パンダにキックしたら異世界だったんですけど!?
人生で一番理解できない瞬間って、突然くるんだね。
今の私?
──パンダと戦ってる。
しかも、あっちが先にファイティングポーズ。
少し前までは、ただの機嫌の悪い高校生だった。
体育の授業は苦手な持久走。お弁当はなぜかキムチ入り(におい最悪だし)。
極めつけは、帰りに買おうと思ってたオレンジソーダが売り切れ。
「もぉーなんでよー! なんで、どおしてオレンジソーダだけ売り切れてるのよォ!!」
夕焼けが滲む公園の片隅、ぽつんと立っている自販機に、求めていたものがない。
それが、彼女の逆鱗だった。
「ぬおおおおぉぉぉぉんっ!!!」
怒りそのまま自販機に頭突きを入れた。
その瞬間──
ガタン、と鈍い音が響く。
自販機の陰から、ヌッと大きな影が現れた。
白と黒の丸っこい塊。ふてぶてしい顔。ふわふわした毛並み。
信じたくないけど──
「……パンダ?」
そこにいたのは──なぜか野良のパンダだった。
「え、なんで!? 公園にパンダ!? 野生!? おかしくない!?」
信じがたい光景だわ。
自販機の影に、なぜか野生のパンダが座っていた。
もりもり笹なんか食べちゃってさ。
「……ねえ、え、え? あなた本物のパンダ? なんでここにいんの?」
もちろん返事はない。
その変わり、ふと目が合った。
「やばッ!」
次の瞬間、背筋にゾワリと冷たいものが走る。
このパンダ、只者じゃない。あたり前だけど。
パンダが無言で立ち上がってきた。
──ファイティングポーズをとって。
「やる気!? てかなんで格闘スタイルなのよッ!!」
野生のパンダに出たった時にすべきこと。
普通は逃げる?
うん、そうかもしれない。
でも私は、なぜか構えていた。
カンフーの型で。
パンダはゆっくり笹をかじり、ポイと投げ捨てると、初手から繰り出してきた。
衝撃で足元の砂利が弾け飛ぶ。パンダの右足が風を裂く。
間違いない。カンフーの必殺技だ。
「なっ……速ッ!」
避ける間もなく距離を詰められる。
でも私は退かなかった。
腰をひねり、体を回す。
「こう見えて私、カンフーやってるんだからね! オンラインレッスンだけどぉッ!! いいわ、みせたげるッ!」
カンフーの基本にして奥義
──足刀旋風
「あちょーッ!」
鋭く回転し、重心を崩さずに放たれたその蹴りが、パンダの顎を捉え──
ドゴォォンッ!!
パンダの足も私の顎を捉えていた。
その瞬間、世界がひっくり返った。
ガタンと世界がズレて、街の音が消え、景色が白くのびて、視界が白く染まっていく。
パンダは消え、足元がふわっと浮かんだ。
「えっ、ちょ、ちょっと待って!? なに!? なにこれ!? うそ!? え、ちょっと待ってよ、死ぬとかじゃないよね!?」
慌てて手足をばたつかせるが、もう遅い。
言葉の途中で、光が弾け、意識がスッと沈んでいった。
──目を覚ますと……
嘘でしょ……。
パンダにキックしたら異世界だったんですけど!?




