第7話 どうでもいい
学校、体育館裏。
コンクリートの段差に腰掛けているリョウ、囲むように休めの姿勢で突っ立つ女子たち。リョウの親衛隊の例の。
の、一人が発言。
「リョウさん、部活の助っ人やめちゃうんすか!?」
「ん? ああ、まあな」
大したこともなさげにリョウ返事。普通に会話の表情で女子たちと対面。
リョウは髪を例の紺色のリボンで括っている。初のポニーテール姿。
と、それより重大なことみたいに、問い質す女子。動揺している。
「な、なんで!?」
「うーん。特に続ける必要ねえし、体力発散なら、他のところで間に合ってるしな」
「で、でも……」
『他のところ』とは、もちろんプリティサイダーのことだ。リョウは何を決心したか、あの夥しい部活の助っ人役を辞退するようである。
理解しようとしつつ、しかし困惑気味な女子たち。リョウはなだめる。
「それに、俺が全部やるってのもよくない話だしな。お前らのカッコいい活躍が台無しになっちまうだろ? やっぱ俺みたいな部外者は、応援するくらいでちょうどいいんだよ」
少し残念そうな表情女子。が、きっぱり承諾。
「わかりまっしたッ。今までリョウさんに色々と頼る形になっていた非礼をお詫びさせてください! 本当、何もかも背負わせてしまったみたいで……すみませんでした!」
「「すみませんでしたあ!」」
一斉に頭を下げる女子。圧倒され、しかし笑って手をひらひらリョウ。
「あ? 別にそこまでじゃねえよ。つーか悪かったな、俺も。お前らの領分に色々足突っ込んじまって」
「いえ、今まで本当にありがとうございましたっす。リョウさんが引退しても、うちのテニス部は頑張って県大会行けるようにこれから特訓します!」
「うちのバレー部も、リョウさんがいなくても全国大会目指して日々練習を積み重ねます!」
「リョウさんが抜けたうちの書道部に未来はあるのでしょうか……いえ、やってみなければわかりませんよね。パフォーマンス練習、頑張ります!」
「うちの茶道部も、リョウさんがいなくなってしまったら指導者が消えますね。これは新しくお稽古の講師を雇う必要があります。でもリョウさんほどの優雅な所作を施せる者がいるかどうか……部費の内訳改革も検討せねばなりません」
「おうおう頑張れお前ら。つか何気に俺そこまでの存在感だったのね……ハハ」
自分の能力を少し甘く見ていたリョウは、皆の様子を見渡し、呆れ笑い。
と、誘う女子。諦めきれないみたいに、手をごますり。
「あ、でもお手すきの際には、是非ともうちのテニス部に……」
「は? 私の鉄道模型部だろ?」
「ちょっとあたしの水泳部は?」
「お、おいの相撲部に……」
やんややんやと再び盛り上がる女子複数名。当のリョウが薄めの存在感、置いてけぼり。
「う、うん……まあ、大事なのはお前らの自主性というかなんというか……うぎゃッ」
スコーンと、例によって頭にぶっ刺さる弓矢。引っ付いているのは何故かスリープシュワ。首根っこをオレンジ色の矢の芯に通されて、鼻提灯浮かべて吊られ下がっている。
「うわ、リョウパイセン大丈夫ですか」
「クソッ、またしても! カタキは取りますッ」
「狙撃ッ。狙撃されたッ」
「対象、四時の方向から飛来! 入射角を照らし合わせます……屋上です!」
「皆、追え追えー!」
「引っ捕らえろー!」
退場女子たち。取り残されるリョウ。『あいつら……しょうがねえや』みたいな表情、座ったまま。爽やかに吹っ切れているように。
と、頭から矢をズコッと引っこ抜いて見る。文は付いていない。シュワだけ。
「シュワッ?」
と、目が覚めたシュワ。鼻提灯破裂。起き抜けの眼をコスコスと拭って、自分を持っている(正確にはシュワがぶら下がった矢を握る)リョウの顔を見る。目が合う。
リョウもシュワもキョトン。見つめ合う二人。
■
「来たわね」
パイプ椅子に腰掛けるコンシエンシャス王女。こちらを見下す。
シズルランド、城跡地。襲撃されたので辺りは荒廃したまっさら、しかし空は青い。
各地で街の修復工事が行われている。エッサホイサと角材を運搬する男たち、重機でガリガリ瓦礫を一掃する組員。
オーライオーライの掛け声、重量のある鉄塊を着地させる音。わりと辺りはうるさい。
「ああ、その資材は向こうね。あとB地区の安全確認よろしく。そこのあんたらはもう今日は休憩とっていいわ。次の作業内容にだけ進行書に目を通しておいてね」
テキパキと指示を出す王女。座りながら、組んでいた腕をピ、ピと指差す。
その格好は土木作業着。ヘルメットもちゃんと装着している。
「相変わらずふんぞり返ってんな、お前」
「お前じゃないわ。コンシエンシャス王女よ」
「で、なんの用件だ? こいつで呼び出してまで」
王女の名乗りを無視し、ぐいっと矢を差し出すリョウ。先ほどの矢だ。まだシュワがぶら下がっている。
と、気づき「シュワ〜〜」と飛び出すシュワ。矢から脱出し、嬉しそうに王女の爪先へとダイブ。その御御足を美味しくペロペロ。
ちなみに妖精態。王女はいつものことみたいに、全く動じない。目もくれず、ポーズも一切揺るがない。
その光景を冷酷な眼差しでドン引きしつつ見守るリョウ、続ける。
「まさか、街の復興を手伝えとかいう案件じゃねえだろうな」
「あら、やってくださるの?」
「やんねえよ。てめえの内政のケツはてめえで拭き拭きしやがれ。で、用件は何なんだと聞いている」
「冷たいひと……まあいいわ」
と、立ち上がる王女。パイプ椅子にヘルメットを置く。
「ついてきなさい」
ひらめく長い紺色の髪。王女の風格が漂う立ちふるまい。
「あのう、私もですか?」
と、視点移動。リョウの斜め後ろに、さっきからいたカオル。画面に入り映っていなかっただけで、その隣にはホロもいた。
「そうね。あなたもよ」
「おいちょっと待てよお前。いきなり展開飛ばすんな。どこに行くのかもわからねえし、俺がお前についてくこともまだ承知してねえぞ?」
「お前じゃないわ。コンシエンシャス王女よ」
「それ長えし」
「あ、じゃあ『コンちゃん』なんてどうですか? コンシエンシャスの、コンちゃん」
ぽん、とにこやかに手を合わせるカオル。王女の名称を提案。リョウと王女を和ませるように。
背景は工事現場。「ガガガガ……」とコンクリートハンマーの劈くような音が三人と二匹を包む。シュワは王女の作業用ゴム長靴を永遠にペロペロ。少し間。
「ま、なんとでも呼ぶといいわ」
何故か再び椅子へずかりと座った王女コン。ヘルメットを退かしつつ。
「で? どこへ俺たちをつれてくって? コン」
コン名称定着。質問リョウ。カオルも背後でうんうんと小さく頷く。ホロは会話する必要がないのでどこかへ行った。
「ええ。百聞は一見にしかず。案内するわね」
「言語説明放棄かよ……」
呆れるリョウ、制服スカート姿。口調は男だが、制服はなにげに女子のもの。カオルも同。呼び出されて学校をブッチしたらしい。
「ついてきなさい」
同じ台詞を繰り返したコン。また謎に立ち上がる動作。腰くらいまでの長い紺色の髪が再び揺れる。
■
とある場所。薄暗い室内の床に、配線類が散乱している。その中央には、大きな謎の球体みたいな機械。一部破損している。
その地下室に、リョウたちは来ていた。
「お城の地下に、こんな場所があったなんて……」
夥しいコードやパイプ等を見渡して、呟くカオル。と、応える王女コン。
「城自体はぶっ壊れたけどね。地下室はなんとか無事よ。真っ先に掘り起こしたの」
「こりゃ、一体……」
大きな球体を見上げるリョウ。あんぐりと見つめるその球体は支えもないのに、宙に浮いている。
これにも応えるコン。少し重々しい口調。
「流転システム」
「は?」
「ウェイスト王国が狙う最大の駒にして、こちらが所有する現状一番の切り札ね。あなた達を連れてきたのは、これを見せる為」
「……説明を要求するぜ」
胡散臭そうに眉をひそめるリョウ。壁に凭れ掛かって、腕を組んだ。
カオルはおずおずとコード類を踏まないように歩きながら、感心したようにその機械に目を奪われている。
「ウェイスト王国と私たちシズルランドは、元々は一つの国だったの。同じ種族で、一まとまりの領地を抱えて。それが、十七年ほど前にこのシステムを巡って一悶着あってね。思想が二つに分裂して、ついでに民も二つに分かたれたってわけ」
「へー、初耳だぜ。じゃあこの戦いも割とつい最近起こったことなんだな」
説明コン。合いの手リョウ。カオルは会話に関わらない。邪魔になるといけないと思って指を咥えて見ている。
と、肯定コン。
「そうね。で、システムは向こうの領土にあったわ。こちらの軍勢は最大限のスパークルエナジーを消耗して、その奪還に成功した」
「奪還……ね。それが今ここに鎮座してるってわけか。そんなに重要なマシンなのか?」
「流転システム。その能力は、任意の来世に転生できること」
「任意の来世……?」
首を傾げるリョウ。目を伏せるコンは、何処かから持ってきたドラム缶に着席。その足に永遠に引っ付きペロペロシュワ。
「一繋がりの迷路って私たちは呼んでいるわ。この世界の生命は、全て来世で繋がっているという仮説。スパークルエナジーは、その転生の為に必要なエネルギーとも言われている。それを可能とする変換媒体が、あれよ」
と、コンが視線で促すのは、部屋の中央に位置する球体。リョウも視認。ちなみに部屋は地下なので、工事の音は響かず静か。
「はあ。要は輪廻転生ってことね。まさかこんな即物的で具体的だとは思わなかったが。そりゃあ、行きたいとこに、やりたい人生に転生できるってんなら、誰でも欲しがるもんだな。敵さんもこれを狙ってお前らとわちゃわちゃしてるってわけか」
「まあ……実際は転生したものに過去生の自覚なんてないし、従って証言者及び経験者もいないから。ただの伝承でしかないのだけれど。エビデンス不足ね」
「ハハ、なんだそりゃ? ……ん?」
と、ここで気付いた様子のリョウ。二人は仲良く親友みたいな会話。
「その、十七年前の一悶着ってなんだよ? 何が発端でこの戦いが始まったんだ?」
「あれ。見える?」
「あ?」
コンは球体の上方を指差す。その、一部破損している部分。マシンは完全なる球体ではなかった。
「システムがある日突然壊されちゃってね。あれロストテクノロジーで誰も修繕できる人とかいないし。あの破損部位の所為で、機能が大幅に分解されちゃって。転生できるのが、あと二回になっちゃったのよ」
「二回……それまで無制限に転生できてたわけか?」
「いえ、こちらから任意に転生させるには膨大なエナジーが必要でね。そんなしょっちゅうはできないわ。記録に残ってる前例もないから、慎重になってるのもあって」
「んだよ、じゃあほぼゴミじゃん……いずれにせよ、ぶっ飛んだ話だな。そもそもただの噂レベルに一国の命運を賭けるお前らもお前らだが」
「伝承は伝承なのよ、れっきとしたね。国民の士気にも関わる。それに、あれはあれでスパークルエナジーの貯蓄タンクとしての役割もあるし、便利っちゃ便利よ」
「へー。ま、お前らにもお前らなりの事情があるんだな。で? そのシステムをぶっ壊した大犯罪者ってのは誰なわけ? 処刑されたのか?」
あざ笑うようなリョウ。『やっぱ胡散臭い話を聞かされたな』みたいに。
と、ここにきて言い渋るコン。ドラム缶の上で少し拗ねたように膝を抱える。ヘルメットで目元を隠す。
「それが……わからないのよ」
「はあ!?」
眉をひそめるリョウ。訝しげにコンを睨んでいる。
遠くで配線を眺めていたカオルが、リョウの声にキョトンと振り返った。完全に今までの話を聞いていない、部外者の顔。
「お前ら……どんだけ管理体制ガバガバなんだよ。少なくとも国家転覆材料なんだろ、あれ? それをそんな、お粗末な……」
「ち、違くてっ。本当に厳重な監視網を引いていたのっ。追跡もしたし……なのに、相当犯人が狡猾で賢いのか、全然見当たんなくって。だって国の一大事件よ? もちろん、死ぬ気で捜索したわよ……」
慌てて否定するコン。ドン引きリョウへと必死の弁明。が、リョウの客観的意見が下される。
「つーかウェイスト王国が分裂したのって、お前らへの不信じゃね?」
「な……!?」
「国民はたまったもんじゃねえだろうな。いきなり国の象徴が破壊されて、犯人が見つかんないとか言われて、二勢力に分裂して、戦乱の渦に巻き込まれて」
「う、うるさいッ」
コンはぶん、と被っていたヘルメットをリョウへとぶん投げる。華麗に片手でキャッチするリョウ。何故か自らの頭部へと装着。
「おーおー、暴力で解決かい? 気合入ってんじゃねえか、お姫様よぉ」
「ううー」
コンは半泣きでハンカチを噛んでいる。ヘラヘラと眺めるリョウ、実に愉しそうにいじめている。何故かコンのヘルメットを被りながら。
「いいもんッ。あたしが自分で国護るんだもんッ。あんたらプリティシリーズの力なんか、必要ないもん!」
「ハッハッハ、そこまで話が飛躍する必要もないじゃないか。要は、このシステムを敵から死守してほしいって依頼だろ? 今回俺たちをつれてきたのって」
「う、うん……」
「だったらそう言えばいいじゃないか……よっと」
と、若干精神年齢が退行したコン王女に、歩み寄ったリョウ。同じくドラム缶を並べて、その上にヒョイと乗る。
目線が合う二人。リョウはコンの頭を撫で撫で。
「まあ、失敗なんて誰にでもあることだ。王女だからとか、責任者だからとか、そんなこと女の子に押し付けるやつらが悪い。俺だってあんまし気にしないぜ?」
キラキラと爽やかな目で宥めるリョウ。その下、コンの足をずっと舐めていたシュワがボソッと発言。
「飴と鞭シュワね。そして自分のことを盛大に棚に上げているシュワ」
「撫で撫で」
「うう……」
気にせず、コンの頭を撫で続けるリョウ。真っ赤で俯くコン。
「さて、用件の伝達は済んだみたいだし、俺らは戻るか。おい、カオル」
と、カオルを呼ぶリョウ。が、向こうの方でシステムを眺めている彼女は無反応。
「ん? カオルどうした?」
ぽんと肩を叩くリョウ。いつの間にかカオルの背後に立っていた。
と、ハッと我に返るカオル。
「ハッ。いえ、なんでもないの。なんか……ちょっと気になっただけ」
「気になった? あのぶっ壊れた部分のことか?」
システムの一部破損した部分を指差すリョウ。が、微笑みながら否定するカオル、頬が少し赤いのはリョウが近いから。
「えっと……やっぱなんでもない。なんか、懐かしいなって思っただけ」
「懐かしい?」
「それはデジャヴ現象ホロね」
「ホロ」
と、どこからともなく飛び出したホロ。気付いたカオル、名を呼ぶ。ホロは人格大人しいモード。
「たぶん、昔カオルが観た映画か何かの影響を、脳が受けているのですホロ」
「よくある話だな。ま、俺もこういったメカメカしい超秘匿物体みたいなの、漫画とかで見たことあるな。カオルも案外オタクなとこあんじゃねえか」
「お、おたく?」
総括リョウ、変な表彰に首傾げるカオル。
「シュワッ」
と、王女コンの靴からぴょんとようやく離れた妖精シュワ、懐から例の謎の光を取り出す。帰り支度。
そこへ、見送るコン。ドラム缶からは降りている。
「リボン、着けてくれてんのね」
「ん? ああ」
指摘され、なんともない仕草で自分の髪型に触れるリョウ。その斜め背後でカオルがニヒルな笑み。
「私が結んだんですけどね……」
以下、カオルの回想。
「ん」
と、リョウが差し出してきたリボン。『髪を結べ』という合図。
今朝一番で教室に登校した二人のやり取り。うんざりカオル。
「……自分でやってくださいよ」
「結び方知らん」
「じゃあ、ポニーテールくらいできますよね? それゴムとかでやってから来てください。リボンを結ぶのだけはやってあげますから」
「馬の尻尾がどうしたってんだよ。今は髪の話しだろ、関係ねえじゃねえか?」
「な……」
驚愕するカオルの表情。眉がヒクヒクと痙攣する。
回想終了、溜息カオル。
と、リョウに対面するコン、柔らかく微笑んで言う。
「似合ってるわ」
コンの微笑みに、なにか口を開きかけたリョウ。が、シュワの持つ白い光に包まれて、人間界へと即送還。
■
ウェイスト王国、暗室。
会話している四人。エゴダスター、ツクルーノ&ツカイーノ、アレーモ=コレーモ。
と、玉座に腰掛けるエゴダスター発言。
「ゴチャマゼーが消えましたか」
「うんまあ特に問題ないよね。あいつ無能だったし」
「だったしー」
「そうねえん」
双子とマダムが共感。男ゴチャマゼーの存在は薄いまま二度と出てこない。
「あやつの最期の報告……三人目のプリティシリーズ」
髭をさする紳士。言葉を胸の内で反芻するように。それに意見するマダム。
「でも、人間界の生命物体であれば、それなりに反応がでるはずよん?」
「ふむ……スパークルエナジーですか」
一考する紳士へと、発言する双子。
「あいつら貧弱だもんね。ホモサピエンスがエナジーの力を受けつけるとき、その変化量は膨大。つまり、体内の構成物質がエナジー主体の僕らにとっては、異様な存在だ。発覚する作用も大きい」
「大きいー」
「ふむ。これはさらなる調査が必要ですな。三人目のプリティシリーズ……その為にも」
「サイダーとエスプレッソは、邪魔?」
「邪魔ー?」
「イエース、ザッツライ!」
双子の意見にお見事と、拍手喝采の紳士。テンションが上がっている。
「さっすがツクルーノちゃんツカイーノちゃん、賢いわねー。むちゅー」
「おえー」
「おえー」
むちゅーするマダム。おえーする双子。
紳士が総括。
「今現在、開発部が動いてくれていますよ。近いうちに、強力なポイステーが完成する見込みです。今ある中でも最強の搭乗型ポイステー、そのさらなる進化形の……ね。フハハハ……」
高笑いする紳士。と、双子が段差からぴょんと降りる。
「じゃ、今日は僕らが行ってくるね。とりあえずいつものポイステー銃でやつらの戦闘データを集める感じで」
「感じでー」
瞬間移動、消失。
■
学校。朝、二年A組教室。
リボンを差し出しているリョウと、うんざり顔のカオル。
「またですか……」
とか言いつつも、しっかり結んであげているカオル。時計は7:45、朝早い教室には二人の姿のみ。
「はい、できましたよ」
「ん」
満足そうに頷くリョウ。自分の綺麗に仕上がったポニーテールに軽く触れている。
と、窓の外でドーン。
「雑だな……」
展開の導入に呆れツッコミリョウ。
「あー! リョウさん、例によって例の如くポイステーが来ましたよ! さあ変身変身!」
「カオル……お前もどうしたんだ?」
「シュワッ」
「ホロー」
「げ、お前らまで」
タイミングよく飛び出したシュワとホロ。謎の展開の引力に辟易するリョウ。
変身した二人。サイダーは胸にリボンを巻いている。
「あー、せっかく結んだのにーッ」
「いや、本来の機能だろ?」
せっかく丹精込めて結んだリボンをいとも容易く解かれたエスプ、ご立腹。
サイダーは『しょうがないだろ?』と肩を竦める。
「もう今日は結んであげないもんね、へんっ、だ!」
「なんかテンポ悪いなあ。おら行くぞッ」
拗ねるエスプを置いてけぼりに窓から飛び出すサイダー。
「あー待ってよサイダー」
エスプも続く。誰もいなくなった朝の教室。
■
戦闘シーン挿入。サイダーかエスプのどちらかが必殺技を放ち退治。
■
シズルランド、城跡地。未だ復旧工事が続いている。
パイプ椅子にふんぞり返るコン。作業着は先ほどよりボロボロになっている。鼻頭に絆創膏も。
「なーんか色々と端折られた感じ?」
「メタ発言はご法度だよリョウさん」
ボソッと会話する二人。変身は解けている。と、コンに向き直るリョウ。
「で、何の用件なんだコン? つうか、わざわざホロ通してカオルに伝言して俺に繋げなくていいだろ。なんのバケツリレーなんだよ? 普通にシュワから俺でいいじゃねえか」
「こいつは信用ならないわ」
「一時休戦条約調印とかさせたくせに……」
リョウとコンは二人して、コンの足に引っ付いてペロペロしているシュワを見下す。
「で、なんで俺たちを呼び出したんだよ? またなんちゃらシステムでも見せようってのか?」
「いいえ違うわ。あなたに言い忘れたことがあってね」
「言い忘れたこと?」
「私、言っとくけどあんたより年上だからね」
「は?」
「それと、べ、別にあんたに協力してほしいなんて、思ってないんだからねっ」
「……あっそ。シュワ帰るぞ」
クソどうでもいいコンのツンデレ台詞を聞き流したリョウ、シュワへと帰還命令。カオル含め即帰宅。
■
温泉旅館、リョウの家。
温泉に入っているリョウとカオル。入口にはもちろん『清掃中』看板。
全裸のリョウは頭に手ぬぐい乗っけながら、露天風呂に入浴。そこへ丁寧な身体を洗い終わったカオル参入。湯船へと浸かる。
「ん? つーかコンの話だと、シュワに聞いたのとあまり一致しないな」
と、ふと気付いた様子リョウ。隣に寄った全裸のカオル、湯に若干浸かったリョウの髪を上げて言う。
「情報統制でも引いてんじゃないですか? あまり政府の都合の悪いことは伝播されないように。ある日突然敵が襲ってきたって方が、ストーリー的にも成り立つし、自分たちの失態も隠蔽しやすいですしね」
「はー。どうでもいい」
湯船に肩まで浸かるリョウ。諦めたふうにリョウの髪から手を外すカオル。脳裏に前半のリョウとコンのやり取り。
精神年齢退行してヘルメットを投げつけたコンと、キャッチしたリョウの下り。
コンの「いいもんッ。あたしが自分で国護るんだもんッ」とか、リョウの「だったらそう言えばいいじゃないか」の下り。
カオル脳内に再び別のフラッシュバック。前々回のリョウの台詞。「いやそもそも俺、プリティサイダー了承したわけじゃねえから」の下り。
全てを総合的に判断したカオルの頭脳は呟いた。二人は露天風呂で全裸。
「リョウさん……はめられてませんか?」
「ん?」