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第2話 知るか!

 二階。リョウの部屋。深夜。

 ファンシーなウサちゃんの時計は1時を回っている。

 リョウはちゃぶ台に向かっている。またもや勉強中。

 数学の問題。鉛筆で、三角関数の不定積分の応用問題を解いている。

 と、あくびをかいて、にわかに寝転ぶ。

 学校のカバンをチラッと見遣る。

 その取っ手部分に、キーホルダーは無い。

 前回のフラッシュバック。キーホルダーを温泉で拾ったこと。謎の巨大怪物が現れたこと。そして、彼女が変身したこと。

 同時にそのあられもない姿を思い出し、リョウの顔が真っ青になる。


「〜〜〜〜ッ」


 急に窓から外に出るリョウ。その手にカバンを掴んでいる。二階の屋根瓦を伝って庭へ着く。

 と、またもや急に置いてあったシャベルで土を掘る。みるみるうちに人一人が入れるサイズの穴が出来上がる。

 リョウはその穴の入口を持ってきたカバンで塞ぐ。完全に誰も消えた庭。


「ふっざけんなーーーー!」


 と、しばらくして土の中から叫び声が聴こえる。リョウのストレス発散方法だ。地面にくぐもった声は続く。


「何が『プリティサイダー』だーー! 何が『シュワシュワ』だーー!」


 すうう、と大きく息を吸う。昨日の夕方、シュワの笑顔を思い出す。

 叫ぶリョウ。大地が揺れる。


「つーかアイツ(シュワ)、何処行きやがったあああああああああ!?」



 ■



 翌日。朝。学校。教室。

 『視聴覚室』と書かれた看板。

 授業中。教師が円の方程式の標準形を黒板に書いている。

 うっつらうっつら、船を漕ぐリョウ。まだ一時間目だ。

 やがてその眼が閉じられる。



 ■



 カツカツと廊下を歩く音。男の影だ。

 水色のスーツを纏い、髪はきっちりと爽やかかつワイルドかつナチュラルに決まり、二十代後半くらいの、若い、それでいて大人びた余裕だ。

 全体の格好としては、若干ホストっぽい。

 校内の通路を何処かへ向かっている様子である。

 男は教室(二年C組)の前を通る。

 と、それに気づき廊下を一人振り向いた女子生徒 (カオル)。顔はまだ見えない。

 その茶髪のカールした感じのセミロングがふんわり、揺れる。

 ふと微かに開いた口元にはシャーペンがあてがわれている。

 廊下。男が過ぎ去り、誰もいない。



 ■



 寝ているリョウ。机に突っ伏し、よだれが垂れている。

 と、唐突に教室のドアがものすごい勢いでバーンと開かれる。

 そこに立つ謎の男──廊下を歩いていた男だ。

 ざわつく教室。


「な、なんだお前は? 不審者か?」


 少し頭頂部が過疎気味の数学教師が言う。

 と、男はフッと笑って、


「ああーーーーーー!?」


 と窓の方を指差す。視線誘導だ。教師は咄嗟にその方角を振り向く。

 すかさず男はドアの側、教室の右前方、ごみ箱の横にあったパソコンチェアを


「等加速度運動」


 とスタイリッシュに呟きつつシュートする。ボーリングみたいな転がし方だ。椅子だが。

 そのコロコロ椅子はスピードを保ちつつ転がり、視線誘導された数学教師(振り返り、迫る椅子に気づく、が遅い)に衝突した。

 「ドーン」という男の口セルフ効果音と共に、水平に襲った椅子に座席面で膝カックンを受ける教師。

 そのまま衝撃に気絶。上体は見事すっぽり椅子に収まり、座る。

 その一瞬の静寂の中、爽やかに人差し指を立てる男。

 と、教室が湧く。


「やだイケメン!」


「やだ惚れちゃう!」


「やだ濡れちゃうん!」


 最初の二つは女子生徒で、最後の『濡れちゃう』はガッシリした男子生徒だった。野球部補欠山田君。

 と、その謎のイケメンホスト男(身長186cm)は爽やかに教室を歩く。何かを見つけた様子だ。

 その足は、窓際のリョウの方へと。


「サイダー……起きて……(ここでシュワと言っているが小さくて聞こえない、スーみたいな息の音)」


 眠り姫のリョウに話し掛ける。リョウは起きない。机に突っ伏したまま。

 グイッとリョウの顎を掴んで上を向かせる。顔が近づく。今にもキスしそうな勢いだ。


「起きて……(再びスーみたいな音)」


 一向に目覚めないリョウ。教室の生徒たちはハラハラドキドキしながら見守っている。

 と、一計案じたように、イケメンは徐々に顎クイしたリョウに顔を近づける。

 生徒たちが「キス?」「接吻?」「口吸い?」「お刺身?」みたいな静かな歓声を上げる。(ちなみに今はもちろん授業中)


「ふっ」


「うわあああああああああああああ!?」


 イケメンはリョウの耳に『ふっ』した。

 その衝撃で起きたリョウは、生徒椅子に座ったまま四分の一ほどひねり、後ろへぶっ倒れる。椅子と共に。後ろの生徒の席には奇跡的に当っていない。

 リョウはイケメンを視界に認める。


「んだッ。お前!?」


 起き上がらない。よだれを垂らしたまま。よっぽど不意打ちであったのだろう。

 全身水色を基調としてコーディネートしたイケメンホストは言う。


「サイダー。僕と一緒に来てほしい──」


「はっ?」


 男の身体が迫る。未だ椅子とともに仰向けにひっくり返っているリョウへと。

 リョウの顔が真っ赤に紅潮してゆく。

 ドクンドクンと鼓動が鳴り響く、二人だけの世界。


「──シュワ」


「……」


 リョウは絶句する。今、男はシュワと言った。嫌な予感がする。顔が赤から青に変化。


「サイダー。一緒に行こう……シュワ」


 今度はきっちり発音した。教室がざわめく。「シュワ?」「シュワって何?」「つかあいつ誰?」「不審者?」

 さっきまでイケメンイケメン言っていたのに、取って返したように不審がる生徒。

 全てを悟ったリョウは必死に機転を利かせる。


「あー手話ね。あー、今日のレッスンは五時半からかー。あー、今日は何の単語を習うのかなー」


 何気に手話で『さっさとあっちへ行け』と合図してるリョウ。が、男──シュワに気づくわけはない。

 哀しげな声を出す。イケメン顔も台無しだ。


「シュワぁ……来てほしいシュワぁ」


 ブチッ。リョウの堪忍袋の緒が切れた。

 窓を全開させ、男の胸ぐらを掴み、外へとぶん投げる。


「飛んでけぇええええええええ!」


 「シュワあああああ」なんて情けない声を出しながら男シュワは吹っ飛んだ。その姿が遠いお空へキラーンと星になる。外は曇り。


 教室の皆がそのやり取りに注目していた。リョウはハッとする。やるせない雰囲気。

 と、教師が椅子に座って気絶状態なのを発見。


「はあ。身から出た錆と思えばいいか……」


 溜息を吐く。と、リョウはおもむろに歩き、教壇に立つ。黒板の内容、進捗状況を確認する。

 なんと、リョウは授業を再開した。


「あー、えっと。まあ、基本公式は今先生がおっしゃった通りだから。じゃあ教科書の63ページの問1〜3まで解いちゃって。このタイマーで三分経ったら答え合わせね。俺がランダムで当てていくから、ちゃんと解けよ? もちろん分からんとこあったら挙手な、教えっから……」



 ■



 チャイムが鳴った。数学教師がフガッと目を覚ます。


「フガッ。授業は!?」


 キョロキョロと辺りを見回す。己がコロコロ椅子に着席していることに気がつく。すぐにギャル生徒の声がかかる。


「あ、センセー。須和さん早退したみたいです」


「ふぇっ?」


 ギャルは続けて言う。教師は戸惑いつつ聞く。(ちなみに、リョウの本名は『須和涼(すわりょう)』)


「そこにメモあるんで見てください。あと黒板消しといてください」


「ふぇっ?」


 教師は振り返る。黒板ギッシリ、数式で埋まっている。

 その端っこ、正方形のニャンコのファンシーな紙メモに『98ページ二節(3)の練習問題Cまで進めさせて頂きました。次回答え合わせから始めて下さい』とめちゃ達筆で書いてある。署名は無い。差出人不明。

 教師はわなわなする。思わず眼鏡を整える。


「じゅ、授業八コマ分……」


「そんだけです。じゃ、あーしはこれで」


 ギャルが去る。廊下で教科書やノートを持った他のギャルが「みっちゃん遅いー」とか言ってる。


「今日の授業面白かったねー」


「あーし、すっごいわかりやすかったー」


「それなー。まじスピーディだったし」


 ギャルが盛り上がりつつ退場。残された教師。寂しい風が吹く。



 ■



 山。授業後、早退したリョウ。そばにママチャリ。


「てンめえ、どーゆうつもりだコラッ」


「ひええ……シュワ」


 物凄い剣幕でシュワ(人間態)を踏みつけるリョウ。すでにボコボコにした後らしく、シュワのホストスーツはクタクタボロボロになっている。


「なんで学校来たッ。それに何だその姿はッ。つーかプリティサイダーってなんだッ」


 捲し立てるリョウ。指でシュワの身体をつんつく突っついている(踏んだまま)。

 シュワは「あうあう」と怯えている。イケメンもモロ崩れである。


「全部教えろ……さもなくば、埋めるぞ」


 ガッと胸ぐらを掴み恫喝するリョウ。シュワの顔は「ひええ」と恐れていたが、ふと考えたように青い瞳が細まると、やがてみるみる冷静な顔つきになって言う。


「ふむ。いいだろう……シュワ」


 その冷静な表情、沈んだ声に少し怯み、リョウの手が離れる。ネクタイを締め直し、服を整えるシュワ。

 山の中。男シュワは語り出す。


「君はプリティサイダー……シズルランドのコンシエンシャス王女により、選ばれた戦士……シュワ」


〘 シズルランド。民やフェアリードリンクたちが平和に暮らす世界。この世界とは別次元の宇宙空間に存在する、愛とエコロジーの王国。その住民である我々は、明るく優しく穏やかな毎日を過ごしていた。

 しかし、そこに突如として訪れた黒い影。暗黒の使者、破壊の様相。

 ウェイスト王国である。彼らはある日突然現れ、僕らの国を侵略した。

 その悪の皇帝──エゴダスター。〙


「エゴダスター?」


 と、シュワが重々しく言った言葉を繰り返すリョウ。目を伏せ、静かに肯定するシュワ。割とイケメン。


「シュワ……」


〘 その手下、3Я(スリーヤール)。ウェイスト王国の面々の手によって、たちまちシズルランドは悪しきゴミで埋め尽くされてしまった。陥落する街。逃げ惑う国民。崩壊する体制──奪われる、人々の幸福。

 僕らの国、シズルランドはほぼ完全に終わってしまった。街も、人々の笑顔も、全てゴミで埋め尽くされてしまった。〙


「ま……待て待て。何なんだよ、その『ゴミ』って。そんなの掃除すりゃいいじゃねえか」


「違うシュワ……『スパークルエナジー』」


「は……」


〘 スパークルエナジー。それがこの世界の原理である。そのエネルギーの存在によって、人々の生活は成り立っている。

 エゴダスターたちが置き去ったのは、それを黒く欲望で塗りつぶしたものだ。スパークルエナジーは彼らの非道な科学技術によって、底無しの欲望、つまりゴミへと変換されてしまったのである。

 だからこの世界を救う為には、そのゴミ──闇で濁ったスパークルエナジーを浄化しなければならない。〙


「……それが、俺が変身するのとなんの関係があるんだ?」


「いい問いシュワね……答えよう」


 男はいちいち間をあけるような喋り方だ。


〘 ウェイスト王国の発明した一番の恐ろしいモノ。それが、ポイステーだ。〙


「ポイステー……あの怪物のことか」


「そう……シュワ」


〘 ポイステーはスパークルエナジーを原料として作られた怪物だ。そいつらの破壊行為によって、僕らの国も壊滅してしまった。

 しかし、だからこそ、そこに勝機があった。

 ポイステーたちを浄化する。そうして溢れ出たスパークルエナジーを、我々の手元に戻してしまえばいい。奪還作戦である。〙


「ほお……」


 いつしかリョウは聴き入っている。シュワの話し方が上手いのもあった。

 神妙な面持ちで向かい合う二人。


〘 作戦に買って出たのは、我らが王女コンシエンシャス様である。彼女はその特殊能力により、自らの身体能力を犠牲にして未来を視た。〙


「未来……」


 合いの手を打つリョウ。シュワがスッと指を差す。


「その未来に映っていたのが、君……『プリティサイダー』シュワ」


「プリティサイダー……俺!?」


 指されたリョウは確認するように、自身をも指す。神妙に頷くシュワ。


〘 王女は三人の戦士を視た。ライトブルーの光。ブラウンの光。パープルの光。

 それらの情報を基に、国の重兵や研究者たちをかき集めて開発したのが、プリティシリーズ。

 シズルランドの、最終兵器だ。

 ──加えて、現時点における敵ポイステーへの、唯一の対抗手段。〙


「それが、君だ……シュワ」


 再び指す。また、自らも指すリョウ。絶句。少しふらつく。体調が優れないみたいだ。

 シュワは一息つくと、続けざまに告げる。


「君は選ばれた戦士なんだシュワ。ポイステーたちを倒して、スパークルエナジーを取り戻す。その為に、どうかその力を貸してほしい……シュワ」


「……事情はわかった」


 長い沈黙の末に、リョウはそう言った。シュワの顔がぱあっと明るくなる。受諾した──かに、見えた。

 が、リョウは膠着していた身を乗り出す。


「『が』!」


「……が?」


「わかった……が、なんで俺たちの街に来るんだ? 一億歩譲って仮に俺が闘うとして、それならお前らの国で戦えばいいじゃねえか。そっちの方が援軍も呼べるだろうし。……大体、めっちゃとばっちりじゃねえか。フィールドが完全に誤ってるだろ?」


 捲し立て、息継ぎして、リョウは言う。立ち上がり、シュワを見下した形。


「ここ、地球! お前らの政治体制とは、違う!」


「……シュワぁ」


「『シュワぁ』、じゃねえよ! 舐め腐ってんのかコラァ゙ッ。お前らのお国のケツは、お前らが拭くんだよッ、このタコ!」


 再び踏みつけ胸ぐら。シュワのスーツがガックンガックン引っ張られ、揺さぶられる。


「ち、違うシュワ。わけを聞いてほしいシュワ! これには深い事情があって……」


 懇願するシュワ。イケメン顔は見る影もない。「あ゙あん!?」と呼応するリョウ。手をパッと離す。ドサッと落ちる。


「えーと……ウェイスト王国。彼らが目を付けたのは、人間界の大衆消費社会シュワ」


「……あ゙あ?」


「スパークルエナジーは底無しの欲望として、人間の心にも存在する。その新たなる資源を求めて、彼らは地球──この世界にも、侵略を開始したんだシュワ」


「なんだそれ。思いっきし外部不経済じゃねえか……」


 呆然、唖然、落胆のリョウ。疲れ気味である。やはり、顔色が芳しくない。


「フェアリードリンクの僕は、『使命』を受けてこの世界に来たんだシュワ。人間界を救うこと。スパークルエナジーを集めること。そして、君たちプリティシリーズに協力を仰ぐこと」


 と、突如ふらっと崩れるリョウ。若干息が荒い。顔が真っ青である。


「ど、どうしたシュワ? 大丈夫シュワか……」


「シュワシュワうるさい」


 差し伸べた手を、パシッと払うリョウ。沈んだ声。と、持ち直すシュワ。


「……とにかく、サイダー。君には協力してもらうシュワ。一緒に僕と来てほしい……シュワ」


 再び手を差し伸べるシュワ。男の手だ。

 それを見るリョウの脳裏に母親──女将の姿が一瞬、思い出される。旅館の風景とともに。


「勝手に……決めるんじゃねえッ!」


 その手を取って握る。瞬間、シュワの足を払い、見事な一本を取る。膝車だ。

 叩きつけられたシュワは受け身を取るが、ヘボい。

 と、追撃。足で全体重で踏みつける。

 やばいと察知したシュワ、緊急回避。ポンッと妖精態に戻る。

 空を切り、地を踏んだリョウの足。不発だ。

 チャリの方を向き、去るリョウ。止めるシュワ。


「サイダー! チミは……」


 妖精態に戻ったので二人称が変化している。

 が、追い打ち。リョウは素手で超スピードで地面に穴を掘って、そこにシュワを埋める。

 「うううううッ」とか唸りながら。で、土をかける。


「……知るかッ」


 捨て台詞を吐く。そのままチャリに跨る。

 と、土の中からシュワの声がする。しぶとい。


「シュワ……妙に怒ってらっしゃる……」


「あ゙あ!?」



 ■



 同時刻、昼。曇り、街の裏路地。

 捨てられた何かの部品のバネが、暗い紫色に妖しく光る。

 と、それを見下ろす黒い影 (ゴチャマゼー)、男。去る、消失。

 ゴロゴロと雷の音。怪しい雲行き、暗転。



 ■



 図書館。机に向かうリョウ。制服。パソコン利用コーナー。


「授業ブッチしちゃったな……ま、帰るわけにゃいかんけど」


 昼間。一時限目で早退したリョウは図書館に来ていた。

 パソコンを検査。情報を漁る。

 画面『プリティサイダー とは』検索、虫眼鏡マーク。閲覧、まともな応答無し。


「やっぱ出ねえか」


 ふう、と息をつく。



 ■



 同、別階。自販機コーナー。

 ガコッと落ちるドリンク。リョウがサイダーを買った。

 蓋を開け、飲む。平たいソファーに座る。

 と、貧乏揺すり、舌打ち。何やら機嫌が悪い。

 グイッと飲み干す。と、周りに客がいたことに気づく。態度の悪さに我に返るリョウ。

 が、皆の様子がおかしい。


「寝てる……?」


 本や新聞を読む人。スマホを弄る人。受付の職員。全員寝ている。

 と、『ドゴーン!』と大きな音。

 振り向く。窓の外、曇り空、ポイステー(バネ)。叫ぶリョウ、口あんぐり。


「またかよ!」



 ■



 街。山へチャリで飛ばすリョウ。顔色悪し。チラチラとポイステーの巨体の様子を窺いつつ全力でペダル漕ぐ。


「くっそ。昨日の今日で律儀な奴らだぜ。あいつ(シュワ)埋めちまったッ」


 埋めたシュワにとりあえず向かっている。

 と、リョウの存在に気づくポイステー。見下ろし、襲って来る。


「うわまじかよこっち来るッ」


 真っ青リョウ、ぶっ飛ばすチャリ。バネのポイステーの猛攻をギリギリで避けつつ走る。

 山到着。舗装された坂道をチャリで。汗だくだくのリョウ。

 と、ポイステージャンプ突進、地面踏み付け、吹っ飛ばされるリョウ。浮遊するママチャリ。同、リョウ。地面に引きずりつつ着地。大した運動神経だ。が、ボロボロ。

 ママチャリの方は向こうで転がっている。フレームが若干曲がっている。


「くそ……うおお」


 シュワを埋めたとこら辺突入。山、木々の中。探す。


「シュワ〜〜……」


 シュワの声、あっちだ。向かい、土を掘り返す。もちろん素手。指が小石を巻き込み、手がボロボロになりながらアチコチ掘る。手から出血。

 と、襲うポイステー。巨体で殴りかかる。


「ああッ」


 必死、目を瞑り祈るように掘るリョウ。

 その地面がライトブルーに光る。一条の光が空まで立ち昇る。弾かれるポイステー拳。


 変身シークエンス。


「シュワッと弾けて漲るパワー

 プリティサイダー 見・参!」


 口上、決めポーズ。(前回参照)


 戦闘シーン。

 リョウ避けつつ窺う。が、ついにまともに攻撃くらう。ポイステーのアッパー。

 宙に舞うサイダー(リョウ)。ポイステージャンプ、追い討ちで攻撃。組んだ両手をそのまま空中のリョウへと振り下げ。

 地面に叩きつけられるリョウ。下腹部を思いっきりやられた。「グフッ」と唸る。微かに血反吐。上体が地面から一回、強烈なバウンド。


 追撃ポイステー。咄嗟に本能で躱す。が、受け身も取れず、ガッガッとコンクリートを川の石の水切りみたいに跳ねるリョウ。

 ぐったり、動かなくなる。ポツリポツリ、いつの間にか雨。土砂降り、俯向けのリョウへと。もちろん上半身裸(戦闘中はアングルや本人の防御で見えないように)。


 ゆっくり迫るポイステー。笑っている。

 立ち上がるリョウ。ふらり、よろめく。

 太い血が裸足を伝う。脚に沿って流れた血(ちなみに変身衣装の柔道着は長ズボン。水色、ゆったり感)。地面が濡れる。


「シュワッ。大丈夫シュワか!?」


 突然の流血に驚くシュワ。ちょうど帯、左腰にくっ付いてる。その視点からリョウの左足に流れた血が見えた。

 下地面、赤と雨が混じる。ふと、見つめるリョウ。膝片立ち、何かに気がつく。


「違う……これは」


 顔を手で覆う。中二病みたいなポーズ。何かを悟ったらしい。

 と、ハッと面上げる。ポイステーまた攻撃、避ける。が、ガクッと膝から崩れ落ちるサイダー(リョウ)。

 

「くそ。どうやったらアイツ倒せるんだよ……」


「必殺技シュワッ」


「『必殺技』ァ?」


「『サイダースパーク』シュワッ」


「……んだそれ」


 問うリョウ。疲れている。が、瞳の闘志は消えていない。


「前回やったのと同じシュワッ。頑張って気合を溜めるんだシュワッ」


「……はっは、だいぶアバウトだな」


 自嘲する様なリョウ。が、ニヤリと笑う。光る八重歯。

 攻撃するポイステー。に、リョウのカウンター炸裂。腕で流して深い蹴りを入れる。吹っ飛ぶ巨体。

 仁王立ちリョウ。拳を握り、構え。右自護体。


 と、裸足がライトブルーに光る。ポイステーを強烈にキック。その光る足から無数の泡が一瞬に放出され、爆発する。

 必殺、サイダースパーク。


「お前の人生、リサイクルだ!」


 決め台詞。八重歯光る爽やかな笑顔。

 敵の身体が青い光に包まれ、消滅する。


 元に戻る街、山。リョウの変身も解ける(変身解除=シュワとの融合乖離)。

 と、ふらりとぶっ倒れ気絶リョウ。

 そこへ歩み寄るシュワ。人間態だ。

 その地面に意識を失った弱々しいリョウの顔を見下ろす。と、何も言わずに抱き上げる男シュワ。お姫様抱っこ。

 雨が上がり、晴れている。その雲間から差し込む眩しい光芒の中、女を抱き歩むシュワの背中。



 ■



 と、その上空。

 空中に佇む一つの影。男 (ゴチャマゼー)が見下ろしている。

 その視線の先には、シュワとそれに担がれたリョウの姿。男は呟く。


「『プリティサイダー』……報告せねば」


 一言そう言うと、にわかに消失する。瞬間移動のような残像を、一瞬だけ空に残して。

 暗転。



 ■



 旅館。部屋で寝てるリョウ。目が覚める。


「ハッ」


 上体起こす、周りを確認。自分の部屋だと気がつく。

 窓を見る、夕方。『何故?』みたいな顔リョウ。布団に寝かされていた。



 ■



「お袋ッ」


 ガラッと襖開けるリョウ。客間で接待していた女将。振り向く。


「俺、なんで、いつの間に……」


 混乱リョウ。上手く言葉がまとまらない。と、察知する女将。お盆を持って廊下に出る。ちなみに後ろで客のオヤジが手を振ってる。


「あんた……さっきの人、()い人? 野戸さん」


「は?」


 虚を突かれたようなリョウ。全く意味がわからない。把握できない。


「わざわざあんたを運んできてくれたの。今温泉入ってらっしゃるわよ。大事にしなさい」


 冷静な声で言う女将。『は?』なリョウ。

 が、すぐに思い当たる節があったらしく、真っ青。そのまま廊下を何処かへダッシュ。男子風呂直行。



 ■



 男子風呂。清掃員の格好リョウ。バーンとドアを開ける。おじいちゃんたち(身体洗い、入浴等)が『ほえ?』と振り向く。入れ歯とか石段に置いてある。

 と、そのままズカズカ進むリョウ。その先にシュワ(人間態)。内風呂の富士山の絵を鑑賞しながら、呑気に頭にタオル乗っけて入浴している。

 と、リョウに気づき振り向く。爽やかな笑顔、人差し指立てる。


「僕の名前は野戸越夫(のどごしお)……シュワ」


 イケメン。もちろん全裸。まあ色付きの湯に入ってるから見えないが。

 リョウ絶句。呆気に取られ、ピクピクと眉が動く。風呂内に響きわたる、リョウの絶叫。


「は〜〜ァ!?」

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