第1話 裏切りと追放
カクヨムで完結済み、7/26現在異世界週間11位。
なろうでも近日中に完結まで掲載予定です。
魔王が討ち取られ1週間後
勇者一行が王都に帰還し、城下町では勇者一行の凱旋パレードが行われていた。
勇者 戦乙女 アイリス=ブレイズ
聖騎士 第一王子 アーサー=ローゼンブルク
聖女 癒し手 エレナ=オーランド
賢者 宮廷魔術師 ラヴィーネ=イスマイル
馬上の4人の勇者一行に対して、群衆からの声援が送られ、一行は歓喜の声に包まれていた。
「勇者さまはあんなに美しいのに、王国一、いや世界一強いんだろ?信じられるか?」
「あぁ王子の凛々しいお姿を見て!私を側室に迎えてくれないかしら?」
「何言ってるの?あの聖女様の美しいこと。王子様と最高のカップルじゃない!」
「いやー賢者様もいい女だぜ。王子様は3人のうち誰を選ぶか賭けねぇか?俺は勇者さまだな。」
「俺は3人とも娶るに賭けるぜ。もっぱらの噂だぜ。」
「本当にこの4人だけで魔王を倒しちまうんだからすげぇよな。」
「おい、実は5人目がいたって噂聞いたことないか?なんでも陰で支えていたって話だ。
本当か嘘かは分からんが、表に出ないのはそいつが化け物だからって聞いたぜ。」
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ちょうどその頃、城門の詰所において、数名の兵士と文官服の男が一人の青年を囲んでいた。
文官服を着ているのは王国宰相で現国王の弟のサイロス=ローゼンブルクである。
サイロスは日頃着ている豪華な仕立ての服ではなく目立たぬ文官服を着込んでいた。
「お前が魔王を討ち取ったというのは本当か?」
宰相の問いに対して青年は、
「はい、僕が魔王を《《排除》》しました。」
と答えた。
そう答えた少年は、勇者一行の5人目であり斥候のフリュー、他の一行のように家名はないただのフリューだ。
背丈は高くもなく低くもなく、熟練の斥候にしては華奢な体をしている。
無造作に目元まで隠した黒髪の間から、少年の面影を残した整った容姿が見える。
歳は17歳になるが正確な誕生日は分からない孤児だった。
宰相はフリューに冷たい目を向けて言った。
「お前の役割は分かっているな?
お前は最初から勇者一行にはいなかった。
この意味は分かるな?」
「はい、僕は勇者一行にふさわしくない。
最初からいませんでした。」
そう言ったフリューの目は諦めていた。
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僕は10歳の時にその戦闘センスが見い出され、孤児院から王国の暗部機関に引き取られた。
そこで育てられて得た暗殺スキルを磨き、14歳の時に斥候として勇者一行に加えられた。
分かっていたんだ。僕のスキルは王国で禁止されている犯罪者のスキル、表向きは斥候などと言っているが、本当は暗殺者だ。
「分かってるじゃないか。」
と宰相はニヤッと笑うと、フリューに金の入った皮袋を手渡した。
「魔王を討ち取ったのは勇者と王子だ、これでこの国は安泰だ。
暗殺者が魔王を殺したなど王国民に言えるか?
お前は最初から居なかった。
この金で城下から離れた場所で暮らせ、この王都に戻ることは許さん。」
僕は戦いが終わったら勇者の仲間から追放される。
これは旅立つ前から分かっていた。
でも...旅の途中で《《彼女》》は言ったんだ。
『終わったら私が守ってあげるから信じて』って。
戦いは辛いことも多かったけど、僕にはそれまでの白黒の世界から、カラフルに色付かれた世界に変わったようだったんだ。
だから彼女の言葉は人間らしく生きたいと願う僕の希望だった。
「宰相閣下、一つだけ教えてください。
僕が追放されることは勇者達には伝えられているのですか?」
僕の質問に対して、宰相はニヤニヤして懐から巻物を取り出して僕に見せつけてきた。
その巻物には、
『暗殺者シャドウエッジをこの国の法に従いローゼンブルク王国からの追放を命ずる。
国王 フリードリヒ=ローゼンブルク』
と書かれていた。
さらにその下に
申立人
勇者 アイリス=ブレイズ
聖騎士 アーサー=ローゼンブルク
聖女 エレナ=オーランド
賢者 ラヴィーネ=イスマイル
と直筆の連名で書かれていた。
宰相は笑いながら言った。
「シャドウエッジ、貴様が納得しないことを想定して国王の命令書を用意しておいた。
勇者一行の連名でな。 3人も納得しておる。」
フリューは勇者が付けてくれた僕の名前、シャドウエッジは、暗部機関でのコードネームだ...
僕が呆然としていると、宰相は続けて言った。
「勇者達3人の美姫は、アーサー王子に娶られる予定だ。
婚約は近々魔王討伐の報告をするための国王との謁見の席で発表される。
この署名こそがその証拠だと分かるな?
もう諦めろ、王都に貴様の居場所は無い、貴様の貢献に報い、私の権限で王国内の滞在は不問とする。
故郷にでも帰って名前を変えて静かに暮らせ。」
そんなの嘘だ、彼女達が僕を裏切るなんて...でも...
僕の鑑定スキルは書類は本物だと言っている。
それ以前に、署名は間違いなく4人の筆跡だ...人物鑑定スキルをもってしても宰相に嘘は感じられない。
僕の彼女たちへの信頼とは裏腹に、僕の理性は彼女たちに捨てられたことを確信している。
もう僕にはこの国に居場所はない。
今までのカラフルな世界から色な失われていくようだ。
もう彼女達の幸せな顔なんて見たくない。
いや見れない...
逃げよう。
「分かりました。僕はこの国を出ます。」
そう言い残すと僕はひとり城門を後にした。
残った宰相は、横にいる黒装束の男に耳打ちをする。
「城から離れたらあいつを処分しろ。 奴は手練れだ。暗部機関の総力を投入しても構わん。
失敗は許さんぞ。」
「了解しました。暗部機関の暗殺者20名を差し向けます。」
そういうと黒装束の男は消えていった。
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勇者一行は凱旋後、次に控える国王への謁見の為、控室にて待機が命ぜられていた。
そこには赤毛のショートヘアの凛々しい女性が立っていた。彼女は動きやすい服に革製の胸当てとラフな格好をしているが、腰にはその服装に不釣り合いな豪華なロングソードを帯剣していた。
アイリス=ブレイズは、辺境の騎士の名門ブレイズ家の一人っ子として生まれ、そして勇者として魔王討伐の任務を果たし王都に凱旋した。
私はアイリス、城門からの入った際に門の衛兵にフリューが呼び止められていたことは気づいたが、その後、この場に来てないことが心配になった。
「フリューはここには来てないの?」
私が尋ねると、控室で国王への謁見の流れを説明していた宰相サイロスが答える。
「斥候フリューは、自身の出自が皆さまの今後の未来に足枷になるから...と言い残し、自らこの国を出ました。」
と宰相は淡々と話した。
嘘ね...私は直感的にそう感じた。
宰相は、私に疑いの目を向けられている事に気づくと、ムッとして
「斥候フリューから手紙を預かっています。」
と言い、懐から出した手紙を渡してきた。
『王子そして勇者、聖女、賢者へ
仲間の未来のため私は旅に出ます。
勇者アイリス、聖女エレナ、賢者ラヴィーネ、貴方たち3人と王子とのご結婚を心から祝福します。そして王子、3人を幸せにすることを約束してください。
フリュー』
確かにフリューの筆跡に間違いない。
私のスキルで見ても偽造ではないと判断できる。
それでも...私の直感はそうは言っていなかった。
手紙は、4人が順々に回し読みした。
アーサー王子は「フリュー、君との約束を誓うよ。」と言った。
エレナは手紙に目を落とすと、何も言わず悲しそうな目をして俯くだけだった。
そして賢者ラヴィーネは、「馬鹿なことをしたものだ。」と独りごちた。
「皆様にはこの後国王陛下と謁見をして頂きますが、謁見に先立ち国王陛下からの下命を受け賜っております。」宰相は恭しくそう言うと懐から巻物を取り出した。
「新たな下命を読み上げます。
『勇者アイリス=ブレイズ、聖女エレナ=オーランド、賢者ラヴィーネ=イスマイル、三人は第一王子アーサー=ローゼンブルクとの婚姻を命ずる。 第一王子アーサー=ローゼンブルク、前記3人との婚姻を命ずる。
国王 フリードリヒ=ローゼンブルク』」
宰相がそう告げると、高々と命令書を4人に示した。
「「「「下命承りました」」」」
4人は膝を付き頭を垂れるとそう返した。
『国王の下命は絶対』
それは不文律ではあるが、紛れも無い王国の規律。
たとえ勇者であろうとも、この王国に住まう限りその規律に逆らうことは出来ない。
4人にはそれぞれ思うところがあるだろう。
アーサー王子などは晴れ晴れとした顔をしている。
聖女エレナは、思い詰めた顔をしているがどちらとも取れない。
賢者ラヴィーネは、「やれやれ、ね」と呆れていた。
私、勇者アイリスにも思うところはある。
アーサー王子に恋愛の情など感じたことはない。
しかし、私には親から譲り受けた貴族としての立場があり、貴族に生まれた以上婚姻の自由などない。
それに国王には、私が子供の頃に両親を亡くしたあと、王が後見人となってブレイズ家を支えてもらったご恩がある。
私は、王国の王妃の座などを望んではいないが、このような運命になることは旅の途中から容易に想像が出来た。
私は、魔王討伐の旅で斥候フリューを知った。
彼は魔王討伐という使命に、名乗ることを許されない5人目の勇者一行として参加した。
彼が暗部機関に育てられた境遇に苦しみながら、それなのに、誰よりも身を挺してこの勇者一行を支え続けていた。
「この程度のことなんて人殺しの練習より全然ましですよ。」
どのような危機でも、一番の年少者の彼が皆んなを元気付けていた。
参加した時は14歳の少年であったが、この3年で驚くほど成長していった。
そんな彼を私は好ましく感じていた。
年下だし、身分の違いがあるから、積極的には彼への好意は示せなかったけど。
この使命を達成できれば私にも上級貴族同等の権限が与えられる。
それに望みはしなくとも王妃の立場があれば、暗部機関の日の当たらない場所から表に出してあげられるとそう感じていた。
だから彼に私を信じるようにと約束したんだ。
それなのに私の意図しない方向に話は進んでしまい、実質的に私は彼との約束を反故にし裏切ることになってしまった。
フリュー、貴方は今どこにいるの?
魔王討伐において、私のスキルはどうにも相性が悪く、最終的には魔王は斥候であるフリューにより倒され、私達がたどり着いた時には、王の間は血で染まっており、その中、返り血を浴びたフリューが一人立っていた。
魔王の遺体はすでに消滅しており、消し炭だけが残っていた。
私自身が魔王を倒せなかった事に、勇者として不甲斐ない気持ち、魔王討伐を成し遂げたフリューへの尊敬と、また強き者への嫉妬など複雑な感情を感じていた。
しかし、一番の思いは、フリューの境遇から魔王討伐の手柄を私と王子のものにしたことに強い負い目と、結果フリューを追い出すことになってしまった罪悪感にかられていた。
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※7/27日をランキングin目指して集中掲載日とさせて頂きます!
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