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第46話 英雄vs魔女

 僕は、王の間の扉にたどり着いた。

 室内からは微弱な気配を感じた。

 その気配は、殺意どころか何の感情も感じられず、まるで眠っているようだった。

 そして僕は扉を開き中に入って行った。


「なんだここは?」

 

 窓には黒いカーテンが引かれ、明かりもない暗い部屋の中で、《《誰もいないのに多数の気配》》を感じた。


 カーテンの隙間から見えるわずかな光に目が慣れていき、暗闇に中でわずかな輪郭が見えた。

 その人影は、王の玉座に座りこちらを見下ろしている。

 ただ赤い瞳だけがこちらを見ていた。


「あなた、いい目をしてるわね。」


 その赤い瞳と目が合った瞬間、僕は過去のことを思い出していた。

 勇者アイリスらの署名が入った追放書を見せられ、追放されたこと。

 アイリスと戦い、死の間際を彷徨ったこと。

 そして、今もアイリスの心は閉ざされておること。


「あなたは、もう救われたと思っているようだけど、それはどうかしら?

 あなたを拒絶した勇者が、あなたを見放した勇者が、いつあなたを許すと言いましたか?」


「それはそうだけど、僕はアイリスを信じてるから...」


「違うでしょ? あなたは勇者を裏切り、そして勇者は心を閉した。それが事実であり、結果じゃないかしら?」


キーーーン

 その時、僕の胸元のペンダントを通じて、アイリスの存在を近くに感じた。

 それと共に、僕の視界がはっきり見えてくる。


 玉座には、腰まで伸びた黒髪と漆黒のドレスを来た女が、薄い笑みを浮かべて座っていた。

 そして、王の間の天井からは、何かわからない生き物の繭が、無数に垂れ下がっていた。

 その不気味な光景に目を見開いた。


「さすが英雄というところかしら? 勇者並の抵抗力があるのね。でもここであまり悪さはしないでね。

 子供達が起きちゃうから。」


「ずいぶん余裕じゃないか? 魔女エルゼベエト、僕は君を殺しに来たのだけど。」

僕の挑発にエルゼべエトは笑っていた。


「オホホッ、こわいこと言うのねあなた。

 私、殺されちゃうのかしら?」


 僕は、シャドウブリンガーに意識を集中し、黒い刃を発現させると、一気に玉座に迫った。

 僕の一振りを、魔女の髪の毛が蛇のよう様に変化して防いでいた。

 スキル『メデューサの髪』

魔女の持つそのスキルは、髪を無数の蛇の姿に変えていた。

 

 僕は、高速で回り込みながら切り付けてたが、蛇の無数の目は僕の動きを捉え続け、その皮膚は、シャドウブリンガーの剣を跳ね返した。


「魔女には接近戦ができないと思ってたかしら? ここまで他人に恨まれて生きてきたのだもの、私も身を守る(すべ)くらい持っているわ。

 身を守るだけじゃないのよ。」


 僕の右腕に痛みが走り、僕は距離をとった。


「蛇の牙がかすったようね。 その毒に耐えれるとは関心だけど、それもいつまで持つかしらね。」


 僕は再び攻撃を繰り返したが、徐々にその速度が低下していった。

 足を止めたら死ぬ。

その自覚はあったが、攻め手を欠いていた。

 なぜあの蛇はシャドウブリンガーで切れない?

 確かに暴竜の鱗も切れなかったけど、逆鱗には刃が通った。

 僕はいったん距離をとって立ち止まり意識を集中した。


「あら、諦めたのかしら? 距離を取ったら魔術師の間合いよ。」


 エルゼべエトはそう言って、空中に氷の刃を出現させて放ってきた。


 僕はそれを掻い潜り、再び間合いを詰める。

 そして無数の蛇に一つの頭に集中し、その目を潰した。

 目を潰された蛇は、血を流しながら垂れ下がった。

 やはり目には刃が通る!

 僕は一定の間合いを保ち、距離を詰めて蛇の目を潰していった。

 10匹を超えた頃から、明らかにその動きが変わって行いく。


 蛇を掻い潜った刃が、魔女の頬をかすめて薄ら傷をつけた。

 その傷は、瞬く間に塞がり跡も残らなかったが、魔女は焦った表情で自ら距離をとった。


「思っていたより強いのね。

 相性の問題もあるけど歴代の勇者よりも強いんじゃないかしら?」


バシャン!

 その時、黒いカーテンが開かれ、窓ガラスが割れた。

 窓の外にはコウモリの羽を生やした多数のヴァンパイアがこちらを睨んでいた。


 それは異様な光景だった。

 よく晴れた日中であったが外は薄暗く、太陽は黒く輝いていた。

 皆既日食、その状態のまま時間が停止しているような。


「ヴァンパイアが太陽の日差しに弱いというのは本当らしいね。」


「ふふふっ、それが分かって何か良い方法は浮かんだかしら?

 あの黒い太陽は私たちに力を与えるのよ。

 私はあなたの相手は飽きたから、あとはあの人に任せるわ。」

 エルゼベエトは、そう言って雛壇を上り、再び玉座に座った。

 エルゼベエトがあの人と言って目を向けた先、洋上の沖合に無数の幽霊船(ゴーストシップ)が浮かんでいた。


「まもなく、あの船団が到着するわ。

 あなたに防ぐ手段はあるのかしら?」


ドォーン!

 船団から大砲が放たれた煙が上がった後に、王都内の生活区からの爆発音がした。

 船団からの艦砲射撃が始まったのだ。


「彼らの刈り取りの時間が始まったのよ。

 この王都は餌場であり、産卵場、わかるでしょ? あなたに出来ることはもう無いわ。

 だからこれ以上邪魔をしないでね。」


 僕とエルゼベエトの間には、一体また一体と窓から入り込んだヴァンパイアが増えていき、数十体のヴァンパイアがこちらを威嚇していた。


「窓から外を見てみなさい。

 あなたはアレを見て絶望するかしら?」


 僕はエルゼベエトに言われるまま、窓の外を見ると、海岸に人影が見えた。


 あれはラヴィーネ?

 ラヴィーネは防御結界を張り、一人砲弾を防いでいる。

「あなたをすぐには殺さないわ。

 あの子がいつまで保つかそこで見ていなさい。

 そしてあなたが絶望する姿を見せて欲しいの。」 


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