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月を持たぬ白薔薇と虐げられていた私が、王太子妃になりましたが、幼馴染の騎士が独占欲を拗らせています  作者: かなた


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選ばれたのは誰

 神殿の儀式から三日。


 王宮は、静かに揺れていた。


 表立って騒ぎは起きていない。

 だが、廊下をすれ違う視線が違う。


 憐れみでも、嘲笑でもない。


 ――警戒。


 私は王家の私室へと呼び出された。


 重厚な扉の先。


 そこには、アルベルト殿下と、王家付きの大賢者のみ。


「エリシア」


 殿下の声は、いつもより低い。


「君の力について、古い文献を調べさせた」


 机の上に置かれた、古びた書物。王家の紋章が刻まれている。


「王家には代々、“結界を維持する力”が受け継がれてきた」


 それは知っている。


「だが、それとは別に――記録がある」


 ページがめくられる。そこに描かれていた紋様。


 あの日、私の足元に浮かんだものと同じ。


「“月を持たぬ白薔薇”」


 胸が、ひどく脈打つ。


「王家の光に対し、対となる存在」


 大賢者が静かに告げる。


「結界の“核”を選ぶ力」


 選ぶ。


 その言葉が、鋭く刺さる。


「王家の魔力が結界を張るならば、その力は“誰を中核とするか”を決める」


 私は、息を呑む。


「つまり……」


 殿下が、真っ直ぐに私を見る。


「君の力は、王家の力を補佐するものではない」


 否。


「王家の力を、選別するものだ」


 静寂。理解が、ゆっくりと降りてくる。


 私の力は、殿下の魔力を拒み、レオンに触れたとき、鎮まった。


「そんな……」


 それは。


 王太子妃として、致命的ではないか。


「誤解しないでほしい」


 殿下が立ち上がり、私の前に歩み寄る。


「私は君を疑っているわけではない」


 その翡翠の瞳には、焦りがわずかに混じる。


「だが、王家としては無視できない」


 当然だ。


 王家の象徴が、王家以外を選ぶ力を持つなど。


「レオンを、近づけない方がよい」


 静かな宣告に胸が締め付けられる。


「それは……命令ですか」


「王太子としての判断だ」


 殿下は苦しげに目を伏せる。


「私は、君を守りたい」


 その言葉は真実。


 けれど同時に、私を王家の枠へ留めるための言葉でもある。


 部屋を辞した後、廊下の角で、待っていた人影がある。


「……聞きました」


 レオン。


 壁に寄りかかり、静かに立っている。


「盗み聞きなんて、騎士らしくないわ」


「命じられましたか」


 問いは、核心を突く。


 答えられない沈黙。それだけで、十分だった。


 彼は薄く笑う。


「やはり、そうですか」


「レオン、違うの」


「違わない」


 きっぱりと遮られる。


「あなたの力は、俺に反応した」


 蒼灰色の瞳が、まっすぐ射抜く。


「それが事実です」


 否定できない。


「殿下は、正しい」


 騎士としての言葉。


「俺は、近づくべきではない」


 なのに。彼は一歩、距離を詰める。


「ですが」


 低く、熱を孕んだ声。


「選ばれたのが俺なら」


 心臓が跳ねる。


「引き下がる理由にはならない」


「レオン……!」


「あなたが王太子妃であろうと」


 指先が、そっと私の手に触れる。


 今度は、掴まない。


 確かめるように。


 その瞬間、胸の奥が、柔らかく光る。


 暴走しない。穏やかな、温かな光。


 彼は、目を細める。


「ほら」


「あなたは、俺を拒まない」


 違う。


 拒めないのか。それとも、拒みたくないのか。


「俺は、あなたを守ると誓いました」


 幼い日の誓い。


「それが王家に逆らうことでも」


 その言葉に、息が止まる。


「レオン、それ以上は」


「……分かっています」


 自嘲気味に笑う。


「俺は騎士だ」


 忠誠と、愛。両立しないもの。


「それでも」


 蒼灰色の瞳が、揺るがない。


「あなたが選ぶなら、俺は戦います」


 選ぶ。その重さ。


 王家の未来。国の安定。


 そして――


 自分の心。


 遠くで鐘が鳴る。夕刻の合図。


 王宮は、いつも通りの顔をしている。


 だが水面下では、力の均衡が崩れ始めている。


 王太子。


 近衛騎士。


 そして、選ぶ力を持つ私。


 選ばれたのは、誰。


 選ぶのは、誰。

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