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月を持たぬ白薔薇と虐げられていた私が、王太子妃になりましたが、幼馴染の騎士が独占欲を拗らせています  作者: かなた


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番外編②騎士の理性

夜の王城は静かだった。


昼間の喧騒が嘘のように、廊下には足音すら響かない。

窓の外では月が白く中庭を照らしている。


「遅くまでお疲れ様」


執務室の扉を開けると、レオンが顔を上げた。


「……エリシア。まだ起きていたんですか」


「あなたが戻ってこないもの」


机の上には書類の山。

鎧は外しているが、まだ制服のままだった。


「団長の仕事は大変ね」


「問題ありません。慣れています」


そう言いながらも、彼の目には疲労が滲んでいる。


「お茶を持ってきたわ」


カップを差し出すと、彼は受け取らずにこちらを見た。


「……先に、手を」


「え?」


「触れさせてください」


静かな声だった。


エリシアが手を差し出すと、レオンはそれを両手で包む。

騎士の手。剣を握るための硬さ。けれど触れ方だけは、壊れ物のように優しい。


「温かい……」


「あなたの手が冷たいのよ」


「違います」


ゆっくり指を絡められる。


「俺が、冷静でいられなくなるからです」


視線が合う。


「……今日、中庭にいた騎士」


「あの新人?」


「あなたに笑顔を向けられて、三度も剣を落としました」


「緊張していたのよ」


「ええ」


彼は淡々と言う。


「羨ましかったです」


エリシアが息を呑む。


「レオン……」


「触れられる距離にいることが」


手を引かれ、気づけば机の横へ。

逃げ道を塞ぐように腕が置かれる。


「あなたは、無防備すぎます」


「信頼しているのよ」


「それが危険です」


距離が近い。

額が触れそうなほど。


エリシアの鼓動が速くなる。


「……今日はやけに素直ね」


「限界だからです」


即答だった。


彼の指が頬に触れる。

持ち上げられた視線が絡む。


「本当は、毎晩こうしたい」


「毎晩?」


「ええ」


囁くように。


「城中の視線も、立場も、何も気にせず――」


言葉が途切れる。


代わりに、肩へ顔を埋めるように抱き寄せられた。


「レオン?」


「……少し、このままで」


強く抱きしめられる。

けれどそれ以上は進まない。


「どうしたの?」


「進めば、止まりません」


かすれた声。


「騎士として、夫として、守るべき線があります」


「……」


「今夜は越えません」


腕の力がわずかに震える。


「越えたら、あなたを離せなくなる」


エリシアはそっと彼の背に手を回した。


「離れるつもりはないわ」


沈黙。


彼の呼吸が乱れる。


「……それは、駄目です」


「どうして?」


「期待します」


額が触れる。


「俺は、あなたに弱すぎる」


静かな夜。

月明かりだけが二人を照らしていた。


しばらくして、レオンはゆっくり離れる。


「……もう寝てください」


「レオンは?」


「頭を冷やします」


窓を開け、夜風を浴びる背中。

その肩はわずかに強張っている。


エリシアは微笑んだ。


「おやすみなさい、私の騎士」


彼は振り向かないまま答える。


「――おやすみなさい、愛しいエリシア」


その夜、執務室の灯りは明け方まで消えなかった。

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