第20話 脱出
王国の教会、遠い昔に造られた要塞の跡であったため、ここまで耐えられていたが、神官の防御魔法も切れかけ、もう突破されるのも時間の問題であった。
その時、見張りに立っている神官騎士から報告があった。
「神官長!王国兵をかき分けて光り輝く何かがこの協会に向かってきております。
防御魔法を展開しますか?」
オーランド神官長は、城壁に駆け上がり、自らの目で確かめた。
「あの光は神聖魔法の光だ、到着次第門を開放するんだ」
「単騎で援軍とは、酔狂なものもいるものだ、いや敬虔な信者かな。」
オーランド神官長は、独りごちた。
門から入ってきた姿を見て、神官騎士は湧き立った。
「おお!聖女エレナ様だ!」
「エレナ様が駆けつけてくれたぞ!」
「お父様、よくぞご無事で」
オーランド神官長は、駆けつけてきたエレナを抱擁すると、ため息をついて言った。
「敬虔な信者かと思ったが酔狂のたぐいか…よく来てくれた、と言いたいところだが分は悪いぞ」
「分かっております。でも、この様な状況は私は何度も潜り抜けているのですよ、」
エレナは自慢げにそう言った。
エレナの言う通り状況は一変した。
籠城戦は続いていたが、エレナの強力な強化魔法により、神官騎士は強化され、その強い弓のちからで、遠方にいる王国兵を狙撃した。
そのことから、王国兵側は包囲を一段離れざるえなかった。
また、秘密の地下通路はこの古い要塞の後にも続いており、それを熟知したリンの案内により背後への奇襲が可能となった。
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「何をやっておる!相手は5分の1の兵力しかないのだぞ!」
王都守備隊の指揮官キャメルは言った。
「はっ、昨日の光る騎馬が教会に入って以降、教会側の状況が変わりまして、やつらの防御魔法が復活し、突破できない状態となっています。」
「いまいましい! 後方に応援を求めよ! 5倍で突破できないなら10倍の兵力を持って当たれ」
キャメルは部下に指示を出した。
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その後、籠城戦は3日間続いた。
地下通路は、王国側の応援とした参戦した暗部機関の者の知ることとなり、封鎖された。
士気の高かった神官騎士たちも次第に疲れの色が濃くなりっていた。
お父様は私に言った。
「エレナ、ありがとう。
しかし、そろそろ潮時だ。お前とリンなら、この包囲を抜けられるだろう。
お前たちは脱出しろ。そしてフリードリヒ王をお前の力でお守りしてくれ、私は、お前たちが出た後に降伏する。
何、心配ない。奴らもこんな老耄の命までとらんだろうよ」
サイロスはそんなに甘くない、お父様もわかっているはず。
私は誰も見捨てたりはしない、そう決めていた。
その時、城壁の上にいた神官騎士が、何やら騒がしくなった。
私とお父様が城壁を登るとその光景が見えた。
王国の正規騎士団が旗を靡かせ、向かってきていた。
その数500騎あまり、これでこちらの10倍近い兵力となった。
その光景を見てお父様は言った。
「すまないエレナ、もう手遅れかもしれない。」
私は何もいえず、黙ってその光景を見ていた。
突然、私の立っている城壁に外側からの指がかけられた。
兵が登ってきた!? まわりの騎士は慌てて剣を抜き、私も跳び下がり身構えた。
そこからひょっこり顔が現れ言った。
「やあエレナ、久しぶり!」
それは私が恋焦がれた相手、私の英雄! 私は駆け寄ると抱きついて泣いた。
「なんでここにいるのよー」
私がいて欲しい時に彼はそこにいた。
「くくるしい...分かったから」
「姉さん、兄さん! 恥ずかしいからいい加減に離れてよ」
リンは呆れた顔で見ていた。
「リンもよく頑張ったね。」
フリューは城壁を登るとリンを抱きしめた。
「君がフリューくんか? こんなところまで来てもらってすまない。」
申し訳なさそうにいうお父様を制止してフリューは言った。
「僕は皆さんを助けに来たんです。 大丈夫です一緒に逃げましょう」
「しかしこの状況では...」
「大丈夫、北側の門は森まで距離はない、僕が合図を出したら10秒後に皆さんは門を出て森まで駆け抜けてください。
エレナは防御魔法でみんなを守って。」
「分かったわ。」
そうして教会騎士は全員北門の前に揃った。
フリューは、筒に火を点けると天に向かって照明弾を発射した。
ヒュルルルー
その光が天に登る。
10・9・8
カウントと共に空に暗雲が広がっていく
7・6・5
空は暗雲が立ち込め、雲の隙間が光始めた
4・3
フリューが叫ぶ「みんな耳をふさげ!」
2・1
『-Roar an tàirneanachー』
ラヴィーネの呪文と共に暗雲が光り輝いた
ドガァン!!ドドドン!
凄まじい雷鳴と共に北門付近を取り囲んでいた王国兵は吹き飛ばされた。
「おおおおおーーーーー」
騎馬に乗ったオーランド神官長を先頭に萌え燻っている王国兵の上を駆け抜けた。
神官騎士の一団は光り輝き、立ち上がり迫る王国兵を吹き飛ばし進んで行った。
「何してるのだ!逃すな!」
キャメル指揮官が劇を飛ばしたが
ドガァン!!ドドドン!!!!
第二波の雷が王国兵を焼き払った。
その勢いのまま百数十騎の神官兵は全員森に逃げ込んだ。
その後を、騎馬に乗った指揮官キャメルが率いる一団が追い森に入る。
「追え!逃すな!」
森の巨木の上にフリューはいた。
その下をキャメルの乗った騎馬が駆け抜けて行く。
「ここからは僕の領域だ...」
フリューはそう呟き枝から飛び降りた。
突然、先頭を騎馬で走っていたキャメルの首が落ちた。
横で共に騎乗していた副官には何が起きたか分からなかった。
「指揮官殿が討ち取られた!全員体制を立て直せ!」
そう言いった副官の首もまた落ちていった。
その後も、追撃していた部隊は、一人、また一人と見えない何かに殺されていった。
その状況にキャメルの部隊は散り散りになり敗走し、森から命から辛々逃げ出してきた兵たちの惨状を見て、森に入ろうとするものは居なかった。
こうして王国軍による教会の包囲網は突破され、教会の神官騎士は無事逃げ延びることに成功した。
「あー気持ち良かった!」
戦場の様子を丘の上で見ていた賢者ラヴィーネは、そう言うと騎馬で走り去った。