13.強者(つわもの)
【】は蛮族の言語、「」がオスヴァルトたちの言語、の設定です。
どん!!!と大きな音がして、何かがオスヴァルトの横を勢いよく通り過ぎて行った。どさり、と剣を握った蛮族が大男の大剣の横に倒れて動かなくなる。
「……ハインツ?」
「馬鹿野郎!!戦闘中に気を抜くやつがあるか!!」
振り向けば、ハインリヒが息を切らせて立っていた。ハインリヒの左手には盾。盾を持ったまま蛮族に思い切り体当たりをしたのだろう。
「何でここに?殿下は?」
「言ってる場合か………」
呆れたように息を切らせたハインリヒが眉を下げると「あっち」と親指で指さした。
いつの間にか再開していた剣戟の向こう。
明るすぎる月光に照らされる御旗の色は白。
白毛の見事な軍馬に跨り先頭に立つのは空色の瞳に白金の髪の、オスヴァルトの、女神。
「アナスタシア様………」
オスヴァルトの呟きが聞こえたかのように口角を上げるとアナスタシアは馬上でしゃんっ、と剣を抜いた。
「白鷹騎士団、全員抜剣!フリッツたちを守れ!!」
「「「おう!!」」」
夜陰を切り裂き、声が響いた。
多勢に無勢だった戦力が覆る。見渡すが、倒れている中にオスヴァルトの部下はいないように見える。フリートヘルムはアナスタシアのすぐ横で白鷹騎士団の騎士たちに守られている。
「来たな!」
「気を抜くなハインツ、まだ終わったわけじゃない」
「わーってるって!お前が言うな!!」
にやりと笑ったハインリヒにひとつ頷くと、オスヴァルトは大地に胡坐をかいたままの大男を振り返った。
【あれがお前の主か?】
大男が馬上のアナスタシアを見て笑った。
【いや、あの方は】
【ああ、愛する者の方だったか】
【っ、いや、それは】
【ははは!良いな!強い女は良い!!】
楽しそうにケタケタと笑う大男を見てハインリヒが何とも言えない顔をして頬を掻いた。
「なあ、なんでこいつ、こんなに楽しそうなんだ?」
「さてな。分からんが、闘士らしい」
「あー……分かんないけど分かるわ。俺も死ぬなら滅茶苦茶強いやつと戦って死にたい」
「それはそうだな」
神妙な顔で頷いているハインリヒにオスヴァルトも頷くと、笑うのを止めた大男がオスヴァルトを見た。
【キシ、首を取れ】
どこか嬉しそうに微笑む大男に、「覚悟が良すぎるだろ」とハインリヒがまた微妙な顔になった。オスヴァルトは苦笑いを返すと、大男に向き直り首をゆるりと横に振った。
【取らない】
【なぜだ、俺では首を取るに値しないか】
ぐっと眉間にしわを寄せた大男に、オスヴァルトはまたゆるりと首を横に振った。
【違う。お前は強い。俺が闘士なら間違いなく首を貰う。だが、俺は騎士だ】
【キシならなんだ】
【騎士なら、名を問うんだ。強い者、尊敬に値する者、忘れたくない者…そういう者には名を問う】
【名?】
大男は不思議そうに首を傾げた。相変わらず力が入らないのか、血が滴る左肩を抑えようともしない。いや、生き残る意思が無いのか。
【ああ、そうだよ。……お前の名は?】
大男は目を見開いた。戦っている時の瞳孔の開ききったそれとは違い心底分からないというように目を見開き、それからにんまりと笑って頷いた。
【ガンゾリグだ】
大男改めガンゾリグは右腕を上げようとしたがまだ動かないらしく、恥ずかしそうに眉を下げて笑った。
【キシ、お前の名は?】
【オスヴァルトだ】
【オスヴァルト、か】
良い名だ!!と呵々と笑うとガンゾリグはハインリヒに視線を向けた。
【お前は?】
【え!?俺!?】
ハインリヒはぎょっとした顔でオスヴァルトとガンゾリグを交互に見ると、困ったように眉を下げ頬を掻いた。
【俺、戦ってないぞ?】
【だが、お前は強いだろう。オスヴァルトにもただでは負けないだろう】
【いや、ちょっと分かんねーけど……まあいいや、ハインリヒだよ】
【そうか、ハインリヒか!オスヴァルトとハインリヒか!!】
またも楽しそうに笑うガンゾリグにハインリヒと顔を見合わせていると、後ろからこの血のにおいの満ちる場に相応しくない麗しい声がした。
「オスヴァルト、ハインリヒ」
振り向けば、真白の鎧を身に着けた美しい王女とオスヴァルトの主が騎士たちを引きつれて後ろに立っていた。アナスタシアもフリートヘルムも血に濡れてはいない。剣戟の音も収まっており、戦闘は無事に終わったようだった。フリートヘルムもハインリヒも命を落とさぬまま。




