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第15話 英雄vs勇者

 エレナとリンが寝静まった深夜、僕はゴモラを抜け出した。


 ここまま僕が付いていっては迷惑がかかる。

 僕らが逃げるためには、僕にはやらなければならないことがあった。


 ゴモラの顔役ミゲーレが得た情報から、王都に帰還中であった王国軍が反転してゴモラに向かっていること。

そしてその指揮官として勇者アリシアが率いていること。

 このことから、僕への討伐部隊であることは明らかであった。


 そこで一団を大森林に引き込み、僕がゴモラを離れたことを相手に分からせること。


 大森林の大木に登り眺めると遠くからの王国兵の一団が向かっているのが見える。

 兵士たちは。長旅に疲れており、戦意は低く感じられた。

 中央には王国の旗を掲げ馬に乗った騎士の一団がいる。


 この距離では見えないが、その中央に勇者アイリスの存在が感じられた。

 また彼女もここにいる僕の存在を見ていることがわかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は胸のペンダントを握りしめてフリューの存在を感じた。

 このペンダントは、フリューと私が共に戦った(あかし)。最後の彼との繋がりだった。


「勇者アイリス、大森林は迂回してゴモラに向かうべきかと思いますが。」

 私の監視役として付けられた近衛騎士団長からそう進言されるが、私だって出来ることなら迂回したい、そう思いながら騎士団長オクトに言った。


「あの大森林に反逆者フリューはいます。ゴモラに行くことは無意味でしょう。

 私の意見を聞くならば、森に入るべきではないと思います。森に入れば多くの兵が失われますから。

 オクト騎士団長あなたならどうしますか?」

 こんな逃げるようなことを言うのは指揮官として相応しくないが、意に沿わないフリューの討伐を命ぜられたのだ、このくらいの愚痴は許して欲しい。


 それに言葉に嘘はなく私自身どうすべきか決めかねているのは事実であった。


「そうですなぁ。どうせ王都に戻ってもこの兵ら村々の略奪の責任を取らされるんです。

ここで多少死んでも反逆者を討ち取って手柄にすべきではないでしょうか?」


「多少で済めばいいけどね。逃げても私自身が責任を取らされるのだろ?

もう選ぶ道がないではないか...」


「そうですなぁ、そのまま進みましょう。」


「隊列を組んでそのまま大森林方向へ進め!」

そう騎士団長による指示が出された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王国は僕が潜んでおる森に兵を進めた。


 おかしいなぁ

 勇者アイリスなら、森の中での戦闘は避けるはずなのに。

 森が舞台なら時間がかかるが、王国兵の多くが死ぬことになる。

 僕を森から誘いだそうとしてくれれば時間が稼げるのに。

 僕はそう思っていた。


 王国の部隊が森まであと100メートルほどまで迫ったところで、一団は静止し、その一団から勇者アイリスが一人現れ歩いてきた。


 そして、勇者は聖剣を抜いた。

 勇者が森に近づくとともにくとともに、手にした聖剣の刀身が光り輝きだした。

 そして十分力を貯めたところで森を薙ぎ払う一撃を放った。


ビジュン!!


 その勇者の一撃は数百メートルほどの木々を薙ぎ倒し燃え上がらせた。

 僕がいた場所も斬撃の範囲内であったが咄嗟に飛び退いたおかげで助かった。


「本気で僕を殺す気か? 相変わらずの火力だな」

 勇者はその斬撃の跡を進みながら、再び聖剣の刀身に力を貯めていった。

 その鋭い目は僕の方向を見定めていた。


 森の中なら僕に地の利があるし、他の兵を巻き込むから乱戦では勇者の火力は使えない。

 だから単身、その火力で森を薙ぎ払う、か…でも勇者の力も無限ではないだろう。

 僕が追い詰められるのと、勇者の力が尽きるのとどちらが先か?


 そんなことを考えているうちに、再び勇者の一撃が放たれた。

 勇者は確実に僕との距離を詰めてきており、その一撃は僕がいる方向を見定めている。


 森に深く入り込んだ時点で、僕は勇者とに距離を一気に詰めた。


 ガキンッ!

 勇者の聖剣と僕のナイフが交差した。

 その瞬間、勇者が振るった聖剣の斬撃で近くの木々が薙ぎ倒された。


 強い! 分かってはいたが、簡単には勇者に勝たせてはもらえない。


 僕はヒットアンドアウェイで勇者への攻撃を何度か試みたが、その度に斬撃とともに弾き返された。


 勇者の斬撃をかわしているうち、いつの間にか僕は、渓谷の崖の上に追い詰められていた。

 下には昨夜降った雨が濁流となって流れていた。


「フリュー、そこまでよ。

 私はお前を殺したくない、諦めて投降して欲しい。

 お前の身は私が何とかする。

 このまま王国に追われて人生を無駄にするのか?」


 アイリスは悲痛な顔で僕に訴えかけてきた。

「一つ聞きたい。僕を追放する命令書に、君は署名をしたのか?」


僕の問に、アイリスは慌てた。

「あれはアーサーに騙されて! お前だとは知らなかったんだ。

本当だ許して欲しい。」


「それでは、あの命令書は偽造で僕の追放した事実はないと? それなら僕は無実だ。投降する必要は無い。」


僕の言葉にアイリスは気を落として言った。

「いやフリュー、私の意に反したものだが文書自体は王命の正式なものだ...

 それに、君は暗殺者を返り討ちにし、辺境騎士団に多くの犠牲を出してしまった。

 王国としては君をとらえねばならない。」


「それは先にお前らが僕を殺しに来たからじゃないのか?そんなの勝手すぎるだろ!

それに今お前は僕を殺しにきたんじゃないのか?」


僕はそういうと、再び勇者と切り結んだ。

「それは誤解だフリュー! 私はお前を殺したくない。

 だから、お前と二人で話が出来るよう、私は単身で森の奥にお前を誘い込んだんだ!

 私が何とかする、もう一度だけ私を信じてくれ!」


「僕に罪はないんだろ?だったら放ってくれよ。

 僕なんて放っておいて、アーサーとよろしくやってればいいんだ。

 勇者として、貴族としての立場を捨てきれないお前を信用できるか!」


「違う、違うんだ…」

 僕の言葉にアイリスは泣きながら立ちすくんだ。


 僕はその隙を見て一気に距離を詰めた。


 そして、その胸にナイフを突き立てた。


ピキィ!


 ナイフの刃先はアイリスの胸当てに垂れ下がったペンダントに触れ宝石が砕け散った。


 僕の狙いは勇者の命ではなくこのペンダントだった。

 このペンダントは、旅の途中、

   『必ずお互いを守る』

そう誓いをたてて送り合った約束のペンダントだった。


 ペンダントには交わした相手の居場所とその生死が分かるという魔法がかけられていた。

だから、僕はそれを壊さなければならなかった。


 そのペンダントを壊されアイリスは激昂した。


「なんで!なんでみんな私から離れて行くの? わたしの何がいけなかったの?」


 アイリスはその感情のまま聖剣を振るった。


 僕はその斬撃を避けて飛び退いたが、勇者アリシアの斬撃は僕の足元をえぐり崩壊させた。


「「しまった!」」


 ドガン!!!

 轟音と共に崖が崩壊し、僕は瓦礫と共に渓谷の谷底に落ちていった。



バチャン!


 勇者は、フリューが濁流に飲まれていくのをその目で見た。


「あっ…」


 勇者は、壊れたペンダントを握りしめ、その場で膝から崩れ落ちると、号泣した。



 戦闘の音が消え、しばらくして、近衛騎士団長が森に分け入ると、そこに膝を抱えてうずくまり泣いている勇者アイリスを見つけた。


「反逆者フリューはどういたしました?」


 その騎士団長の問いかけに勇者は顔をあげて答えた。


「死んだわ。私が殺しちゃった。」


 その勇者の様子を見て騎士団長は何も言葉をかけれなかった。

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