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第37話 眷属化

 王城、王の間

 玉座にはアーサー国王代行が座っていた。

 そしてその隣、王妃の座には腰まで伸びた黒髪に、金色の瞳をした女、魔女エルゼベエトが座っていた。


「勇者アイリス=ブレイズをお連れしました。」

暗部機関の長エウドアが、王の間に勇者アイリスを連れて入ってきた。


 アイリスは正装こそしているものの、生気なく、その目は沈んでいた。


「アイリス(おもて)をあげろ。」

アーサーの声に、アイリスは沈んだ顔をあげた。

 エルゼべエトがアイリスに声をかけた。


「あなたが勇者アイリスね。私はアーサーの叔母にして宰相サイロスの母、エリゼベイト。

 これからあなたは、私に支えてもらうことになるわ。よろしく頼むわね。」


「はあ、分かりました。」

 その言葉にアイリスは正気のない返事をした。


『どうせ戦う気力を無くしてしまった私は、勇者として使い物にならない。

 アーサーの叔母の側仕えなんて、私に適任かもしれないな...』アイリスはそんな事を考えていた。


 するとそんなアイリスにエルゼベイトは優しく声をかけた。


「あなたは辛いことがあって心が沈んでいるのね、分かるわ。

 私がその心を癒してあげる、私、そういうことが得意なの。

 今から私の寝室に行きましょう。

 そこで私が辛いことを全部忘れさせてあげましょう。」


『この女は危険だ』

 アイリスは、心に中で勇者の血が警告を発しているのに気がついた。

 しかし、一方で勇者のスキルによりエリゼベエトの言葉には()()()()ことを感じていた。

『今の囚われている気持ちから解放してくれる。』

 その魅力にアイリスは(あらが)うことができなかった。


「分かりました...」

 そうして勇者アイリスはエルゼベエトの寝室に連れられて行った。


 エルゼベエトがアイリスを連れて王の間から出て行くのを見ていたアーサーは、その姿を哀れみの目で見ていた。


「私もこれでお前を見捨てられる。

 恨んでくれるなよ。お前がいつまでも諦めきれなかったのが悪いんだよ。」


ーーーーーーーーーーー


 翌朝、王宮執務室にてサイロス宰相による報告が行われていた。


「暗部機関から、先の戦いの報告書が上がってきております。

 敵の数は当初8000ほどの勢力でしたが、魔族領の残党おおよそ10000が反乱軍に味方をしたようで18000ほどとなったとの事です。」


 サイロスは淡々と説明していたが、そこまで報告を受けた上でアーサーはサイロスの報告を制止した。


「概要は昨日聞いている。

 王国軍3万のうち1万が消失したとな。

 で、今日は相手側の規模の報告を受けたわけだが……

 お前の説明通りだとすると、1万もの魔王軍の残党が集結し、相手側の損失が無いことになるが?」


 サイロスはため息をついて言った。

「まあ、そういう事でしょうな。

 完全の敗戦であり指揮官の失態でしょう。

 幸いにも総指揮官フランドルを筆頭に指揮官級はなぜか全員戦死しておりますが。」


 アーサーはイライラしながら言った。

「フランドルはもっとやる男だったと思ったんだがな。

 暗殺か? フリューだな。」

 

「フランドルは兄上への忠義に熱い男でした。これも『眷属化』の弊害でしょうな。

 指揮官を『眷属化』により無理やり従わせても、著しく思考力が落ちますから。

 次の戦いには、ぜひアーサー国王代行への忠義に熱い者を選ばれるのがよろしいかと。」


 自分に忠誠を誓う者などいないことを知っていて嫌味を...

 アーサーが苦々しくサイロスを見た。


「次は私自ら指揮をとる。

 敗走した者たちが戻り次第、再編し出発する。次は残った総力を持って当たる。

 魔術師も全員だ。」


「かしこまりました。

 しかし忠告しますが、魔術師連中には注意せねばなりませんぞ、あやつらは元々は賢者の部下、相手方に賢者がいる以上、どう転ぶか。

『眷属化』をしようものなら、思考力が低下し魔法の行使は難しいかもしてませんなぁ。」


「お前も他人事じゃないのだぞ。

 数が上でも、火力で負けているのをどうにかせねば。」


「それについては、母上がいい兵器を作ってくれました。それを()()()()()()()()()()()()()


 ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされた。

「エルゼべエト様をお連れしました。」

 執事の案内で、エルゼベエトが執務室に入ってきた。


「なかなか大変だったけど、私の傑作が出来たのよ。さあ入って」


 エルゼベエトがそう言うと、赤い髪の女が入ってきたが、その姿を見てアーサーは顔を顰めた。


 眷属化が施された勇者アリエスだった。

 ボサボサの髪は整えられ、花嫁衣装のような純白のドレスを着ていた。

 その顔は、まるで人形のように瞬き一つもせずその瞳からは輝きが無くなっていた。


 エルゼベエトは、笑いながら言った。

「さすが勇者ね、心が折れているのに、心の芯のところで抵抗されたわ。

 なんとか心を押さえ込んだのは良いけど、このとおり、自分で考えて行動することは出来なくなっちゃった。

 でも兵器としては、使えると思うの。

 あとはアーサーのおもちゃにでもしなさいな。」


 その言葉に宰相サイロスは満面が笑みを浮かべている一方で、アーサーは憎々しい目でエルゼベエトを見ていた。


「あら、アーサーは私の最高傑作が、あまりお気に召さないようね。」


その言葉にアーサーは答えた。

「いいえ、次の戦いは私自ら指揮を取り、勇者アイリスを使()()()打ち勝ちます。」



 そのアーサーの言葉に、エルゼベエトは満足げに微笑んでいた。



 

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