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第68話 セイレーンの戦士たち

 エスメラルダ号は岩礁地帯に近づいて停止した。


「ここから先は大型船が近づけない、あとは頼むわ!」

エスメラルダ号の船上からアリタリアが叫んだ。


「了解だ」

 僕とリディのヨットが繋いでいたロープを切り離した。


「時間がない、先を急ぐよ」

リディはそう言うと魔術師のワンドを取り出した。

『ーーーGaoth, seideadh !ーーー』

 リディの呪文と共にヨットは風を受けてぐんぐん速度を上げていった。


「あれは速いですなぁ。

 どうですかうちの船にスカウトしては?」

マーカス副長の意見にアリタリアはうなづいた。


「それもいいかもね。

 でも、()()()()を増やすのはどうなのかしら?」



 水深の浅い岩礁地帯に入り、クラーケンは体の一部が海上に現れた。

 クラーケンは進路上の岩を砕きながら真っ直ぐと人魚の里に向かっていく、まもなく入り江がありその先の滝を潜れば人魚の里だ。


 リディの風魔法で加速したヨットは十分の速さがあるが、それでも間に合いそうにない。


「あれを見て!」

リディが指さす先、岩の上に多くの人影が見える。

「セイレーンの戦士たちだ、何をするんだ?」



「さあ、みんなここで食い止めるわよ。」

ウェヌスの言葉に、彼女たちはうなづいた。

 そして彼女たちは胸の前で祈るように手を組み合わせると目を閉じて歌い始めた。

 その声は惹きつけられる悲しい旋律であった。


「〜私が死んで花となったら、その花をあなたに捧げます。私が死んで夜露となったら、その水は貴方を潤すでしょう。〜」


 彼女たちの前に光の壁が徐々に広がり、彼女たちを中心とした球状の防御結界が展開されていた。


「セイレーンが歌に魔力を乗せて防御結界を作り出しているのね。

 それにしても美しい音色、船乗りが魅了されてしまうのも分かるわ。」

リディは呆然とセイレーンの防御結界を見つめていた。

 

 クラーケンは防御結界が見えないかのように真っ直ぐに人魚の里ニュー向かって這いずっていく。

 クラーケンの足が、防御結界に触れると一瞬動きが止まった。

 しかし足先で味わうかのように防御結界を何度か触れるとして、その丸い防御結界を登っていき、長い足で徐々に包み込んで行く、()()()()()()()()()()()()......


「あれではだめだ! リディもっと急いで!」


「もう限界よ!」


「クラーケンは防御結界の魔力を吸収している......」


 セイレーンたちはクラーケンに囲まれて恐怖に包まれていた。

 それでも結界を維持するため、さらに歌に熱が入った。


「〜我が母なる海の女神よ、慈愛の母よ。私の身を捧げます。私の願いを聞いてください〜」


 その時セイレーンの1人が力尽きて倒れた。

 そして一人また一人と倒れていく、その度に丸い防御結界が薄くなりに穴が空いていった。


 そして、僕が見ている前で防御結界は消失した......


「あ、」

 その時ウェヌスは、自分たちを落ち潰そうとするクラーケンの目と目が合った。


(私たちは餌だったんだ......)


 防御結界が消失し、クラーケンの巨体はセイレーンたちがいた岩を飲み込むように覆い被さった。

 そして、何も無かったように侵攻を再開した。

 クラーケンが通り過ぎた岩の上には、何も残っていなかった。


「ウェヌス!!」

 僕はまた何も出来なかった......

 何が英雄だ何が勇者だ!

 僕の心は悲しみと怒りでぐちゃぐちゃだった。

 いつもならここで『暗殺の衝動』に取り憑かれて冷静さを取り戻すところだが、クラーケンに対してあまりの無力さに、自身の心が諦めてしまっていた。


 クラーケンが進んでいる

 まもなく入江に入る

 その先に人魚の里に通じる滝が見えた


 クラーケンは、長年ティアマトに取り憑いて、魔力を吸い続けてきた。

 だからクラーケンは知っているんだ人魚の味を......

 僕は膝をついて船底を見つめた。


「僕はまた救えなかった......」



 そこから遥か離れた魔王城で、突然勇者アイリスが立ち上がった。


 彼女は、相変わらずの生気のない瞳で中空を見つめていた。


「アイリス、どうしたの?」

魔王イブリンは、いつもと違うアイリスの突然の行動に驚いた。


 イブリンはアイリスの正面に立ち、その生気の無い瞳を覗き込んだ。

「フリューに何かあったのね?」

 イブリンにはアイリスの心の声が聞こえていた。

「アイリスは助けたいのね?

 私が許可します、フリューを助けてあげて。」


 アイリスは、ゆっくりとバルコニーに出ていくと、上空に右手を上げた。


 するとその右手に光の粒子が集まってきた。

 その光は徐々に伸びでいきロングソードを形作った。

 光の中は実体を伴い、アイリスの手には装飾が施された剣、『聖剣ライトブリンガー』が握られていた。


 さらに光の粒子は集まり続け、ライトブリンガーの刀身が輝きを増す。

 そして...


ーーーービジュンーーーー


 ライトブリンガーに集まった光は、エネルギーの本流となり上空に打ち出された。




『諦めないで』

 

 その時、僕の耳にアイリスの声が聞こえた気がした。

 僕が顔を上げると、上空の雲が輝きだし、雲間からクラーケンにめがけてエネルギーが光の柱となって降り注いだ。

ーーービジュンーーー


 クラーケンに落ちた光の柱は、クラーケンの胴体を焼き、さらにその足3本を切断して光が消えた。


「なんなのあれは......」

リディは突然の状況に呆気に取られていた。


「あれは僕の仲間、勇者アイリスの一撃......

 僕らにはまだ勝ち目がある!」


 クラーケンは死んだように動きを止めたが、焼き爛れた傷が徐々に再生が始まっていた。



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