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月を持たぬ白薔薇と虐げられていた私が、王太子妃になりましたが、幼馴染の騎士が独占欲を拗らせています  作者: かなた


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2/15

幼い日の約束

 あの日、庭園には白い花が咲いていた。


 春の光に照らされて、風に揺れる花弁がきらきらと輝いていたのを、今でも覚えている。


「エリシア様!」


 弾むような声とともに、少年が駆け寄ってきた。


 少し跳ねた黒髪に、澄んだ蒼灰色の瞳。まだあどけなさの残る顔立ち。


 レオン・クラウゼル。


 伯爵家の嫡男で、私のたった一人の遊び相手。


「レオン、走っては危ないわ」


「大丈夫です! 俺、強くなりますから!」


 胸を張る姿が可笑しくて、私は思わず笑った。


 その頃の私は、まだ何も知らなかった。


 魔力の測定が、どれほど残酷な意味を持つのかを。


 貴族の子供は十歳になると、王家認定の測定水晶で魔力量を調べられる。


 その日が、来た。


 広間の中央に置かれた大きな水晶は、触れた者の魔力に反応して光を放つ。


 淡く、あるいは眩しく。


 強い子は、まるで太陽のように。


「さあ、エリシア」


 父の声に促され、私はそっと水晶に手を置いた。


 冷たい感触。


 周囲の視線。


 レオンが、少し離れた場所で固唾を呑んでいるのが見えた。


 ――光れ。


 誰かの願いが、空気に滲む。


 けれど。


 水晶は、何も変わらなかった。


 静かなまま。


 透明なまま。


「……再測定を」


 ざわり、と空気が揺れる。


 もう一度。


 もう一度。


 けれど結果は同じだった。


 光は、灯らない。


 魔力、なし。


 その言葉が、広間に落ちた。


 父は沈黙し、母は顔色を失い、周囲の貴族たちは視線を逸らす。


 その中で。


「ふざけるな」


 低い声が響いた。


 振り返ると、レオンが水晶の前に立っていた。


「壊れているんじゃないのか」


「レオン、控えなさい」


 大人たちの叱責にも、彼は引かなかった。


 そして私の前に立つ。


 まるで、盾のように。


「関係ない」


 震えていた。怒りで。


「魔力がなくても、エリシア様はエリシア様だ」


 その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。


 私は、笑わなければならないと思った。


 泣いてはいけない。


 公爵家の娘として、恥ずかしくないように。


「ありがとう、レオン」


 そう言うと、彼は歯を食いしばった。


「俺が守るよ」


 真っ直ぐな瞳。


「ずっと、俺が守るから」


 あのときの彼は、まだ子供だった。


 小さな手。細い肩。


 それでもその言葉は、誰よりも強かった。


 その日から、私は“月を持たぬ白薔薇”と呼ばれるようになる。


 美しいけれど、光を持たない。


 価値の半分を失った令嬢。


 けれどレオンだけは、変わらなかった。


 勉学も、剣術も、必死に努力し、私の隣に立つために、強くなろうとした。


「エリシア様」


 ある日の夕暮れ。


 庭園で剣を振り終えた彼が、真剣な顔で言った。


「俺、騎士になります。一番強い騎士に」


 夕日が彼の横顔を染める。


 まだ幼いのに、その瞳だけは揺らがない。


「だから……どこにも行かないでください」


 不意打ちのような願いに、私は瞬いた。


「どこにも?」


「……誰のものにも、ならないで」


 一瞬だけ、言葉が重く落ちる。


 けれどすぐに、彼は顔を赤くした。


「ち、違います! その……公爵家の大事な方ですし!」


 慌てる姿が可笑しくて、私はくすりと笑った。


 そのときは、深く考えなかった。


 私の未来が、王家へと繋がっていることも。


 彼の願いが、いずれ叶わぬものになることも。


 ただ。


 あの日交わした言葉だけが、胸の奥に残っている。


 ――俺が守る。


 それが、どれほど重い誓いだったのか。


 まだ、知らなかった。

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