道しるべの星
いつもはあまり人がいなくて静かな神社のけいだいですが、一月一日の今日ばかりは、とてもにぎやかになります。
あちこちで「今年もよろしく」ということばがきこえてきて、新しい年へのきぼうでいっぱいです。
そんな人間たちを木の上から見おろしていたかんりんは、ふうとためいきをつきました。
かんりんは、この神社にまつられている土地神さまにつかえる神のつかいです。とりいのわきに座っているこま犬と同じすがたをしていて、まいにち神さまのおてつだいをしています。
そんなかんりんにも、神さまと同じように人間が心の中でとなえる願いごとがきこえてきます。
『じゅけんに合格できますように』
『おいしいものがおなかいっぱい、食べられますように』
『おこづかいをたくさん、もらえますように』
どれもこれも、自分勝手な願いごとばかりだ、とかんりんは思います。
かんりんは、この神社ができてからずっとここで神のつかいとして働いているけれど、いつだって人間は自分のことしか考えていません。それを毎年きかされることに、うんざりしていました。
「かんりん、そこで何をしているんだい?」
声が聞こえてふり返ると、木の下に神さまがいました。
「神さま、すこしけいだいの様子を見ていただけです」
かんりんがそう言ってするすると木をおりていくと、神さまはかんりんをだき上げました。
「やっぱり、人間の願いごとが気に入らないのかい?」
「……だって、みんな自分勝手な願いごとしかしないですから」
神さまに隠しごとをしても、すぐにばれてしまいます。なので、かんりんはすなおにそう言いました。
それをきいた神さまは、困ったような顔をしました。
「いつも言っているけれど、どんな願いごとも大切なものなんだよ」
「わかっています。でも、みんな自分のことしか考えていないので」
神さまはちょっと考えてから、かんりんをだいたまま歩きはじめました。
「神さま、どこへ行くんですか?」
「今日だけ特別に、いいものを見せてあげよう」
神さまはそう言って、はいでんの前まで来ると地面をけりました。すると、神さまのからだはふわりと風にのって、はいでんの上に向かっていきます。
「神さま! 神さま! いきなり何ですか!? 高くてこわいですよ!」
「だいじょうぶ。何もこわくないから、目をあけてごらん」
かんりんはおそるおそるそうっと目をあけると「わあ」と声をあげました。
神社のけいだいから空に向かって、きらきらとかがやく光のつぶがのぼっていくのが見えます。
「きれいだろう」
「はい」
神さまの言うとおり、それはとてもとてもきれいで、かんりんは見とれてしまいました。
「神さま、これは何ですか?」
「これはね、人間の願いごとの光なんだよ」
「え?」
神さまはいとおしそうに光のつぶを見ながら、言いました。
「神社で願った願いごとは、こうやって光のつぶになって、天にのぼっていくんだ。神であるわたしにできることは、願いごとをかなえるためのチャンスをあたえるだけ。でも、天にのぼった願いの光は、星になってずっとかがやきつづけるんだよ」
空を見あげると、くれかけた空に星が出はじめていました。
願いの光のつぶは、ゆっくりとそこに向かっていきます。
「どんな願いごとも、こうやってきれいにかがやきつづけるんだ。願いが星になって空にあれば、それが生きるための道しるべになる。その人にとって、大切な目印になるんだよ。それを、かんりんにも知っていてもらいたくてね」
(どんな願いごとでも――)
かんりんはもういちど空を見て、すこしだけわらいました。
神さまが言ったとおり、人間の願いごとには、それをかなえるためのチャンスをあたえることしかできません。本当にかなえられるかどうかは、本人のがんばりしだいなのです。
もしかしたら、あの星たちが願いをかなえるためのがんばる力になるのかもしれません。
(そういうことなら――こんなにきれいなら、自分勝手な願いごともわるくないのかもしれないな)
かんりんは神さまの腕の中でもういちど、きらきらとかがやく願いの星をじっと見つめました。




