文字にして知覚出来る能力。
効果1:対象のステータスを閲覧(自身より強大な対象には不発)
効果2:自身よりレベルの低い対象の偽装を見破れる。
――――――
「グッド!――能力の獲得+、君の能力が分かったね…!」
謎を解き明かした事の高揚に伴い、私の思考は更に良く巡り…口がより素早く言葉を綴る。
「――加えてこの〝能力〟にはデメリットが有ると見た、〝自身のサイズ以下の影〟には入れない…そして、〝自身の影〟には入れないと見た…!」
私の影から弾き出されたのが前者の、そして自身の影に潜らない事が後者の理論の説明になる。
「〝種〟が分かれば奇術師は廃業よ?…最早君は、ただ少し強いだけの〝灰色狼〟と変わらない…!」
――ガシッ、ガシガシッ――
空の上から触手を使い、影色狼の身体を締め上げる。
「グルゥ…!?」
「――つまり、私が貴方に負ける道理は何処にもない」
暴れ回る影色狼に肉薄し、私はそう啖呵を切る…その私を見る、影色狼の顔には…金の眼の奥には――。
「――〝詰み手前〟ってね♪」
「ッ――!?」
確かな、〝恐怖〟が有った…。
――ドゴッ――
――ヒュンヒュンッ――
――ドサッ…――
その夜…月光を浴びて、影の獣が大地に斃れる…その屍の上には、この陰鬱で美しき世界の中で透き通る様な身体に月光をめいいっぱい取り込み、勝利の余韻に震えるスライムの姿が其処に有った。
《影色狼を討伐、経験値を獲得しました!》
《レベルが上がりました!》
《〈触手〉のレベルが上がりました、〈戦技:貫通〉を獲得しました!》




