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格好良く助けるつもりだったのに、情けない似非ヒーローがせいぜいだった

作者: 満原こもじ

 ――――――――――シドニー・インス男爵令息視点。


 王立アカデミーは知ってるね?

 言うまでもなく、我が国最高峰の学校だよ。

 教育内容はもちろんだが、特に人脈形成においてはね。

 そんな学校に通っているオレはすごいと思うだろう?

 そうでもないんだなあ。


 最近王立アカデミーでよく言われるワードに『スクールカースト』というものがある。

 生徒間における階級だね。

 必ずしも出身家の身分とは一致しない。

 何故ならアカデミー内で身分の差はないというのが建前だから。


 要するにスクールカーストってのは、顔やスタイルがよくて爽やかで幅広い交友関係を構築していて学校生活を満喫しているやつらが上位ランクなわけだ。

 オレみたいなコソコソして隅っこで生活しているオタクは底辺なの。

 もっともオタクはオタクなりに楽しんでいるから、モテないこと以外に不満はない。


 ……オレはインス男爵家の三男だから、父上はどこかへ婿にでも行け、出会いの場は提供してやるという意味でアカデミーに入学させてくれたんだろうけどな。

 モテなくてごめん。

 涙なんか出てないやい。


 オレみたいな下位貴族や平民出身であっても、スクールカーストの高いやつというのは存在するわけで。

 その頂点がアリス・ニークロ嬢だ。

 アリス嬢は平民にも拘らず、メッチャ可愛いの。

 いや、可愛いのは平民関係なかったわ。


 とにかくアリス嬢はそのフワッフワのピンクブロンドと愛くるしい笑顔、豊富な話題を武器に、あっという間に同学年の第一王子コンラッド殿下とも親しくなった。

 商家出身の平民なのに、数年中には立太子するだろうコンラッド殿下と交流を深めるなんて、いくらアカデミーでもちょっとあり得ない事態だ。

 アリス嬢がスクールカースト最上位に君臨する一人である所以。


 もっともアリス嬢はやり過ぎじゃないかって声もある。

 婚約者のいる令息にも近付くことがあるそうで。

 ただ冷静なる観察者であるオレが見る限り、アリス嬢が特定の誰かと特別に親しいということはない。

 交流を広げるのは実家の商家の意向もあるのだろうしな?


 まあやっかみも受けるんだろ。

 スクールカースト底辺のオレにはわからんことだ。


「やあ、シドニー。調子はどうだい?」


 声をかけてきたのは友人のトレヴァー・ヘイグだ。

 オレと同じ魔道オタクで、まあスクールカースト底辺を這い回っている。

 だからいいんだよ、楽しければ。


「ついに実装に成功したぞ」

「おっ? やるね。さすがシドニー」

「トレヴァーの協力があったからだよ」

「大胆な軽量化に成功したのはシドニーじゃないか」


 何の話かというと魔道ドローンだ。

 魔力波でもって操縦できる、ノートの倍くらいの大きさの空中浮遊体と思ってもらえればよろしい。

 いや、魔道ドローン自体はそう珍しくないの。

 魔道クラブの面々が時々玩具として飛ばせて遊んでるから。

 アカデミー生なら皆存在くらいは知ってると思う。

 根暗な魔道クラブの趣味として(泣)。


 オレとトレヴァーの研究は、魔道ドローンを偵察の魔道具として使用できないかというものだ。

 ドローンに映像と音声の送信装置をつけようという試み。

 音声はともかく、映像の送信装置なんてバカでかくなるからムリじゃね? と最初は思ってた。


 でも画質を絞って効率をよくして録画機能は手元機器に集約してという感じに改良していくと、段々可能性が見えてきた。

 その間に魔道素子自体もいいやつが開発されてさ。

 宮廷魔道士に伝手のあるトレヴァーが新型魔道素子を手に入れて。

 魔道ドローン自体の軽量化に成功して、ようやく実現できたの。


「もうテスト飛行は済ませてるんだ」

「やるなあ。じゃあ僕も操縦させてもらっていいかい?」

「もちろんだとも」


 映像の送信装置があると何が違うって、操縦者が機体を確認できないところでも飛ばせるってことだな。

 映像で機体周囲の状況が見えるから。

 これは結構すごい。

 もちろん魔力波が届く範囲に限定されるけど。

 操縦しているトレヴァーが感心しきりだ。


「へえ。今までの魔道ドローンとは別物じゃないか」

「だろう?」

「これ、魔力波の届く範囲はどれくらいだっけ? アカデミーの敷地内くらいは大丈夫だよね?」

「ああ」


 旋回して裏庭へ。

 まあトレヴァーの操縦が上手いのはわかってる。

 実にいい感じだな。


 ん? 倉庫の陰に誰かいる。


「あれ? あのピンクブロンドはアリス嬢じゃないか?」

「確かに。もう一人いるか」

「男だね。逢引きかな? ちょっと解像度が悪いから相手が誰だかはわからないけど」

「アリス嬢が逢引き? 違和感があるな」


 アリス嬢は賢い。

 自分の優れた容姿がもてはやされてることは、おそらく理解しているはずだ。

 裏庭で逢引きなんてしてたら、交友がうまくいかなくなるわ非難する声は大きくなるわで、メリットがないと思う。

 いや、相手が高位貴族の嫡男なら別か。


「トレヴァー。茂みから近付けるか?」

「おっ、覗きか? 嫌いじゃないよ。任せて」

「相手は……ガルフのようだな」

「間違いない。ガルフだ。意外だね?」


 ガルフは言葉を飾らず言えばいけ好かないやつだ。

 ハーフォード伯爵家の長男ではあるが、貴族が偉い爵位が全てという思想をアカデミーでも隠さない。

 平民の人気者アリス嬢とは対極に位置する存在だ。

 嫌味を言うことしか取り柄のないガルフを自分の婚約者になんて、アリス嬢は間違っても考えないと思うがなあ?


 音声が聞こえてくる。


『……嫌よ、そんなこと』

『何を言ってる。平民の分際で。素直に俺の女になっておけ』


 思わずトレヴァーと顔を見合わせる。

 ガルフの野郎がアリス嬢に強要しているのか。

 しかしどうして裏庭みたいに人目につかない場所に、アリス嬢は来たんだろう?


『お前の悪事の証拠がある限り、俺には逆らえないと思っておくんだな』

『ひ、卑怯者!』

『まあ俺は紳士なんでね。考える時間くらいは与えてやるよ。一〇日間はな。じゃああばよ、未来の愛人』


 再びトレヴァーと顔を見合わせる。

 どうやらアリス嬢は脅されているようだ。

 ガルフを告発したいが、問題はガルフの言うアリス嬢の悪事だ。


「……とりあえずガルフは去った。アリス嬢がすぐに危険に晒されることはないわけだが」

「シドニーはどう思う?」

「アリス嬢に何か弱みがあることは事実だな」

「それが悪事?」

「まあ」


 犯罪行為なのか、それとも道義的に問題があるという程度のことなのかはわからない。

 でも実際に脅しのネタになっていることは事実なんだよな。


「少なくともアリス嬢がバラされたくないと思っていることなんだろう」

「うん、僕も同感。じゃあ介入すると却ってアリス嬢に迷惑になるかもしれないのか。放っとくしかないね」

「……いや」

「ん? やりようがあるかな?」

「たまには正義の味方をやってみたいという気持ちがむくむくと」


 呆れたような顔をするなよ。


「トレヴァーだって同じこと思うだろう?」

「可能であればね。アリス嬢は可愛いしな」

「おまけにうまくいけば、ガルフにざまあみろって言えるんだぞ?」

「俄然やる気になるね。シドニーはどうしようと考えているんだい?」

「状況を整理しようか。ガルフとアリス嬢は二人の問題だと思っているだろう。しかし実際にはオレ達が、少なくともアリス嬢が脅されていることを知っている」

「脅して言うことを聞かせるのは、確か王国法に引っかかるんだったよね。この前法学で習った」

「ああ。非はガルフにあり。オレ達は正義だ」


 トレヴァーが拍手してくれる。

 ありがとう。


「つまりアリス嬢の事情をあえて聞かず、ガルフが脅してる場面を現行犯で押さえるんだね?」

「それは最終手段だな」

「まだやれることがあるかい?」

「オレ達にはドローンがある。ガルフの行動を暴くんだ」

「えっ? どういうこと?」

「ガルフだぞ? どうせ他にも問題行動があるに決まってる」

「そうか、弱みを握ればガルフを脅せる!」

「おっと、それは犯罪になってしまうな。交渉上有利になる、くらいにしておこうか」


 アハハと笑い合う。


「同時にアリス嬢に匿名の手紙を出しておこう。ガルフが汚い手段で君を追い詰めていることは知っている。ガルフに天誅を食らわせたい。次にガルフと話す機会があったら、なるべく会話を引き伸ばしてくれ。情報が欲しい、とね」

「うん、アリス嬢も味方がいると知れば心強いと思う」

「本当に正義の味方みたいじゃないか?」

「楽しくなってきたなあ」


 やることは決まった。

 休み時間と放課後にドローンを使って密かにガルフをチェックし、やつの行動を丸裸にしてやるのだ。


          ◇


 ――――――――――五日後、王立アカデミーにて。


「どういうこと?」

「まあガルフは真っ黒だってことだな」


 ガルフのやつはアリス嬢だけを標的にしているのかと思ったら違った。

 少なくともアリス嬢を含めた六人の不安を煽り、言うことを聞かせようとしている。


「おかしくないかな? どうしてガルフのやつは令嬢達を脅せるネタを簡単に手に入れることができるんだろ?」

「トレヴァーが疑問に感じるのはそこか。ネタは一つだからなんじゃないかと思うね」

「ネタは一つ?」

「ああ。令嬢達がある何かをしていた。偶然だか必然だかはわからんが、それをガルフは察知した」

「なるほど」


 ガルフがアリス嬢に一〇日後って言った意味がわかった。

 これだけしょっちゅう令嬢達に会っていてはな。

 スケジュール管理の都合だったとは。

 まさに驚き。


「シドニーが疑問なのは?」

「脅しのネタが何なのかってことだね」

「僕も気になるけど、それはちょっと……」


 わかってる。

 さすがに令嬢をドローンで追い回すのは、紳士たるべき者の行いじゃないから。


「脅されている令嬢は複数だけどさ、真のターゲットはアリス嬢じゃない?」

「同感だね」


 アリス嬢以外の令嬢は、アリス嬢を虐めたり批判したりする役をガルフに振られているのだ。

 何故そんなことをするのか意味がわからなかったけど、トレヴァーの言ったことが正しそう。

 要するに周りを敵だらけにして、アリス嬢がガルフを頼るように仕向けたいんじゃないかってこと。

 ガルフの考えそうな卑劣さだ。


「これちょっと僕らの手に負えなくなってきてるんじゃないかな?」

「ああ。ガルフがここまでの悪党だと思わなかったからな」

「シドニー、どうする?」

「突っ走るのは愚者の振る舞いだ。ここは頼ろう」

「誰を?」

「第一王子コンラッド殿下」

「ええ?」


 トレヴァーが唖然としている。

 わかる。

 王子という身分の差を抜きにしても、スクールカーストの頂点に立つコンラッド殿下と底辺のオレ達には接点がないから。


「だ、大丈夫かなあ?」

「わからんね。だがオレ達には最善を尽くす義務があるだろう? 何たって正義の味方なんだから」


 いや、もうそれくらいしか勇気を奮い立たせる手段がないの。

 キラキラ王子に話しかけるなんて恐れ多いから。


「義務、か……」

「オレ達はガルフの悪行を知ってしまっただろう? それを何とかすることのできる人に報告するところまでは義務だと思うね」

「シドニーの言う通りだね」

「もっともコンラッド殿下がどういう判断を下すかまではわからないけど」


 とにかくオレとトレヴァーで抱え込むには大き過ぎる事案のようだ。

 責任が重いので、丸投げしたいというのが本音。

 頑張りはしたけど、オレ達には似非ヒーローがせいぜい。


「では今日の放課後に」


          ◇


 ――――――――――放課後、王立アカデミー生徒会控室にて。


「……馴れていたと思った野生の鳥が、急に警戒心が強くなったってこと。君達は経験があるかい?」

「「は?」」


 コンラッド殿下に少し事情を話したら、放置しておけない事案だとすぐに理解してくれた。

 生徒会室の控えの間に通され(キラキラ王子は当然のごとく生徒会長だから)、オレ達の掴んだ情報を全て話したところだ。

 これで役目を果たせたと思ってたところ、野生の鳥の話をされた。

 警戒心が何だって?

 スクールカースト最上位者の話術は謎。


「アリス嬢のことさ。無邪気を装って僕に近付いてきていたのに、最近警戒するようになってね」

「ははあ?」

「彼女は実家の意向で広く交流を持とうとしていると思われる。なのにちょっと変だなと思っていたんだ」


 なるほど、キラキラ王子のアンテナにもアリス嬢の異常が引っかかっていたのか。


「とは別に、アリス嬢に嫌がらせする令嬢も増えたろう? それで少しナイーブになっているのかと誤認していたんだ」

「全てガルフ・ハーフォード伯爵令息のせいなんです!」

「どうやらそのようだな。ガルフ君は腰の低い令息だと思っていたが、陰でこんなことをしているとは」


 王子にはガルフが腰の低いやつに見えてたんだな。

 ガルフは上の者にはへつらうからか。

 ますます嫌なやつだ。

 

「レディを脅して言うことを聞かせようとするとは、何という見下げ果てたやつ。しかも何人もの令嬢が被害に遭ってるじゃないか」

「どうにかなるでしょうか? 正直オレ達の手には負えなくて」


 何だかんだでガルフは伯爵令息だから。

 告発しても身分を盾に取られて、実家の方に圧力をかけられることがあり得るのだ。

 捨て身で反撃されるとこっちの被害が大きくなりそう。

 もうアカデミー内だけの問題じゃないんじゃないか。


「いや、ありがとう。シドニー君とトレヴァー君がこんなに有能だったなんて知らなかったよ」

「「いえいえ」」

「魔道ドローンには可能性があるんだな。……偵察用途に使えることは秘匿してくれるか?」

「「もちろんです」」


 ってのはともかく、ガルフと令嬢達のことは無事決着をつけられるのだろうか?

 不安そうな顔を悟られたか、王子が言う。


「後は任せてくれ。が、言葉だけでは不安か。少し情報を公開しておこう。今から僕が言うことは口外を禁ずる。いいかな?」

「「はい」」

「僕には『王家の影』と呼ばれる隠密がつけられている。今も天井裏に潜んでいると思うけどね」

「「えっ?」」


 『王家の影』の噂は聞いたことある。

 王族のシークレットガードを務める凄腕達だとか。

 本当にいるんだな。

 怖っ!


「『王家の影』は諜報能力も非常に優れているんだ。しかし陛下の直属だから、僕には動かす権限がなくてね」

「「はあ」」

「しかし君達の揃えてくれた魔道ドローンによる証拠。これがあれば陛下を説得できる。『王家の影』による完全な調査ができれば、この件は必ず解決できると約束しよう」


 おお、さすがキラキラ王子!

 これで肩の荷が下りたよ。

 しかし……。


「アリス嬢をはじめとする脅迫されていた令嬢方には配慮してもらいたいのですが」

「僕もそうしたいのだがね。絶対という約束はできない。彼女達が何をしていたかによる」


 それはそうだ。

 おそらく『王家の影』による徹底的な調査が行われれば、令嬢達が何をしていたかも全て明らかになるだろう。

 結果によっては見過ごせないということが十分にあり得る。

 王子の態度は公平だ。


「申し訳ありません。出過ぎたことを申しました」

「いや、シドニー君とトレヴァー君の騎士道精神は十分に理解した。なるべく期待に応えるようにしよう」

「「ありがとうございます」」

「結果が出ればガルフと令嬢達を召喚して処分を下すことになる。断罪の場に君達も来るかい?」

「いいのですか?」

「もちろんだよ。シドニー君もトレヴァー君も、特等席で見物したいだろう?」


 王子はわかってるなあ。


「「よろしくお願いします」」


 さて、どうなる?


          ◇


 ――――――――――さらに四日後、王宮の一室にて。


 関係者一同とオレが集められて粛々と沙汰が下される。

 トレヴァー?

 いや、腹を壊したとかで、今日は参加してないの。

 プレッシャーに弱いところがあるから、ちょっと緊張しちゃったのかもな。

 後で見舞いがてら報告するつもり。


 で、まずガルフだが。

 何と計一〇人もの令嬢を脅していたことが発覚。

 アカデミーを退学処分になった。

 しかし実害が発生していないこと、更生の可能性が考慮され、それ以上の刑事処分はされなかった。


 ……とは言ってもハーフォード伯爵の評判は地に落ちるだろう。

 厳しい処分ではなかったから、ハーフォード伯爵家から不満は出ないんじゃないかな。

 ガルフは責任を取らされて廃嫡は間違いない。

 その後捨て扶持で生かされるのか、放逐されるかはわからないな。

 今後ガルフの名を聞くことはないかもしれない。


 問題の一〇人の令嬢が行った悪事とは?

 ガルフの叫び声がショッキングだった。


「オレは見た! 彼女らは他人に呪術をかけていたんだ!」


 証人として同席していた宮廷魔道士長も肯定していた。

 呪術?

 そんな物騒なことが……。


 しかし続くアリス嬢の証言で気が抜けた。


「……恋のおまじないだったのです。悪いことだと思っていなくて……」


 何だそれ?

 恥ずかしさからか罪悪感からか、顔を伏せる一〇人の令嬢達。

 メッチャ可愛い。

 特にアリス嬢は。


 呪術には違いないだろうってガルフが叫んでいたけど、まあしらけたわ。

 でも宮廷魔道士長は頷いていたな。

 厳密に言えば呪術儀式に相違ないらしい。

 しかし効果が出たとしても大したことはないし、触媒が足りていないので発動もしていなかったと。


 結局令嬢達は注意されただけだった。

 呪術には恐ろしいものもあるので、迂闊に手を出してはならないと。

 王子が笑いそうになってたわ。


 めでたしめでたし、と思うだろう?

 ところがめでたいのはここからだったんだ。

 以下現在進行形でお伝えします。


 ――――――――――


 解散になる時、アリス嬢に呼び止められた。


「シドニー様、ありがとうございました。トレヴァー様とともにガルフ・ハーフォード伯爵令息の脅迫を暴き、コンラッド殿下に報告してくださったと聞きました」


 おおう、学年一の美少女が感謝してくれるよ。

 というかアリス嬢とまともに話すのは初めてだな。

 ドキドキするわ。


「いや、たまたまアカデミーの裏庭でガルフがアリス嬢に絡んでいるところを見てしまってね。それからガルフをマークしてたら他の令嬢にも似たことをしていたのに気付いて、コンラッド殿下に相談しただけなんだ」

「素敵です」


 うわあ、素敵だって。

 ウソでも破壊力高いわ。

 オレみたいな陰キャには眩しいわ。

 今日はいい日だ。


「違うんだ。最初はトレヴァーと一緒に、ガルフをぎゃふんと言わせてやるつもりだったの。でも思ったより大きい事件だと気付いてさ。オレらだけで解決するのはムリだと思って、結局コンラッド殿下に泣きついたんだ。オレらは無力だったよ」

「そこでコンラッド殿下に話を通じてくださったからこそ、完全な解決になったのではないですか」

「……かもしれないけど」

「わたくしにとっては最良の結末でした。本当にありがとうございます」


 うわあ、この桃髪の天使は褒め上手だなあ。

 スクールカースト上位者は違うわ。

 オレみたいな底辺に対しても丁寧だわ。


「恋のおまじないというのは笑っちゃったよ。微笑ましいなあと思った」

「重々反省しております。人に呪術をかけているなんて意識は全然なくて」

「普通はそうだよね。ガルフがおかしいんだよ」


 何で呪術と騒ぎ立てたか?

 何で恋のおまじないで脅せると考えたか?

 思考回路が特殊過ぎる。


「……わたくしがどなたに恋のおまじないをかけていたか、知りたくはないですか?」

「えっ?」

「シドニー様、あなたですよ」

「……えっ?」


 何がどうなった?

 オレがアリス嬢の恋のまじないの対象?

 マジかよ、ウソ告じゃないよね?

 その上目遣いは惚れてまうやろ。


「ど、どうして?」

「シドニー様は頭がよろしいですし、もの静かで理性的ではないですか」

「成績はまあ」

「インス男爵家の三男で婚約者もいらっしゃいませんよね?」

「えっ? オレのこと調べてるの?」

「うちニークロ商会では魔道具の取り扱いに力を入れようとしているのです。シドニー様は狙い目だと、家でも話しておりまして」


 おいおい、マジっぽいぞ?

 桃髪の天使に狙われちゃってる?

 魔道クラブでの研究内容まで考慮に入ってるのか。

 魔道ドローンについてもある程度知ってるのかも。


「わたくしの婿として、ニークロ家に入ってはいただけないでしょうか?」

「ええ?」

「平民は対象外ですか?」

「そんなことないよ!」

「ではわたくしのことは?」

「大変可愛らしいと思います」


 お、思わず丁寧語になったよ。

 というか、アリス嬢意外と押しが強いな?


「よかったです」

「そ、そう?」

「近日中に父とともに男爵邸にお邪魔させていただきますね」

「わ、わかった」


 その微笑みは反則だよ!

 これ夢じゃないよね?


「シドニー様は今日これからどうされるんですか?」

「トレヴァーの見舞いに行くんだ。今日どうなったかも伝えたいしね」

「わたくしもお供してよろしいでしょうか?」

「もちろん」


 トレヴァー驚くだろうなあ。

 いや、思わぬ展開にオレが一番驚いてるんだけど。


「じゃあ行こうか」

「はい、腕を組んでもいいですか?」

「積極的だね」

「ダメですか?」

「もちろんいいとも」

「ありがとうございます!」


 グイグイ来るなあ。

 幸せを掴もうとするパワーが違うわ。

 このまま婚約者になって、さらに婿入りするとする。

 オレは尻に敷かれるんだろうなあ。

 可愛い尻に敷かれるんならいいや。


「シドニー様、今何を考えていたんですか?」

「ん? アリス嬢の尻は可愛いなって」

「もう、シドニー様はエッチなんですから」


 こんなこと言っても笑って許される身分に出世したよ。

 昨日のオレに伝えたい。

 人生いいことあるよ、と。

 ――――――――――その後、見舞いに行く途中で。


「いや、トレヴァーはいいやつなんだよ」

「ですよね。ヘイグ男爵家の嫡男でいらっしゃいますし。お買い得と考えている令嬢はいますよ」


 オレ達みたいな底辺でも見られてるんだなあ。

 オレばかりラッキーを掴んで申し訳ないと思ってたからよかった。

 トレヴァーにいい土産話が増えたよ。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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なるほどな〜貴族としての視点と商人としての視点は違いますものね。貴族のみなさんと知り合うのも商売のため、しかし現実問題として婿入してもらえる相手はこれくらいで、家に有利な方は…と選択して選べるのがすご…
下位貴族や平民がまだ若いのに身の丈に合った判断をできるのってすごいな、って思います 全く登場はしないけどシドニーくんもトレヴァーくんもアリスちゃんも家族に見守られて育ってきた子たちなんだろうなーと思い…
桃色髪っていうから、てっきりざまぁされる方かと思ってしまいましたwww
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