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第14話 聖都ユグドラシル

 王城執務室にてアーサー=ローゼンブルク国王代行に宰相ロイサルが報告を行っていた。


 アーサー王子は呆れていた。

「狂犬部隊が敗走して戻ってきたって?フリュー一人相手に数百人が退散してきたのか?」


 サイロスはなんとも困ったように報告した。

「その件について追加情報があります。

 どうやら、ゴモラを制圧後に兵たちが勝利の宴を開いていた最中に不意打ちにあい、騎士団長ドーベンが討ち取られたとの事です。

 襲撃者は、そのまま逃走したと...」


 「あのドーベンがか?あの素行ともかく、腕は確かだぞ。1対1でフリューに勝てるとは思わないが、100人超える兵がついてただろうに。」


「それが...ドーベンは捕まえた女を侍らせ甲冑を脱いでいたとか。

 失って惜しい人物ではありませんが、あのはみ出し者を集めた部隊を従えるのには適任だったんですがね。」

サイロスはそう報告すると苦笑いをしていた。


「それよりも大事な話が...」

 サイロスはそういうと周りの文官に聞かせないよう小声で話し始めた。

「どうやら兵に追い詰められたフリューを救ったのは、プラチナブロンドの神官服を着た女だったとか。」


「なんだと...

 聖女エレナがフリューを助けただと?」

 王子は思いもよらなかった報告に唖然とした。


「白馬に乗って城門を出るエレナ=オーランドが目撃されています。

 ゴモラでフリューを助けた女も白馬に乗っておりました、それに輝く防御魔法で、魔法や矢を跳ね返されたとの報告ですので間違いないかと。」


「ラヴィーネに続いてエレナまでもか、忌々しい!」


「それよりも、行方をくらました国王と同時に居なくなった賢者ラヴィーネの対応に急を要します。

 国王逃走に賢者が手を貸していることは明らかです。

 一旦フリューのことは捨て置いてもよろしいかと。」



 その提案に王子はニヤリと笑うと次の指示を出した。


「いや、フリューの討伐は勇者アイリスにやらせろ。部隊は狂犬部隊を付ける。

 お目付役を近衛騎士団にやらせて今回の国王失踪の失態を償わせろ。」


「なるほど、厄介者を一掃すると...良い考えです。直ちに勇者指揮の元、討伐部隊を編成させます。」


「さて国王のことだが、謀略家と賢者の読み合いは五分五分というところか?

 国王を支援する辺境諸国との街道は封鎖したのだろ?」


「姿を隠す賢者を捉えるのは容易ではありませんが、国王派の貴族は全て暗部機関に見張らせております。

 行方を特定するのは時間の問題と思われます。

 議会貴族に根回しし、この度の魔王討伐の英雄である王子への支持を取り付けています。

 賢者であろうが巻き返しは難しいかと。」


「慢心するなよ、相手は賢者ラヴィーネだ。」


「かしこまりました。」

 宰相サイロスは恭しく頭を下げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 辺境の田舎道を藁を積んだ荷馬車が走っていた。

 その荷馬車の御者席には年配の農夫が座り、荷台にはこれまた高齢の男性と、町娘が乗っていた。


 御者席の農夫は言った、

「ラヴィーネよ、この格好は逆に目立つのではないか?」


 その問に町娘は答えた。

「あらフリードリヒ、その格好もお似合いよ。それにしてもあなたが御者ができるなんて驚きだわ。」


「まあワシも、若い頃はアーサーの様にお忍びで旅をしていたことがあったからな。

 この国のことは隅々まで知っておるわ。

 なあボッタス。」


 呼びかけられ高齢の医師は答えた。

「フリードリヒ、いやあの頃はフリッツといったか?世直しの旅は楽しかったなぁ。

 このフリッツはな、こう見えて剣の腕もなかなかだったぞ。私はそのパーティで治療師(ヒーラー)をしていた。

 今は医学や薬事療法が専門だが、これでも多少の治癒魔法くらいは使える。」


「あら、剣士、治癒師、魔術師が集まったんだ。最高のパーティね。

 それよりフリッツ、行く宛があると聞いたけどどこ向かってるのよ。」


「お前さん、ワシがサイロスの傀儡(くぐつ)になっていたと言っていたが、ワシも何も用心しなかった訳じゃない。

 サイロスが知らない最強の仲間がいるのさ。

 なあボッタス。」


 ボッタス医師は愉快そうに言った。

「3人目の我々の旅の仲間か?もう会うのは30年以上ぶりだな。

 ラヴィーネ、お前さんも知っているんじゃないか? 魔術師キルケを」


「なんですって?

 あの引きこもり魔女キルケ?

 彼女が手を貸してくれるとは思えないけど。」


「それはそれ、ワシには彼女との契約があるのよ。ワシに困ったことがあった時になんでも言うことを聞くってね。」


 フリードリヒ王の話にボッタス医師は口を挟んだ。


「逆じゃよ逆、キルケに何かあったらフリッツが助けるって契約じゃろ?」


「まあそれでも助けてくれるだろうよ。()()()()()()()だからな。」



 こうして荷馬車は進んでいった。

 途中、何度が関所を通ったが、私の認識阻害の魔法により難なく通過した。

 認識阻害の魔法は注意力を低下させる程度の緩いものだが、それ故に広範囲に作用し、この変装でも警戒されることが無かった。


 荷馬車の先には大きな森が迫っていた。


「おっと、確かこの辺だな。」

 フリードリヒ王が、左腕にはめられた腕輪を掲げると、腕輪に青い光が灯り、森へと続く道が開かれた。


「この森には認識阻害の結界が張られおり、この腕輪は通行証がわりだ。」


 荷馬車は、森の中を進んで行った。

 森は整地などされていないが不思議と木々が馬車を避けるように生えていた。


 森を抜けると巨大な大木が立っており、その麓に建物の明かりが見えた。


「あれが聖樹、ここが聖都ユグドラシルの街だ。」

フリードリヒ王はそう呟いた。


 荷馬車が街に近づくにつれ、丘の上に腕を組み仁王立ちする人影が見えてきた。


 その人影は小柄な女性でその肌は雪のように白く、肩までの翠玉(エメラルド)色の髪、特徴的な尖った耳。見た目の歳は二十歳そこそこに見えるが、見た目からは歳は測れない。

 それは彼女がエルフ族だからだ。


 エルフ族の女は、荷馬車を見下ろして言った。

「懐かしい顔がお揃いのようね。

 あなたたち、私が隠遁生活してるからって不義理が過ぎるんじゃないかしら?」


 エルフの女は怒っているようだった。

「そう言うな、ワシも立場上おいそれと来れないことは分かるだろう。

 ワシもボッタスもお前のことを忘れたことなど一度もない。」


 その言葉に、エルフの女は言った。

「フリッツ、私はあなた達と別れたあとも、ずっとあなたたちを心配していたの。

 あなたには教えて無かったけど、その腕輪はね、盗聴器になってるのよ。」


「何だと!なんてことするんだ!」

 その言葉にフリードリヒ国王は慌てて腕輪を外した。


「あんたが追い込まれたら助けようと思ったのよ。でも、その女が近くにいれば私の出番はないでしょ?」


 そう言ってエルフの女は、ラヴィーネを睨んだ。

 ラヴィーネはビクッと身構えて愛想笑いをしていた。


「おい! あんた私のことさっき引きこもり魔女って言ったでしょ?

 だーれーが!引きこもり魔女よ。

 ここで引きこもってるのは、あんたのせいでしょあんたの」


「なんだキルケ、ラヴィーネ、お主ら知り合いか?」

 ボッタス医師が聞くとキルケは答えた。


「ラヴィーネ? この女の名前はメーデイア、私の妹よ。

 この女がこの聖都をほっぽらかして出歩くから私がここにいるんじゃない。好きで引きこもっている訳じゃないわ。」


 その時、それまで黙っていたラヴィーネが話し始めた。

「よくぞ見破ったわねキルケ姉さん、さすが我が姉。」

 そう言って右手にはめていた指輪を外すと長い黒髪が翠玉(エメラルド)色に変わり、耳が伸びて尖り、キルケとよく似たエルフ族の容姿に変わった。


「これは驚いた、雰囲気はよく似てるかと思ったがまさか姉妹だったとは。」


 フリードリヒが驚くと、キルケは呆れて言った。

「さすがは姉、じゃないわよ。

 俗世の賢者ラヴィーネが活躍した期間と、メーデイアが家出している期間が丸被りなんだからバカでも分かるわ...」


 怒る姉に対して妹は飄々としていた。

「そんなに怒らないでよ。

 私には私の使命があるの。遊んでた訳じゃないわ。

 それに導き手としてフリードリヒは譲ったでしょ? 立派な王になったから良いじゃない。

 今度は私の番。」


 妹が自由気ままなのはいつものことだった。


「まあいいでしょう。今回の王子らのクーデターのことは私もだいたい把握しているわ、ここは安全だから今後のことについてゆっくり考えましょう。」

 キルケはそう言ってフリードリヒらを街に案内した。

✳︎間話✳︎

掲載開始から5日目にして

PV3223

ユニーク536(2日遅れなので3日分)

ブクマ18

評価者4

ポイント72

 読み専の読者様だとピンと来ないかもしれませんが、なろうの平均からするとかなり良い成績なのでは?※別サイト調べ


ブクマ、評価とも本当にありがとうございました。


 じゃあ何でランキングに乗らないか?

 これはハイファンタジーのカテゴリーでランキング100位に乗るのに必要なポイントは100以上

 100位以内の多くが[書籍化]とか書いてあるんですよ。

 という訳で地道に読んでいただくしかないのかな?って感じてます。 


これからもご支援よろしくお願いします。


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