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月を持たぬ白薔薇と虐げられていた私が、王太子妃になりましたが、幼馴染の騎士が独占欲を拗らせています  作者: かなた


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番外編④もう騎士ではいられない

雨の夜だった。


窓を叩く水音が、やけに強い。

王城の石壁を伝う雨は、まるで逃げ場を塞ぐように降り続いていた。


「こんな夜に見回りなんて、必要かしら」


部屋に入ってきたレオンを見て、エリシアは言う。


彼は濡れていた。

外套を脱ぐと、水滴が床に落ちる。


「必要です。……落ち着かないので」


「落ち着かない?」


「あなたが一人でいると聞きました」


少しの沈黙。


「それだけです」


それだけ――のはずだった。


けれど視線が合った瞬間、空気が変わる。


いつもの騎士の顔ではない。


何かを抑え続けて、限界に達している目だった。





「レオン、どうしたの」


「すみません……あまり近づかないでください」


「え?」


「俺が、保てなくなります」


彼は距離を取ろうとする。

だが、エリシアは一歩近づいた。


「最近ずっと避けるのね」


「避けています」


「どうして?」


答えない。


代わりに拳を強く握る。


「あなたが、無防備だからです」


「信頼しているだけよ」


「それが――」


言葉が切れる。


「それが、無理なんです」


低い声が落ちる。


「俺はもう、昔の騎士ではいられません」


エリシアの胸が高鳴る。


「レオン……」


「触れたら、止まりません」


雨音が強くなる。


彼の理性が崩れていくのが、わかる。





「それでもいいわ」


静かな声だった。


「……後悔しませんか」


「しないわ」


「俺はします」


一歩、距離が詰まる。


「あなたを、二度と他人に渡したくなくなる」


呼吸が近い。


「もう妻よ」


「違う」


かすれた声。


「俺の中での意味が変わります」


額が触れる。


「それでも?」


エリシアは頷いた。


その瞬間――


抱き寄せられる。


今までのどの抱擁より強い。

守るためではない、求める腕だった。


「……もう止まりません」


囁きと同時に、唇が重なる。


最初は触れるだけ。

だが次第に、確かめるように深くなる。


彼の手が震えているのが分かる。


「怖いです」


「何が?」


「壊してしまいそうで」


「壊れないわ」


小さな息がこぼれる。


雨音がすべてを覆い隠す。





やがて、レオンは額を押し付けたまま囁く。


「最後に確認します」


「ええ」


「今ならまだ戻れます」


エリシアは彼の頬に触れた。


「戻らないわ。私をあなたのものにして」


長い沈黙。


レオンの瞳が揺れる。


その夜、騎士は一線を越えた。


もう主君を守る剣ではなく、

ただ一人の男として彼女を抱き寄せながら。


雨は朝まで止まなかった。

完結です!ありがとうございました。

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