強さを求めて
13時の予定が15時に…ユルシテ…ユルシテ…。
「さて…どうしようか…」
逃走は不可能、明らかに私とアレとでは格が違う…戦う?…勝負にさえなりはしない…。
「なら、どうする私…」
幸いな事に、彼奴はまだ困惑してる…この一瞬で取るべき行動…ソレは――。
「――1秒でも長く…〝生きる〟事…!」
「グルルッ」
その為には、見てからの回避は駄目だ…。
――スゥッ――
〝感覚〟を研ぎ澄ます…相手の音、力の入り方…視線…その機微を反射で捉えて回避行動に移る。
「言ってて無茶苦茶…だけど、やるしかないわね…」
改めて、相対する…相手はまだ油断している…取るに足らない雑魚だと思っている…その浮ついた思考なら…一撃は避けられる!…。
――グッ――
奴の後ろ足が、地面を強く踏む…その瞬間、私は全力で横に跳ぶ…次の瞬間、私の目には奴の姿が消えて見え…瞬きの内に、ソイツは私の目の前に現れ、前足を振り下ろす。
「クッ…!」
読みは精確だった…しかし、幾ら精確に攻撃の予兆を読み取っても隔絶したフィジカルの差は到底埋められず。
――ズガンッ――
その一撃は、私の身体を掠め…粘液の肉体を抉り取った…。
――――――
【マオ・ディザイア】
HP:23/200
――――――
「掠っただけでこの火力…!」
辛うじて残った身体を、魔力を全て使って再生させながら…直ぐ目の前に立ちそび得るソレの眼光を一身に受ける。
「――化物め」
再び振り下ろされた、その前足を睨み付けながら、私はそう言う…しかし、その声がソレの耳に届く事はない。
――グシャッ――
そうして、私が迷い込んだ〝夜の世界〟の冒険は…数分にも満たない経過の末、強者の爪によって幕を閉じられたのだった…。
――パチッ――
リスポーン後目を開く…其処は巣の寝床だった。
「――ハァァッ、一難去ってまた一難って感じねぇ…」
寝床の上で、私は完全に脱力し…考える。
「レベルが違う、ステータスも一つ二つ以上上…うん、無理」
今の状況で勝つのは現実的じゃない。
「必要な事を整理しましょう、先ず〝基礎ステータス〟…今の私じゃフィジカルが貧弱過ぎて大抵の魔物と勝負にならない」
フィジカルを鍛えるには…二つ。
「ステータス強化系の【能力】を手に入れ、ソレを鍛える事…そして」
――――――
【スライム】LV5/10
――――――
「〝進化〟による、ステータスの底上げ」
〝進化〟…それは、この世界…このゲームの肝である〝システム〟…レベル上限まで経験値を集める事で解放される〝肉体の再構築〟…。
「より上位の種族になる事で、相手との力量を埋める…ソレを成し遂げる為には」
――敵を倒してレベルを上げ事が必要――
「経験値は、自分と同等かそれ以上の相手を倒す事で、ボーナスを得られる…角兎で手に入る経験値も少なくなってきた今…私に必要な物は――つまり」
――〝同等以上〟の、戦闘可能な魔物――
強過ぎても駄目、弱過ぎても駄目…程良い獲物として、角兎よりも強い魔物…。
「宛は…有るわね♪」
私は頭の中で、白羽の矢が立ったその魔物の姿を思い浮かべると、一息ついて目を閉じる…。
「今日はもう此処までにしておきましょう…明日も学校だし…少し疲れたわ」
そして、メニューからログアウトを選択し…その意識を電子の世界から引き離す。
〜〜〜〜〜
「――はふぅ…あら…もう9時なの…」
そして現実世界で目を覚まし、時計を見ると夜の9時を指し示し…それだけ私が熱中していた事を暗に示してくる。
「……フフフッ、久し振りにこんなに夢中になるわね…少し、楽しくなって来たわ」
その事に少し嬉しく思いながら、私は上機嫌に寝室を出て、眠る準備を始める…。
「〜〜♪」
「ん?…お姉ちゃん、何か楽しそうだね?」
「美怜…うん、少し楽しいわ…久し振りにこんなに集中出来る事が見つかったもの」
「へぇ…どんなゲームなの?」
「えっと――」
偶然居合わせた妹と、そんな他愛も無い会話を紡ぎながら。
●○●○●○
「〝彼方の獣〟がやって来たって?」
其処は暗い暗い何処か…真っ暗な暗闇に浮かぶ様に、三つの〝存在〟が其々赤く、青く、黄色く輝きを放ちながら言葉を交わす。
「確かに、私の所でも〝彼方の獣〟を見ましたね」
「全く、■■■■共は何を考えているのか…斯様な連中を呼び込むとはな」
その者達は口々にそう言い合いながら、談話する。
「〝渇きの〟…そう言えば〝恵みの〟は来ないのか?」
その最中、赤く輝くソレが黄色の輝きに向けてそう問うと…その言葉に黄色は不機嫌そうな声色で吐き捨てる様にそう言う。
「フンッ、奴ならどうせ己の寝蔵で引きこもって居るのだろうよ」
「あの人、もう随分な歳だものね」
黄色の言葉に青色がそう同調すると、赤色の輝きは残念そうな声を上げながら落ち込んだ様に光を明滅させる。
「え〜…折角〝懐かしの4人〟でお話しようと思ったのに〜…ま、良いや…それじゃあ二人とも、ちょっと僕の話に興味ない?」
「「何?」」
赤色が発したその言葉に、二つの光がそう言うと…赤色の輝きは、まるで悪巧みを考え付いた童の様に声色に悦を滲ませながら、皆に告げる。
「〝異界の使い〟から提案が有ってさぁ…〝―――〟何だけど…どうかな?」
「「〝賛成〟」」
その提案に、2つの声が即決でそう言うと…赤色の輝きは上機嫌に笑いながらその輝きを強くする。
「アッハッハッ、だよね!――やっぱり二人とも乗るよねぇ……オーケー、それじゃあ〝異界の使い〟からは僕から連絡しとくよ♪」
それからも3つの輝きは暫くの間話し込み…それから、一人、また一人と消えてゆく…。
そうして舞台の裏側で、何者かが企んだ演目の歯車が静かに動き出し始めた事に、プレイヤーである彼方の獣達は知る由も無かった。




