パンダ vs 私 vs ドラゴン
──目を覚ますと、そこは森の中だった。
鳥のさえずり、透き通る川の音。どこか童話的な、美しい自然。
周囲の木々はやけに背が高くて、それに空気が澄みすぎている。
「……ここ、どこ?」
手を見て、脚を見て、自分の姿を確かめる。見慣れた黄色いジャージ姿。
周囲を見渡す。森。岩。木陰。とくに人工物はなし。
まさか別世界……じゃないよね?
たしか自販機に頭突きして、それでパンダが出てきて──
「……あれ? 私、なんで怒ってたんだっけ?」
そのとき、後ろでザサッと草を踏む音がした。
気配を感じて振り返ると──
──パンダがいた。
「またお前かぁぁあぁああああ!!!」
彼女は叫んだが、パンダはマイペースに地面のキノコをもふもふしている。
「……もういいよ。もう、驚かないからね……。いやでも……」
油断はできないよね。さっきの続きが始まるかもしれないし。
恐る恐るカンフーの構えをとったその瞬間、空が悲鳴をあげた。
ゴオオオオオオォォッ!!!
灼熱の気流が押し寄せ、上空から巨大な影が落ちてくる。
翼、牙、爪──
ファンタジー図鑑から抜け出したみたいな荒々しい巨体が真上に迫る。
──ドラゴンだった。
「なにこれなにこれ!! 嘘でしょ!?」
肩を叩かれて、びくりと身体が弾んだ。
振り向けば──パンダ。
パンダは無言で一歩前に進みでた。
口にくわえた笹を、最後のひとかじりして、ポイッと投げ捨てる。
なにも喋らなくてもわかる。背中が「下がってろ」と語ってる。
「まさか戦うの……!? だ、だめだって! どうみたってあれはドラゴンだし。君はただのパンダで──」
バクッ。
……って、ヘ?
──食べられた。
パンダ、消滅。
「一撃退場ッ!? ええぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
衝撃と怒りと悲しみが、一瞬で沸騰する。パンダの名前すら知らないけど、心の中がぽっかり空いた気がする。
フンッと鼻を鳴らしたドラゴンが、ギロリと睨みを効かせた。
──次は私だ。
……普通は、逃げる。
でも、なぜか考えるより先に、震える体が前へ出ていた。カンフーの構えをとって。
「──なにがドラゴンよ。上等じゃないの。パンダがやられて黙ってられないっての!!」
彼女の拳が、自然と熱を帯びていた。
肩の力は抜けている。構えは完璧だった。
跳躍。
拳。
一撃。
空気が裂けた。ドラゴンの巨体がガラスみたいに砕け、黒い霧をまき散らして消えていく。
重力さえも置き去りにするような、世界を超えた一閃が駆け抜けた。
《ホロリアム No.47 起動完了》
《一撃判定:成功》
《侵食率:0.12%》
後に残されたのは、焦げ跡と黒い霧、終の型を決めポーズに立ち尽くすカンフー少女。
さっきまであったドラゴンの巨体は、跡形もない。
「……いろいろ意味わかんないけど。ドラゴン討伐なり」
呟いて、拳を下ろす。
ドラゴンから発生した黒い霧は、風もないのに地面を這い、森の奥へと吸い込まれていく。
その向こう──
一瞬、人影のようなものが、こちらを見ていた気がした。
霧がふっと途切れた瞬間、足元には──パンダの耳だけが落ちていた。
「パンダ……いなくなっちゃった」
胸の奥が、少しだけスカスカになる。
なんでだろ、さっきまで意味わかんないやつだったのに。
パキッ。
背後で枝の折れる音がした。
反射的に構えを取った。
カンフー少女が前方を見据えていると、木々の間から人影が出てきた。
同年代くらいの少女だった。
To Be Continued ▶大すべり?空気が固まった道場宣言




