第35話 開戦
「「「おおおおおっ!」」
連合軍が守備を固めているところに、数で勝る王国軍が一斉に突入を開始した。
ビシュッ!
音と共に先頭を駆けていた騎士が落馬した。
「分団長は討たれたぞ!」
遠方からの放たれた矢が王国軍の前線の指揮官級を正確に射ぬいていった。
「うまいものだなぁ。」
近衛騎士団の騎士が、エルフの射手に声をかけた。
「鹿より遅いのだから、特に褒めていただくほどではありません。」
「鹿をこの距離で射抜けるものかよ」
騎士は、敵にならずに良かったと思った。
「次、派手なのが行きますわよ。」
最前列にはエルフの魔法兵十数人が並んだ。
「5秒後に銀の光一斉照射」
5・4・3・2
『ーsolas airgidー!』
その詠唱と共に、術師のワンドから銀の光が一直線に照射され、それが十数本、王国の陣内を駆け巡るとその光を受けたものが貫かれたかのように焼かれていく。
「前列下がれ!後列前へ、10秒後に銀の光一斉照射」
10秒後に再びその惨劇が繰り返され、王国兵の足が止まった。
さらに前後を入れ替えて更に1回づつ同じ攻撃が繰り返され、王国兵は散り散りに逃げ出していた。
「いまだ!前線が崩れたぞ!」
アウグストの掛け声により、数十騎の騎馬が前線に突入し、逃げ惑う王国兵を駆逐して行った。
王国兵は後退して元の距離に戻ると、なんとか体制を立て直した。
今の攻撃により、1000人以上の王国兵亡くなっていた。
アイグアウトは深追いをせず自陣まで戻った。
「エルフの魔導士は凄まじいですな。」
近衛騎士団長オクトの言葉にアウグストはうなづいた。
「ほんと、お祖母様さまさまだよ。
おっと聞かれたらマズイな。
とはいえこれだけの魔法は連発は出来ないらしい。
向こうが警戒してくれれば良いがな。」
「大丈夫でしょう。今相手の前線は魔法の障壁を展開しております。
警戒して次の一手を考えているのでしょうな。」
「さてどう出てくるか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
王国軍後方の天幕に置いて、第二騎士団長フランドルを中心に軍議が行われていた。
「敵にあのような多数の魔術師がいるなど計算外でした。」
副官の言葉に、軍議に出ていた宮廷魔術師長が付け加える。
「我が王国の宮廷魔術師の数に匹敵します。
しかも、前魔術師長であった賢者ラヴィーネには及びませんが、あの実力は我々より上です。
とは言えあのクラスの魔法を連発できるとは思えません。」
その意見に騎士団長フランドルは質問した。
「では数で押せばなんとかなるのだな。」
「確かに、
前線で見ていた者の話では、十数名の術師が入れ替わって2回づつあの魔法が放たれたと報告がありました。
インターバルを考えて、勢いのまま突入すれば攻略できるやもしれません。が、しかし」
「しかしなんだ。率直に言ってみろ。」
魔術師長は、嫌々ながら言った。
「その後の戦闘のことを考えれば、万に近い兵が死ぬことになるでしょうな。
防御魔法を張るために前線に出れば、我々宮廷魔術師も無事ではないでしょう。」
フランドルは苦笑いして言った。
「つまりは、やりたくはないと。
まあそうだろうな、私としてもその様な無様な戦いは本意ではない。
ではどうであろう、左手の森を抜けて背後を着くというのは。」
フランドルの案に副官が意見する。
「良い考えだとは思われますが、問題があります。
あの森は魔王の領地とされており、今でもあの森の中から多数の魔族どもがこちらを見ています。
そこに分け入れば、膠着状態の魔王軍と再び戦闘になるやもしれません。」
「魔王の兵など敗残兵だ、多くて数百ってところか、1万の兵で森を抜けて進めば、魔王の兵など障害にはならん。
多少の犠牲があっても、このままあの魔法の攻撃を受けるよりも数十倍マシだと思わないか?」
「そこまでのお考えなら何も申しますまい。
それでは後方の第二騎士団の本隊を森に進ませます。
気取られぬように前線の第一騎士団に牽制させましょう。」
「よし、そのようにやれ」
フランドルからの作戦決行の指示が出された。
ーーーーーーーーーーーーーーー
連合軍陣内において王国軍の異変に気づいていた。
「散発的なちょっかいが出されておりますが、貴重な魔法を使うほどではないかと。
こんなジリジリと消耗する作戦をとって相手になんの利があるのでしょう。」
近衛騎士団長オクトの意見に、アウグストは考えた。
「ここからは確認出来ないが、奴らの一部が後方から森に入って背後にまわるという可能性は考えられないか?」
「魔族が潜んでいるあの森にですか?」
「奴らにとっては魔族も我々も等しく敵だ。多少敵が増えても数で押してくる作戦だろう。
その証拠に、先ほどから王国軍の後方が徐々に森との隙間を詰めているだろ。」
「あー確かに。」
「ここでうだうだしている回り込まれるぞ。
森に注意を払え、相手の進行に合わせてこちらは徐々に後退させろ。けどられないようにな。」
その話を横で聞いていたリンが言った。
「賢者からの伝言です。『敵が森に入ったら変化を待て。その時が来たら全軍を突入させろ。』以上です。」
「また以上です、か? いつ来るんだよ変化って。」
リンはニコッと笑って森を指差した。
「今です!」
ドガァン!!ドドドン!
アウグストが振り返りと、森から閃光が光り、雷鳴が轟いた。
その音に合わせ、森から逃げ出して来た王国兵が本隊に押し寄せた。
ドガァン!!ドドドン!
その混乱した王国の本隊に、再び雷撃が降り注いだ。
「マジかよ!」
アウグストはしばし呆然としていたが、正気に戻り指示を出す。
「全軍突入だ! 魔法師部隊は後のことは考えずにぶっ放せ!」
「「「「おおおおーーー」」」」
連合軍は、一斉に突入を開始した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃあ行くわよ。準備はいい?」
ラヴィーネの言葉に、ラミアがうなづく。
「魔法の攻撃の後に新生魔王軍は、進撃を開始する! 準備しなさい!」
ラミアの号令がかかり、魔王軍は身構えた。
『-Roar an tàirneanachー』
ラヴィーネの呪文と共に暗雲が光り輝いた
ドガァン!!ドドドン!
雷光は森に入った王国兵を蹂躙していく。
「いまだ!進め!」
「「「おおおおおーー」」」
ラミアの号令と共に魔王軍は王国軍の側面へ突入を開始した。
「さあもう一発打つわよ!」
ドガァン!!ドドドン!
ラヴィーネの二発目の雷撃が密集した王国軍の本隊に放たれた。