第4話 王女ってより女王じゃねえか
「あなたの人生、リサイクルです!」
戦い終わる。いつもの決め台詞。今回はエスプレッソ(カオル)。トドメを刺したのも彼女。
サイダーは物陰に隠れている。丸出し胸を防御しながら。うずくまって縮こまって座り込んでいる。戦闘していなかったようだ。
「ちょっと……サイダーも闘ってよ」
「嫌だ!」
縮こまるサイダー(リョウ)。一応変身してはいる。
と、その腰帯からシュワ。
ホロもどっかから出てきて応える。人格変化状態。
「はあー。わがままシュワね」
「その点、俺のお嬢は優秀でいいホロな。文句も言わねえ弱音も吐かねえ愚痴も零さねえ質問もしねえさせねえ」
「質問権くらい保証しろよ! つかカオル、お前もなんとか言ったらどうだ。こいつらだいぶクレイジーだぞ。黙っていたら丁重に政治利用されるぞ!」
叫ぶサイダー。今回は全体的に早口調。第四話ということで、特殊的なギャグ回だ。
「うーん。まあ、サイダーと一緒なら……」
「それこないだと同じ台詞ー! 抵抗しなくなった民から国家は崩壊するんだぞ。ちゃんと主張しないと生皮剥がされるぞ!」
「はあー。わがままシュワね」
ため息を吐くシュワ。やれやれといった感じ。
食いかかるサイダー。
「お前が全ての元凶だ。とにかくこのままだと、」
「エスプレッソとペアのホロが羨ましいシュワ」
「だろ? ウチのお嬢は天下一品だぜホロ」
「そうシュワね。ここのもも肉とか美味しそうシュワ」
「それほどでも……」
「俺の話を最後まで聞けよ!」
サイダーの話を途中で遮ったシュワ。応えたホロ。照れるエスプレッソ。
と、突っ込んだサイダー。
エスプレッソが、そんな彼女に言う。
「サイダーちゃん、世界はあなたを中心に回っているんじゃないのよ? 我が国は民主主義の国家なの」
「うるせえ黙れカオル。つーか、なんでお前だけ良識的な衣装なんだよ。上半身裸になれよ!」
「えーやだよ。そんな変態みたいな格好したくないよ」
「してんだよ! 今、俺が!」
変身状態はまだ解けていない。タイムラグがあるようだ。つまり無論、リョウは生乳晒し状態である。
「荒れてるホロ」
「シュワー」
「サイダーちゃん……」
「くっそー。なんで俺だけ乳丸出しなんだよ。これだから世界の格差及び不平等問題は解消されないんだよ。てめーらとっとと社会の不均衡性に気づいて、その当事者意識と解決策の模索意思の助長を促せよ!」
「はあー面倒くさいシュワね。じゃあシズルランドへ行くシュワか?」
「シズルランド?」
ここでシュワが提案した。訊き返すサイダー。説明するシュワ。腰帯から離脱。
「コンシエンシャス王女のところシュワ。プリティシリーズ製作陣最高責任者兼計画立案者兼国家最上権威シュワ」
「そうかそいつが戦犯か。つーかそうならそうと言えって、最初っから連れてけよ」
「だからそうしようとしたシュワ」
「あ?」
「サイダー、チミが窓から僕を投げたんじゃないかシュワ」
「……?」
首を傾げ、シンキングサイダー。
と、シュワ人間態に変身。それを見、思い出すリョウ。
第二話の冒頭シーンフラッシュ。
シュワ(イケメン)がリョウの耳に『ふっ』したこと。
その他なんやかんやあったこと。
で、リョウが胸ぐら掴んで窓から吹っ飛ばしたこと。
フラッシュ終わり。振り返るサイダー。
「は!? あの時?」
「そうシュワよ。まったく、話を最後まで聞かなかったのは、誰の方シュワかね?」
「ぐぬぬ……」
唸るサイダー。人間態のシュワに一本取られた。紛らわすように叫ぶ。
「と、とにかく連れてけよその甲子園とやらに! 今すぐ大至急可及的速やかに!」
「『コンシエンシャス』、シュワ。まあ、行っても衣装の意匠の変更は認められない思うシュワけど……」
ダジャレを言いつつ、懐から何か取り出したシュワ。パアアと光る謎物体。手のひらに包まれている&眩しい光で、正体はわからない。
その光に、包まれる全員。サイダー、シュワ、ホロ、エスプレッソ。
エスプレッソが戸惑い訊く。
「え? 私も行くの?」
「お嬢行こうぜ!」
「えええ!?」
「ふんッ」
誘うホロ、動揺エスプレッソ、いきり立つサイダー(胸はガード)。
光の中へ。白い光で、画面が埋め尽くされる。
■
ウェイスト王国、暗室。
前回と同じような下り。マダムのアレーモ=コレーモ、双子のツクルーノ&ツカイーノの声。
「『プリティエスプレッソ』……ねえん」
「第二の新たな戦士ってやつー」
「てやつー」
「あいつら……もう許せん」
歯を食いしばる男ゴチャマゼー。また土下座。
と、上を仰ぎ見る。エゴダスターの玉座。
「このままのさばらせるのは得策とは思えません。エゴダスター様、どうかわたくしめに緊急出撃命令をお与えください」
その上、紳士エゴダスター。髭を擦っている。ゴチャマゼーを見下した後、一同を見渡す。
「ふむ……ここは民主主義的に決定しようじゃありませんか。あなたたち、ゴチャマゼー氏出動許諾は妥当だと考えますか?」
「異議あり」
「ありー」
「論外ね。議題提示そのものが間違っているわ」
「くそ……お前ら後で覚えていろよ……」
あっさりと反対した三人に、呻くゴチャマゼー。
と、彼は追加する。自分の意見を聞き入れてもらいたいみたいだ。
「しかし、このまま何も手を打たないわけには……」
「あなたのように、毎度惨敗する手は打ちたくないですよ?」
「……!」
一本取られたゴチャマゼー。エゴダスターが言い、優しく睨んだ。
と、双子が提案する。
「エゴダスター様、でもこのまま何も手を打たないわけにはいかないと思うよー」
「思うよー」
「ふむ。たしかにその通りですね」
「な……!?」
肯定する紳士。ゴチャマゼーが提言したことと同じこと言った双子。なのに、すんなりと意見が通ったので、驚き愕然とするゴチャマゼー。
「ここは事態の根本を攻めるべきでしょー」
「でしょー」
進言する双子。と、褒めるマダム。
「あら賢いじゃない。ツクルーノちゃん、ツカイーノちゃん」
「なな……!?」
さらに男は驚愕。
「いえー。単純な知能指数ならアレーモ=コレーモさんには負けますよー」
「ますよー」
「あら可愛いこと言ってくれるじゃなーい。むちゅー」
「おえー」
「おえー」
「……」
もう何も言えないゴチャマゼー。双子たちに『むちゅー』するマダム。
と、エゴダスターが口を開く。
「正義の対義語は正義だ。対峙するそれらによって、国家は崩壊する。あなたたちの正義をとくとお見せしなさい」
「Я!」
ゴチャマゼーだけがオロオロしている。合図を取った双子とマダム。画面切り替え。
■
シズルランド・外観。メルヘンで平和そうな国。
だが、綺麗なのは城とその周辺のみで、他の街は黒く濁っている。
と、その城の前で言うシュワ。
「ここは奴らに陥落されてない、最後の領土シュワ。ここが攻め込まれたら、全てが終わるシュワ」
「俺はどっちでもいいんだけどな」
「ちょっとサイダー!」
「へいへい……」
後頭部でつまらなそうに腕を組むリョウ、牽制するカオル。
変身は解けている。生乳タイム終了。
案内する人間態シュワ。付いて行く二人。ホロはどっか行ったらしく、いない。
広い部屋に出る。レッドカーペットが敷いてあり、その先に玉座。玉座の間のようだ。
荘厳に座っている女性。カーペット外側、部屋のサイドには、貴族やら、アーマー被った兵士たち。
厳かな雰囲気に圧倒気味の二人。特にカオル。
が、すぐに慣れたか、リョウは割と平然となっている。
「見た目は普通に人間なんだな。ホモサピエンスのフォルムと一緒だ……」
家来たちを見渡すリョウ。確かに、皆人間の姿をしている。
と、首を傾げるリョウ。独り言のように。
「うん? じゃあフェアリードリンクって何なんだ?」
「家畜よ」
「はいっ。僕は家畜です!」
「へええ!?」
ガバッと振り向くリョウ。シュワが元気よく挙手をしている。
リョウの独り言に答えたのは、例の玉座に腰掛けた女性。と、そこへ駆け寄るシュワ。
なんと靴を舐めだした。犬のようにペロペロとシュワ。が、それはいつもの風景みたいに、全く動じない女性。
「コンシエンシャス様! プリティシリーズを連れて来たシュワッ。プリティサイダーとプリティエスプレッソシュワッ」
舐めながら言うシュワ。しかし発音は流暢、器用だ。
と、二人を見遣る女性・コンシエンシャス王女。少し不思議そうな顔をする。
「え? どこにプリティサイダーがいるの?」
「ここだよ」
見渡した王女に、自分を指差すリョウ。なにげに自認しているらしい。
と、再び眉をひそめる王女。
「え? あなた女の子じゃない」
「そうなんだシュワ。サイダーは女の子だったんだシュワ。王女殿下の見間違いだったシュワッ」
「黙れ家畜」
「シュワ〜〜」
「すっげーよろこんでる……」
ニコニコ笑顔のイケメン人間態シュワ。王女に横っ面を踏まれている。ドン引きリョウ。
と、リョウは気が付いたように言う。話の流れを考察する。
「ん? つーか、『見間違い』? どういう意味だ?」
「あー。あんた女の子だったのね。てっきり男かと思って、プリティシリーズ制作しちゃった」
「……」
一瞬の静寂。を、切り裂くようなリョウの怒号。
「はあ〜〜!? あッ、だから上半身裸なのか!?」
全てを悟ったリョウ。自分が変身すると上半身裸になる意味。
「男と見間違えたって、割とあっさりな理由……つか、その男だから上半身裸でいいってステロタイプな思考をやめろ。近年そういったセンシティブな問題は取り扱いが危なっかしいんだよ。もっとジェンダーフリーな意匠の衣装を考えればよかったじゃねえか!
俺の衣装を変えろ、上半身装備を追加しろ、今すぐ!」
わなわなと震えた後、激怒リョウ。もう礼儀も遠慮もない。王女へと食ってかかる。
が、王女は澄ました顔で言う。
「過ぎた日を振り返らない」
「振り返れ! フィードバッグは大事だろ!」
「ちゃんとサイズは合ってるしいいわよね」
「よくない!」
「そもそもあなた、本当にプリティサイダーなの? 証拠が欲しいわ」
「は!? 証拠? つったって、今ここでは……」
激しいツッコミとそのやり取り。ふいに疑い始める王女。
周りを見渡すリョウ。家臣たちがいる。人前では例の格好にはなれない。変身できない。
想像したか、リョウの顔が少し赤く。
その傍ら、さっきから全くついて行けていないカオル。
「あなたがプリティサイダーという証拠が見せられないなら、その願い、聞き受けられないわ。お引き取り願おう」
「ふ、ふざけんな! ……ああいいだろう、じゃあ別室を用意しろ。人がいないトコな。そこで着替えて、お前には見せる」
「駄目よ。歴史的事実というのは、最低でも百人の人民が目撃しなければその存在とは残らないのよ。あなたが現在ここでプリティサイダーに変身したという事実はまさにこの場にて彼ら百人の私の下僕たちの目に収まらない限り、その時間空間軸への証明にはならないわ。あなたの宣言は対象の観測結果によって否定されるわけ」
「頑張って難しい用語並べようと努力したことは認めよう。が、それは俺がプリティサイダーでないという証明にもならない。詭弁だ!」
「詭弁を雄弁な真実そして法定に変換出来るのがこの私コンシエンシャス王女。プリティシリーズ製作陣最高責任者兼計画立案者兼国家最上権威よ」
「お、横暴だ……」
慄くリョウ。再び王女の進言。
「変身なさい。さもなくば、処刑にかけた上で国家から追放する」
「それ普通に死体遺棄じゃねえか……クソッ。やむを得ん」
「あ、ついでにエスプレッソも証明して」
「え!? あたし!?」
急に振られたカオルびっくり。観念気味リョウ。わくわく家臣たち。これ読んでる貴方もわくわく。
「クッソ。絶対隠す絶対隠す絶対隠す!」
呪文のように唱えた後、変身シークエンス。
「シュワッと弾けて漲るパワー
プリティサイダー 見・参!」
口上、決めポーズ。
沸き立つ観客。読んでる貴方も。
「ほらお前も!」
「ふぇえ!?」
促すサイダー、カオルも変身。
いつの間にか飛び出したホロ。会話の必要がないから隠れていた。
「ホロッと蕩けてくゆる情熱
プリティエスプレッソ け、見参っ」
口上、決めポーズ。
「あ、今度は噛まずに言えました。やった!」
「おらこれでどうだ! ちゃんと変身したろ!?」
王女に向き直るリョウ。溢れんばかりの胸を左手で抑えつつ、右手で王女を指す。うひょーな家臣、読んでる貴方も。生乳タイム復活。
「ふむ。ちゃんと本物みたいね。そしてその胸も本物」
「うるせえ!」
「未来視した時は男かと思ったけど。ちゃんと女の子だったんじゃない」
「そ、そうですよっ。たしかにサイダーには男っぽいところもありますけど、ちゃんと女の子で……あれ? うん、女の子……? ですよっ」
「ざけんなカオル、おめえもか! 見りゃわかるだろ、見りゃ!」
「うーん……えっと……あ、うん」
「え……俺ってそんなに男顔?」
曖昧な返事をするエスプレッソに、少し絶望顔のサイダー。
ちなみにリョウの顔パーツはほぼほぼ男のそれである。眉がキリッとしていて、目と鼻がスッとしている。要は男顔だ。
「で、上半身の件だったわね」
「そ、そうだッ」
取り直す王女。同意するサイダー。胸は鉄壁の防御。
「それは無理よ」
「は!?」
「衣装の材料ね。もう使い切っちゃったのよ。その上資源がない状態よ、この社会情勢で。大量のスパークルエナジーを要するの」
「は!? は!?」
「そもそも材料があったところで、制作には時間が掛かるわ。最短で十年くらいは」
「は!? は!? は!?」
「だから諦めなさい。あなたは上半身裸のまま永遠に戦うの」
「は〜〜!? ふざけてんじゃねえぞてめえこのクソ○ッチカス! ○ァック! キ○ガイ!」
「やめてよサイダー、ヒ○プロ○ェクトに消されちゃうよ!」
「はー。これだから愚民は」
「んだよこのマ○カス!」
「サイダーやめて」
ため息を吐く王女、キレるサイダー、止めるエスプレッソ。
サイダーは猛獣のように唸りつつ、今にも王女へと噛みつきそうな距離だ。
と、エスプレッソにどうどうと宥められて少し落ち着く。はあはあと息を吐く。が、また文句。
「つーか青帯って初級者じゃねえか! ざけんな!」
「人間界の通式なんて知らないわよ。そんなに嫌なら取っちゃえば?」
「取ったらズボンまで脱げるじゃねえか! つーかなんでこの下ノーパンなんだよ。それになあ……」
と、歩み寄るサイダー。家臣の一人、貴族みたいなおっさんに瞬時に近づく。ものすごい剣幕に、恐れるおっさん。
「お前コート貸せ」
「へっ?」
「貸せ」
「……はい」
おっさんはおずおずと貴族みたいな赤いコートをサイダーに手渡す。
サイダー着る。コート爆ぜる。
「ああっ。私のコートが!」
「ほら。こうやって、何か上に着ようとすると破けちまうんだよ。バグってやがる」
「そりゃそうよ。普通の衣服じゃ、その特殊服から発せられるスパークルエナジーの波動には耐えられないわ」
「んだよそれ! クソ、狂ってやがる。もう俺は戦わねえ。絶対にだ」
「わ、私のコート……三十万……」
と、変身を解くリョウ。なにげに自分の意思でコントロールできるようになっている。生乳タイム終了。あと後ろでコート破られたおっさんがなんか言ってた。
「そう。なら処刑ね」
「は?」
と、厳かな雰囲気になって王女が言う。眉をひそめるリョウ。
「私が見たプリティシリーズは三人よ。あなたが使えなくても、代わりはいるわ。もちろん、今そこのあなたの隣にいる子もね……」
「……」
ギョッとしてリョウはエスプレッソを見遣る。
途端、にわかに優しい表情になるリョウ。エスプレッソの肩を掴む。
「なあカオル。俺と一緒に死んでくれるか」
「い、嫌ですよ……」
「そこは『サイダーと一緒なら……』じゃねえのかよ!」
突っ込むリョウ。なにげにカオルの台詞モノマネが上手い。一人芝居の様相。
「ですって。実に優しいお仲間じゃない」
「クソッ。本当にどうにもならないのかよ、この裸は。俺は一生ナマチチノーパン女なのかよ……」
四つん這いで嘆くリョウ。もう変身してないから、胸をガードする必要はない。
と、ふと考えるような仕草をする王女。ちなみにシュワはこの間ずっと靴を舐め続けている。
「そこのあなた。『アレ』を持ってきなさい」
「は……『アレ』ですか?」
「早くしろ」
「ひゃいっ」
命令された家臣がスタコラサッサと部屋を出る。何かを取りに行った様子。
「王女ってより女王じゃねえか……」
パシリの家臣と靴舐めのシュワを見て、呟くリョウ。もうめちゃくちゃ疲れている。
エスプレッソは棒立ち。
と、すぐにバンと扉が開き、戻って来た家臣。その手に小さな箱を持ちつつ。
「これ。着けなさい」
「……は?」
取り出した内容物を差し出した王女。その手に乗る、紺色のリボン。いきなりで『は?』のリョウ。
と、王女解説。
「あなたのプリティシリーズを作った時の端材よ。これなら、変身時に装着しても破壊されないわ。端材と言っても、曲がりなりにも最高級素材だからね」
「……いや、これでどうしろって言うんだよ! こんなちゃちい奴、何の足しにもならねえじゃねえか!」
「サラシとして巻けばいいじゃない」
「……」
獣のような剣幕で眉をひそめたまま膠着リョウ。
と、リボンを奪い取って言う。冷静になったらしく、声の調子が低くなっている。王女と向かい合う。
「ふざけんな。何で俺が戦う前提なんだよ」
「とか言いつつもちゃっかり受け取ってるわね」
「お前の財産を奪ってやったんだよ。俺は戦わねえぞ」
「戦いなさい。それがあなたの使命よ」
「戦わねえ」
「戦いなさい」
「戦わねえ」
「戦いなさい」
「……俺は戦わねえ。断固拒否だ」
ドーーーーーーーーン!
『敵襲、敵襲!』
大音声。砲撃みたいな音と、敵襲を告げるアナウンス。揺れる景色。
着弾とともに、箱の中の指人形みたいな動きでシャッフルされる部屋の中の人民たち。もちろん、リョウたちも。
「あら敵が来ちゃった」
「ここも終わりシュワかね」
「まだ諦めないわ。お前たち! 存分に足掻きなさい!」
「「イエス! マスター!」」
マントを翻し一瞬で軍曹みたいな格好にチェンジする王女。
リョウとエスプレッソは置いてけぼりで王女、シュワ、家来たちのやり取りを見ていた。
「な、何なんだよ敵襲って……うわあッ」
「ひゃあッ」
リョウとエスプレッソが吹っ飛ばされる。城に着弾したらしい。部屋に爆風が訪れた。
「あっ。リョウさん!」
「うおお!?」
変身しているエスプレッソが、変身していないリョウをキャッチ。華麗に着地する。
いつの間にか辺りは焼け野原となっている。戦場だ。
「衛生兵ッ。衛生兵ッ」
「第三次要事態隔壁突破されましたッ。敵、接近しますッ」
「ああッ。我が家がッ」
「狼狽えるな愚民! 魔法陣結界を展開しろ。それと直ちにBエリアを封鎖、国家守属隊のみ招集せよ。ここで十七陣形を取る。他の者は国民の救護を優先させろ!」
「「Sir, Yes, Sir!」」
「……」
リョウは突如開始されたバトルタイムに呆気にとられていた。軍服装備の王女が、さっきまでとは別人みたいに指揮している。
放置されるリョウ、エスプレッソ。遠くの方で人間態のシュワが物陰から狙撃して善戦している。
敵はもちろん、ウェイスト王国の民だ。
「ま、まさかのミリタリー……」
「リョウさん、危ない!」
呆然と呟くリョウを庇うエスプレッソ。戦況はどんどんと進んでいく。物陰に隠れている二人。頭上をヒュンヒュンと交差し飛び交う鉛玉。
「お嬢、応戦だ!」
「うん、ホロ!」
やっと台詞を喋ったホロ。同意するエスプレッソ。なにげに仲が良い。
展開は進む。色々なツッコミは無しだ。
「えいっ」
エスプ(以下略)が弓を放つ。吹っ飛ぶ敵陣。
と、反撃。エスプはリョウを脇に担ぎながら移動しつつ戦う。
放心状態のリョウは、やっと気がつく。
「クソッ。意味がわからん! おいシュワ!」
「シュワ?」
呼ばれて振り向くスナイパーシュワ人間態。
変身シークエンス。
「シュワッと弾けて漲るパワー、」
と、ここで映像がぶつりと不自然に切り替え。胸を隠したリョウが、落としていた例のリボンを拾う。
そのリボンは変身シークエンスの一部となって、リョウの胸にぐるぐると巻かれる。
「──プリティサイダー 見・参!」
口上、決めポーズ。
やっとサイダー完全体。胸に紺色のリボンがサラシのように巻かれている。あとは通常通り。
「あ、サイダーそれすごく似合ってるっ。カワイイーっ」
「今それどころじゃねえだろ! とにかく、押し切るッ」
紺色のサラシが番長みたいに似合ってるサイダー。を見て、キュンキュンきてるエスプ。
ちなみに胸はリボンサラシによって谷間が強調されて、人によってはよりありがとうございますになっている。
と、そのサイダーは傍に落ちていた拳銃を持って迎え撃つ。が、なかなか当たらない。
エスプの弓矢だけクリーンヒットしている。弓矢はシャワーのようになって敵陣へ広範囲で降り注ぐ。
それを見るサイダー。悔しそう。
「つうかカオルにだけ自前の武器あって、俺だけ徒手空拳ってなんだよ!」
「まあ、接近戦には重宝するんじゃないかなサイダーも」
「したか!? 今までにしたか!?」
「うーん……」
苦笑いのエスプ。割と余裕がある。と、また弓射撃。だいぶ敵勢が削がれていく。
その隣、銃操作が全くなっていないサイダー。まだ一発も当たっていない。弾を装填して叫ぶ。
「それに何なんだよこの状況。いきなり急にどうしちまったんだよ。こういったセンシティブな話題は止めろと言ったろ! ふっざけんな作品色変わっちまってるじゃねえか!」
「メタ発言は御法度だよサイダー」
「知るかッ。う、うおお!?」
と、ここで敵ポイステー投入。前線が押されている。銃弾はポイステーに効かない。
「くっそ。やっぱ素手が一番ッ」
と、向こうの敵陣に単独ダイブのサイダー。敵を蹴り技でなぎ倒し、全線へと向かう。
敵たちはJKの素足で蹴られ踏まれとてもいい感じなっている。
そしてポイステーへと突撃。王国がまるで歯が立たないその怪物を、猛然と押しやるサイダー。空中連続蹴り、トドメの攻撃。
必殺、サイダースパーク。
「お前の人生、リサイクルだ!」
■
敵陣は散り、舞台は硝煙を引きつつ一時休戦の様相を見せた。
もはや城の跡形も無い。辺り一面灰色な平らになっている。
臨時設置テントで配給を配る王女、割烹着姿。その豚汁を受け取りに並ぶ国民。空は灰色。
と、テント背後からリョウ参上。少し後ろに控えめにカオルもいる。
割烹着王女は、振り返らずにその気配を察知し、言う。
「先ほど声明が出されたわ。敵陣、ウェイスト王国はあなたたちプリティシリーズの存在を完全把握、対抗する為兵器ポイステーの開発及び改良に尽力するみたいよ。それに従って、私たちシズルランドとは一時休戦状態。こちらがプリティシリーズを投入する代わりに、向こうもポイステーを投入──」
と、横の大鍋で作っていた豚汁。その沸騰した水に、刻んだ蓮根、人参を投入する王女。
「それ作り方変じゃね?」
「う、ウチはこれでやってるのっ」
リョウに調理方法を指摘され、少し赤くなる王女。
が、再び落ち着き、低い声で冷静に続きを述べる。
「──それで、ひとまずどちらもそれぞれの領分には手を出さないことに決定。ついさっき私の代わりに奴隷が条約を調印してきたわ。
まあ、敵にさらなる開発の猶予を与えてるってことは、釈然としないけどね。人民の為なら仕方ないわ。こっちも今攻め込まれて来たら、国民全員が全員なんて、確実に護れやしない」
「……それって代理戦争ってことか?」
「そうなるわね」
豚汁を作る手を止め、振り返る王女。
リョウはその言葉に目を見開き、自らを指差す。
「は!? 俺たちの意思は!?」
「聞いたじゃない。死にたくないって」
「それは願望であり意志ではない!」
「黙れそして跪け」
「……駄目だこいつら意思疎通が図れねえ。カオル、帰るぞ」
「え? え?」
絶句した後、踵を返すリョウ。展開について行けないカオルが、戸惑いつつも追う。
彼女は今のリョウと王女の会話も、あまり理解出来ていない様子だ。
「シュワ! 来い!」
叫ぶリョウ。と、どっかから飛び出したシュワ。ホロもいる。
察した妖精態シュワ、再び懐から謎の光を取り出す。帰る二人と二匹。
リョウが目線だけで振り返る。民、子どもたちに豚汁を配る王女の背中。
暗転。
■
夜。リョウの部屋。
せんべい布団に横になっているリョウ。その手にはリボンを持っている。
部屋は電気が点いていない。真っ暗だ。
手に握ったリボンの、暗闇にも鮮やかな紺色。リョウはそれを無言で、じっと眺める。